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途絶えた家系とヒノカワ様の苦悩

 同じような話が続くので、訪問した村を一つスキップしています。

 島の南端に近いヒノサキ村に到着した時、門番が酷く驚いた顔をしていた。変だな? 一つ前のヨイヒト村から言霊を飛ばしておいた筈だ。まあ、100㎞以上の距離を一日程度で走破されれば、驚くのは普通なのか?


 そして、そのまま案内されて、村長の出迎えを受けた。ヨイヒト村から無人地帯の偵察で寄り道をしたため、既に7月27日の昼をかなり過ぎた時刻だ。


「言霊で、ゲキリュウの爺さんに連絡しておいたはずなんだけどな。何かあったのかい?」


 ヒノカワ様の問いかけに、村長が沈痛な顔で、答えた。


「ゲキリュウ様は、二ヶ月程前に亡くなりました」


「あちゃ~。ゲキリュウの爺さんも亡くなったのか……。惜しい人を亡くしてしまった。心からお悔やみ申し上げます。

 でも、とすると、ヒノサキ村でも魔術士の家系が途絶えた事になるのか」


 マワリ川村から南に約55㎞のヨイヒト村から飛んできたが、ヒノサキ村はヨイヒト村から南南西に約113㎞もある。此処に、治癒術士が居なくなるという事は、全く当てが無くなるという事か……次の目的地のシカガミ村は、東北東約54㎞だが、海を挟んでおり、怪我人を運べるような場所でもない。


 相当に深刻な事態じゃないのか?


「ゲキリュウ様は、後継者たる人を何時も探しておられましたが……ついに見つからず、我らとしても此れからどうしていけば良いか。苦慮しております」


「治癒術士は、本当に貴重なのに、本当に辛い。この島の未来はどうなってしまうんだろう」


 そのまま、村長とヒノカワ様は、沈痛な顔で黙ってしばしの時を過ごした。




「嘆いていても、仕方がない。

 訪問の理由だが、此方に居る戦鬼タツヤ殿を紹介しようと思って来たんだ。こんな幼児だが、既に僕に比肩しえる大魔術士の上に、北部大連合という大勢力を成立させた、超の付く実力者だ。

 今後、大戦が起きた場合は、僕と伴に救援に来てくれると思う。よく覚えておく方が良い」


「紹介いただいた、トンビ村のタツヤだ。戦鬼と呼ばれることもあるが、見ての通りの可愛い優しい幼児だから、そんなに畏まらないでくれ。今度、熊村のイモハミ婆さんを議長とした、北部大連合が成立することになった。ワシは、副議長になる予定だ。

 ヒノカワ様に紹介頂いたように、今後は大戦に積極的に対応していく予定だ。此方の方面で大戦が起きた場合は、色々協力して貰う必要があるから、お見知りおき頂きたい」


「おお、それはそれはご丁寧に、非常にお若いのに確りしたお方で頼もしい」


「半信半疑だろうけど、タツヤ君は強いよ。今年の大戦は島北部で発生したけど、タツヤ君が徹底的な手を打ったお陰で、圧倒的大勝利になった。

 妖魔王は、タツヤ君が瞬殺した。標的になったシカ村の攻防での戦死者は3名だけだった。何より、そのまま無人地帯の奪回までやってのけた。

 彼は、この島の最大の希望なんだと思う。多くの魔術士を育て上げているイモハミ婆さんと、その最強の弟子のタツヤ君なら、この島の状況を根底から改善しえるかも知れない。此処は、余りにも遠くて、影響が及ぶのに年月が必要だけど、希望の光もあるのだと……僅かでも慰めになってくれれば……」


 その夜の歓迎の宴では、ヒノカワ様は、少し沈んだ感じだった。

 翌日、次の目的地への移動中、ヒノカワ様が沈痛な声でワシに語った。


「僕が、大戦に対応するようになって、30年近くになる。その間、魔術士の家系は減る一方だよ。9つの村が、魔術士を喪った。

 このままでは、いずれ島の大半が無人地帯に変わってしまう。治癒術無しでは、人口が減り続け、いずれ妖魔の大襲撃で村が壊滅してしまう。


 ここは本当に酷い大地だ。


 僕は、その中で多くの期待を集めて来た。判っている。僕が大魔術士だから、女がチヤホヤして、股も簡単に開いてくれる。期待を利用して美味しい思いを随分してきた。

 そのせいで沢山の子供がいる。更に、隠し子も皆、大切にして貰っている。


 僕の死後、苦闘と幸せの証しが失われると思うと、狂ってしまう。妖魔に奪われるぐらいなら、自分自身で壊したくなる」


 ヒノカワ様ですら、そんなに苦悩するのか……


「ワシが、何時か必ず状況を変える。子や孫たちに良い世を残せるように変えてみせる。今、そう誓っても、どの程度真実味が出るのだろうか……」


「無様な繰り言を吐いてしまったね。安心して、君には大きな期待を持っているんだ。信じているよ。僕だって子や孫、ひ孫の為に協力は惜しまないさ」


 それから、島の有力村と無人地帯を廻り8月9日の夕方に熊村に到着した。吃驚したが、ヒノカワ様の嫁が居る村は、猪村以外にも3つもあった。隠し子に至っては……どの村にも居そうな雰囲気だった。


 強者が、ドスケベに思われるのは……当然の話じゃないか‼


「別に、嫉妬する必要ないよ。君も好きなようにすれば良いだけだよ。強い男に惚れる女性は、沢山いるよ」


 ワシ、幼児なのですが……


 まあ、そんな事はどうでも良いが、この旅の成果はかなりのものだ。目論見通り地域情報把握を取得した。しかも、ヒノカワ様が持つ魔物分布だけでなく、魔術士の分布まで把握出来るようになった。


 旅を総括すると、7月17日に熊村を出発して8月9日に帰還するまで、泊まった村は猪村を含めて11村ある。ヒノカワ様に紹介してもらった魔術士は、9村の18人だ。8つの無人地帯の偵察もした。途中で、殲滅した繁殖地も13もある。

 挨拶廻りで、頼もしい味方と意識してもらえた……はずだ。


 しかし、島を巡って、イモハミ婆さんの偉大さを改めて思い知った。島の魔術士の過半が、イモハミ婆さんの弟子だ!ヒノカワ様が頭が上がらないというのも納得だ。


 ちなみに、この旅の旅程表を整理すると次のようになる。


 7月17日猪村着

 7月19日兎村着

 7月20日ワタリ村着

 7月23日マワリ川村着

 7月25日ヨイヒト村着

 7月27日ヒノサキ村着

 7月28日シカガミ村着

 8月30日アサヒ村着

 8月2日タミサキ村着

 8月4日オカカワ村着

 8月6日ハモ村着

 8月9日熊村着


次からは、新章に入ります。

9村の18人には、猪村のメイさんも含みます。


H30.5.6 ヒノサキ村からシカガミ村の方位を修正

修正前 東

修正後 東北東


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