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中つ国の王座の在処(前編)

 12月22日、必死に時間を遣り繰りしてワシはトンビ村に戻った。そのワシをアマカゼが村の離れの小屋に案内した。そこには、クマオリ村長とこの村の最長老のマウソラさんが居た。


「タツヤが真名を唱えた事に関係して、話しておかねばならぬことができた。そして、タツヤにも率直に話して欲しい事がある。

 ああ、それと、マウソラ婆様の口は、非常に堅い。だから、あの話についても此処では隠さなくても良い」


 クマオリ村長は、(にが)り切った顔でそう告げた。村長とマウソラさんとってはそれだけ深刻な話なんだろう。


「それなら、お願いします」


「まず言わねばならぬ。中つ国は完全には滅びていないし、王位の継承も続けられている。

 ……

 何故、一切驚かぬ?アマカゼからは、何も告げなかったと聞いているが。他に誰かタツヤに話した者がいるのか?」


 探知の魔術で中つ国の王座についての秘伝を見つけた時はビックリした。半ば以上が土に埋もれた大岩の中に木簡が入っているなんて、正直想像しなかった。内容を確認して、そうした理由は分かったが、当事者を前に何を語れば良いのだろう。


「存命の者の中で、ワシに中つ国の王座について語るのは、クマオリ村長が初めてだ。ワシが知っているのは、フブキ様が残してくれた秘密の文書──秘伝──を読んだからだ。

 断っておくが、フブキ様は、この件に関して当事者ではない事は理解している。

 だが、フブキ様はフブキ様で想うところがあったのだろう。後世に残す為の厳重な処置を施して、秘伝を残されていた」


「フブキのクソ野郎が秘伝を残しただと! キット、免責される為に出鱈目(でたらめ)を書いただけだよ」


「出鱈目を書いた。確かにありえる。ワシもその可能性を考えた。だから、この秘伝だけは、ハテソラさんやアマカゼにも公開していない」


 歳に似合わぬマウソラ婆さんの怒声に対して、否定しないように注意しながらワシは応じた。

 そして、マウソラ婆さんを抑えて、クマオリ村長が説明を続けた。


「マウソラ婆様、説明は私がすると言ったはずだ。婆様が感情に任せて言い募れば、タツヤに無駄に不信感を抱かせるだけじゃ。

 タツヤ失礼した。だが、タツヤには冷静に公平に話を聞いて欲しいと思っている。

 さてと、タツヤも背景をある程度は知っているなら、結論から話そう。今、中つ国の王位を継いでいるのは私だ。私の曾祖父の代から、このトンビ村が中つ国であり、村長が中つ国の王だ」


 今から75年前、つまりハテソラ暦前74年の王宮虐殺事件で、中つ国の王族は皆殺しになった。その事件後、王宮に仕えていた者のうち行く当てが無い者を保護する目的で、トンビ村が作られた。だが、王家の血を引く者のうち、庶子や遠縁の数人は生き残っており、保護された人々の中に紛れていた。実は、当時4歳だったマウソラ婆さんもその一人だ。

 トンビ村が作られた当初は、フブキ様が村長をしていた。しかし、5年ほど経ったある日、フブキ様がまだ小さい孫娘のユウナギ様を連れてきて、『私はこの子の教育に力を注がねばならない。だから、村人の中から村長を選んで、村長の仕事を引き継いで欲しい』と告げたそうだ。

 そこで、王家の血を引く全員で秘密裏に話し合い、様々な駆け引きを経たうえで、クマオリ村長の曾祖父を王に選出した。命名の儀が済んでいたマウソラ婆さんも、その秘密の話し合いに参加したそうだ。

 そして、王位の承継は、フブキ様とユウナギ様にばれないように、密かに続けられていた。


「これが中つ国の王座の在処の物語だ」


「話してくれて有難う。

 実は、クマオリ村長の話と、フブキ様の残した秘伝は完全に整合している。フブキ様にバレないように行なったはずの王を決める話し合いの内容まで、全く同じだった」


「ど、どういうことだ? それなら、何故、先祖は生き延びれたのだ? その打ち合わせは、中つ国を滅ぼしたフブキ様への反逆に等しい。そして、フブキ様なら、反逆者を粛清することも朝飯前だったはず」


「正確な事は判らない。だが、余りにも内容が正確過ぎる。その秘密の話し合いの参加者に、フブキ様に通じる者が居たと考えた方が良いぐらいだ」


 フブキ様の多様な魔術で、盗み見・盗み聞きしていた可能性もあるが、それは言わなくて良いだろう。


「裏切者が居た?信じがたい……でも、それは先祖が粛清されなかった理由にはならない」


「粛清されなかった理由なら、遥かに単純だ。当時のフブキ様にとっては、粛清して恨みを増やす方が損だったというだけの話だ。フブキ様には、村人に恨まれている自覚があった。根拠もある。フブキ文書には、血縁者は決してトンビ村に来るなとの警告が彼方此方にある。

 フブキ様自身なら、何があろうが身を守る自信があったのだろう。何と言っても、当時のフブキ様は、今のワシやヒノカワ様よりも遥かに強力だったんだ」


「血縁者をトンビ村に来させなかった?でも、ユウナギ様は?ユウナギ様は、トンビ村で暮らしている」


「ユウナギ様は、フブキ様の血縁者ではない。孤児を拾って、孫娘として扱っていただけだ」


「……知らなんだ。……でも、何故、タツヤが知っている。それも秘伝とやらにあるのか?」


「いや、ユウナギ様とフブキ様の関係は、秘伝にはない。秘密は秘密だが、秘伝にする程の物ではないのだろう。フブキ文書を読んでいけば普通に気付く事だ。

 誰とは言えないが、存命の者でも、それを知る者がいた。その者によると『ユウナギ様の名誉と安息の為に余計な事を広めんでくれ』という事らしい」


「口を挟んで悪いが、タツヤの言う事が正しい。ユウナギさんとフブキに血の繋がりが無いことは、婆と同世代の者は皆知っている。だが、誰も次の世代に伝えなかっただけだ。

 皆が『ユウナギさんは、最強の魔術師フブキの正統後継者』、それだけで良いと思ったんだ。

 フブキに認められようと懸命に努力を続け、フブキ死後は村を守ろうとあんな歳になるまで奮闘したユウナギさん。

 あんな良い(むすめ)に含む所はない。あの()は、フブキの後継者たる事を望んだのだから、それだけを残してやりたい」


 ワシとクマオリ村長の話に、マウソラ婆さんが補足した。そうか、だからイモハミ婆さんは、ワシが確認しようとしても渋ったのか。


「そうか……とすると、タツヤは私以上に知っている事になる。なら、何故……王座を要求しなかった?何故、真名を持ち出したのだ?

 そう聞いても、伝わらんか。

 私は、タツヤがクニを作ろうとしている事に気付いた時、何れ王座が必要になると思った。ここにある中つ国の王座の事を知れば、必ず、タツヤは欲しがるだろうと思っていた。

 その時は、中つ国の王座をアマカゼに承継させて、王妃にするつもりだった。

 だから、真名を持ちだした時、ここに中つ国の王座がある事を知らぬ故に、タツヤは、別の道を模索しているのだろうと思った。知らぬなら、教えれば良いと思い、この場を設けた。

 だが、知ったうえで別の道を往こうとしているのなら……私は、タツヤの考えが知りたい」


次は「中つ国の王座の在処(後編)」です。

7月14日20:00投稿です。


なお、マウソラ婆さんは、前作4話「トンビ村」で名前と年齢だけ出てきます。


また、フブキ様とユウナギ様は、昔話で時々出てくる人物です。

二人の関係や王宮虐殺との関係は、前作53話「クニが滅びた理由」でチラリと出てきます。


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