ワタリ村〜魔術士の家系の姉妹〜
文字の無いこの社会では、絵が非常に重要だ。この旅で立ち寄る村々でワシの似顔絵を作って貰おうと考えている。
幾ら急いだって限界がある。絵が描きあがるのを待つ間、ハヤドリや戦士達に、七村連合での色々な戦いや噂話をして、出来るだけ馴染んで貰うようにした。
そして、昼飯前に、絵師の女性がワシの似顔絵を持って来たが……血塗れの恐ろしい姿で吃驚した。こんな風に見えているんだ……
「勿論、今の優しそうな姿も描きます。対比させて、『優しいけど、強く頼もしい』事をイメージさせようと思います」
イカンイカン、不満な顔を見せれば、また騒動が起きかねない。
そして、ヒノカワ様と一緒に、昼過ぎに兎村を飛び立つた。
ここから、ワタリ村までの直線コースの大半は海だ。疲労度合いと相談しながら、出来るだけ早く飛び越えたい。疲労回復を安全に掛ける為に、一度だけ着陸したが、他はかなりの速度で進んだ。
その途中、ハヤドリの鑑定結果について、考えていた。ハヤドリは、昨日の殲滅戦でSPを1取得している。戦闘要員としては、丸くなっていただけで全く貢献していない。治癒についても、魔術無しの応急処置をしただけだ。誰がどんな基準で、『戦果への貢献度』を評価したというのだ? それとも、単にギリギリSPが増えるタイミングだったということか?
「君は、何をバカなことを言っているんだい。ハヤドリの貢献を認めているのは、君だけだよ。実際、ハヤドリの貢献なんてそれほど多くなかったんだから。戦士の士気を上げた? それなら、村中の若い娘全てが貢献を認められなければ可笑しいじゃないかw」
ワシが、ぶつぶつ言っているのを聞いたヒノカワ様が呆れたという感じで指摘した。まさか! でも、もしそうだとすると……
「ヒノカワ様ありがとうございます。ワシは全然気づいていませんでした」
「まあ、君は見ていなかったからね。さて、そろそろ、ワタリ村だ。ワタリ村の魔術師は、ツバキというんだ。良い女だよ。僕との間に、子供も居る。悪いけど、僕は、久しぶりにあうツバキと、家族水入らずになりたいから、タツヤ君は一人で上手くやってね。
多分、妹のアジサイさんが、真面目に対応してくれると思うよ」
ヒノカワ様は……まあ、羨んでも仕方ない。
体感で1時間程、7月20日の午後まだ早い時間に目的のワタリ村についた。ヒノカワ様は、そのままツバキさんの所に向かった。ワシは、戦士に案内されて、村長とアジサイさんに会った。
「唐突な訪問申し訳ない。トンビ村のタツヤです。今度、北部大連合という連合が作られることになって、その副議長として挨拶周りにお邪魔した。見ての通りの幼児で恐縮だが、お見知りおき下さい」
「戦鬼タツヤ殿ですね。用向きは、姉への言霊で聞いていましたが、本当にお若い方で驚いています。私は、アジサイと言います。こちらこそ、よろしくお見知りおき下さい」
そして、暫くアジサイさんやワタリ村のタナミ村長とお互いの状況の紹介などした。そのうち、アジサイさんが、待ちきれないという感じで、話題を変更した。
「開眼から1年程で、ヒノカワ様に比肩する魔力を持っておられる。妬んでいるようで恐縮だが、秘訣があるなら是非にでも教えて頂けないだろうか」
「その手の話は、秘儀の話として、開眼済みの者限定だ。悪いが、他の方は席を外して貰えないだろうか」
「気が利かぬ事で申し訳ない。皆、席を外すぞ。念のためだ。隣の小屋の者も外出させろ」
村長が、素早く席を立った。いやいや、そんなに慌てなくても。ワシは、白湯を一口飲んでから切り出した。
「魔力が大きい理由自体は、秘密じゃ無いんだが、他に話したいこともある。
実は、秘訣など無い。ワシの魔力が巨大なのは、妖魔を多数──もう100匹の十倍以上になる──倒したからだ。
強いて言えば、早い段階で魔力矢という技を確立したのが有利に働いた。だが、自分で言うのも何だが、ここまでに大変に苦労した。多くの戦士が献身的に協力してくれたのも大きい」
ワシは、リュウエンさんやスミレ坂の例も挙げながら魔術の強化と戦果との関係を説明した。
「周り中の妖魔を刈り尽くす勢いで戦い続ける。だから、戦鬼。私の覚悟は、まだまだ甘々だったんだな……」
「で、ここからは、本当の秘儀の話だ。開眼前の者には知らせない。そう、決めている。クニ時代からの家系で且つ兄弟で魔術士のアジサイさん達には実感が無いかも知れないが、魔術の才能は遺伝しない」
魔術について、共有する事にしている情報の説明を開始した。
「魔術の才能は遺伝しない。それは、それほど意外な話ではないよ。先祖たちが、『自分だけは例外であってほしい』と願っていた事だ。このワタリ村も同じだが、クニ時代からの魔術士の家系は、基本、養子で継承されている。
私と姉も血は繋がっていない。二人とも義理の母の養子なんだ。才能があるものが2人見つかったから、二人とも養子にして、姉妹とした」
そうなんだ!
「姉が、ヒノカワ様に近づいた切っ掛けも、強力な魔術士なら、魔術の血が濃いかもと思ったからだ。でも、まあ切っ掛けが何であれ、見ての通りの状況で……あてられてしまう」
「そんな事情があったとは、全然知りませんでした。魔術士を確保する為に、どこも努力を重ねているのですね。それはそうと、ヒノカワ様は何日位滞在するのが普通ですか? その間に、ワシが何をするべきか考えたいので」
「3日ぐらいかなぁ……水を差すと怒るので基本放置だ。まあ、食糧を確保する為に姉上は時々出てくるから、様子を聞くようにするよ。
顔見せの宴や絵師は、此方で手配するので、自由に寛いで過ごして欲しい」
次は、マワリ川村です。
H31.3.24ワタリ村の村長の名前をタナミとした。




