兎村訪問〜姉弟子の故郷〜
ハヤドリは、前作の11話「ハヤドリが泣いた理由」で出てきた少女です。
「せっかくだから、ハヤドリに会ってみようか? 懐かしいだろ。兎村は、次の目的地への中継点として丁度いい場所なんだよ。ああ、次の目的地は南にある島だよ。そこに、クニ時代からの魔術士の末裔が居るんだ」
歓迎の宴も終わった7月19日の朝、宴会後にしては珍しく早く起きてきたヒノカワ様がそう告げた。嫌がる理由は全くないな。
ワシとヒノカワ様は、そのまま飛行を開始した。
「君の疲労回復は、便利そうだね〜。上手く使えば、航続距離が格段に延びるんじゃない?」
「はい。そうだと思います。ただ、飛行中に疲労回復を使って、そのまま墜落した経験があります。飲食や手洗いもあるので中継点は必要だと思います」
「でも、大戦の時に飛びながら使っていたような気がするけど?」
「はい。魔力操作がL3に上がってからは、安定的に使えています。一度、ヒノカワ様に掛けてみますか?
祖霊よ、勇者に活力を」
「結構、楽になるねw 少し速度を上げよう。疲れたら、また掛けてねw」
そして、あっという間に、兎村に到着した。
「ヒノカワ様。おいで頂きありがとうございます。今日は、どのような御用でしょうか。それと、其方の方はどなたでしょうか」
「ワタリ村にお邪魔するための中継点だよ。特に、悪いことは起きていないから安心してw 少し早いけど、昼飯が食べたいな。こちらは、大魔術士である戦鬼タツヤ殿だよ。今度、北部大連合の副議長になる予定なんだ。
そうそう、ハヤドリは居る? タツヤ殿が懐かしい顔を見たいと言っているので、昼飯を一緒にしたいな」
旅人小屋に村長と一緒に入って直ぐ、ハヤドリがやって来た。
「ヒノカワ様と……本当にタツヤさんなの……驚いたわ。あれから、1年強しか経っていない。それなのに、此処まで来るなんて……」
何故か、ハヤドリが絶句していた。
「うん? タツヤ君? 若しかしたら、ストーカーとかしてたの? ハヤドリがこんな遠くまで追いかけてくるなんてって驚いているよ?」
ヒノカワ様が酷い誤解をした。
「違います! 開眼した翌日に、タツヤさんが『行き合えるようにしたい。遠い夢かも知れないが、いつか必ず達成する』と言っていたのを思い出しただけです。遠い夢をたった1年強で……余りにも常識外れで絶句しただけです」
「www なんだwww ハヤドリは酷い誤解をしているなw 僕たちは、飛んで来たんだよ。別に、簡単に行き合えるようにしたわけじゃないよ。
命懸けで、熊村までの行き返りをした。そのハヤドリなら、難しい事が分かるでしょw
あ、でもタツヤ君の勢いだとアッという間かも知れないね。既に、ヒヨドリ村とサバ村までは安全に行き合えるようにしたんだよね。ついでに、兎村まで打通したらw ハヤドリが感激して、タツヤ君に惚れるかも知れないよw」
「悪い。少なくとも今年と来年は無理だ。ワシは、次の大戦への準備に集中しなければならないし、他の部隊も連合内の打通作戦で忙殺されると思う。北部大連合外まで、遠征できるようになるまで、何年掛かるか予想が付かない」
「「「…………」」」
「因みに、『再来年の大戦は、此処で起きるよ』と言ったら、どうなるの?」
猪村は、打通済みのヒヨドリ村から西南西に約40km、北の海沿いのサバ村からなら南に約21kmか。猪村からここは南東約30kmか……頑張れば、打通可能な距離だな。
「ヒヨドリ村を起点にするか、サバ村を起点にするか……兎に角、圧倒的大勝利を収められるよう、猪村を含めて打通するだけだが???」
「「…………」」
「ハヤドリ判るかい。これが戦鬼タツヤ君の『遠い夢』の定義なんだよw
まあ、冗談はさておいて。考えてみれば、タツヤ君を真似て、僕がサバ村から猪村、猪村から兎村の経路を確保すれば良いだけだね。猪村の戦士を鍛える為にも、今年中にやっておくよ。
厳しく鍛えておかないと、北部大連合から援軍が来た時に、猪村の戦士が『弱い』と笑われる事になりそうだw
僕が楽隠居する時には、猪村辺りもタツヤ君の大連合に加えて貰う積もりだけど、それ以前でもお互いに行き合って協力し合うのに遠慮いらないよね」
今、ヒノカワ様がさらりと重要な事を言ったような気がするが……気のせいじゃないよね。
「話は変わるけど、ハヤドリの成長具合はどう? 僕には順調に見えるけど、鑑定持ちのタツヤ君ならもう少し詳しい事が分かるんじゃない?」
そうだなあ、魔力を見ると成長が早い気がする。才能とかあるのかも知れないな。ワシは、ヒノカワ様からハヤドリに視線を変えながら鑑定の許可を求めた。
「悪いけど、ハヤドリ。少し調べて良いかな? 別に痛かったり、傷ついたりはしないから」
「はい? も、勿論です。 この場で服を脱いだ方が良いですか、それとも……」
何を誤解したのか、ハヤドリが真赤になりながら、震える声で零した。アチャチャチャー
「違う違う。服なんか脱ぐ必要ない。どんな技量を持っているかを見破る『鑑定』という魔術でハヤドリを観たいだけだよ。それで、魔力が順調に成長しているか確認したいだけだ」
「タツヤ君、これだよ。何故か、『強者は無茶苦茶スケベで、突然無体な事を強いて、逆らえば酷い目に合わされる。』そう見られるんだよ。
確かに、僕には妻が何人も居て、彼方此方に隠し子が居る。だから、女にだらしないのは否定しない。でも、無体な強要をした事は一度もない。
さらに、タツヤ君は、幼過ぎてそんな事考える訳が無い。
それなのに、この反応なんだよ。タツヤ君。顔を売っておいた方が良いって、判ったでしょ。顔見知りのハヤドリにすら誤解されて傷つかなかった?」
「「も、申し訳ありません。何卒お許しを」」
そして、何故かその晩は泊まる事になって、近い繁殖地を一つ潰した上で戦勝と歓迎の宴会が開かれた。ヒノカワ様を宥めるために、艶やかな踊りが多かったが、皆で楽しく踊り合う曲も混じっていてワシも満足だった。なお、ハヤドリの舞はやはり上手だった。贔屓目かも知れないが、技量は村一だろう。
そうそう、ハヤドリは、魔術の才能「小」に加え、超努力家の才能がある。将来の成長が楽しみだ。
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ハヤドリ
力強さ8、素早さ12、器用さ15、持久力7
頑強さ7、注意力10、魔力10
HP5、MP10、TP5
呪術士技能L2(SP3)、舞踊L3(SP3.5)、歌L1(SP1)、応急手当L1(SP0.5)
薬草知識L1(SP0.5)、薬作成L1(SP0.5)
魔力操作L0(SP5)
魔術の才能「小」(魔力操作取得に必要なSP10、個別魔法SP2)
舞踊の才能
精神・肉体技能才能(治療関係限定)
超努力家(魔術を学ぶ機会がある場合)SP取得効率2倍
次から、三話連続でハヤドリ視点です。




