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猪村訪問〜ヒノカワ様の村〜

基本的には、ヒノカワ様は善人です。ただし、堂々としたスケベです。



「やあ、タツヤ君。大盟の儀まで日数があるから、一緒してくれるよね〜」


 イモハミ婆さんらとの秘儀の話が終わり、アマカゼらに合流しようと歩いていたら、不意にヒノカワ様に声を掛けられた。なんだろう?


「勿論です。ヒノカワ様のお話は何時でも最優先です」


「そう言ってくれると嬉しいよ。今から出ると、猪村に着くのは夜だから、明日朝から、島を一巡りする旅に出よう。十三夜月に戻って来れば大丈夫だよね」


 何事! 心の準備が!


「安心してw 男二人でむさ苦しいのは飛んでいる間だけだよ。どの村にも可愛い娘は居るし、タツヤ君ならモテモテだよ。スケベな目で見ても文句は出ないさw 」


 ワシの戸惑った様子を見て、ヒノカワ様がトンチンカンな事を言った。逆らうのは愚かか……


「いえ、突然のお話で少し驚いただけです。今夜中に予定の調整と旅の準備をします。この辺りの事しか知らないので、ヒノカワ様に他の地方の事を教えていただけると本当に有難いです」


「タツヤ君、素直で良い子だねw 悪いようにはしないよ。というか、北部大連合の成立が確実になった今。君は、島で最大の実力者なんだ。島を代表する有力者として、挨拶周りをしておいた方が、絶対良いよ。

 名前と顔が知れ渡るまでの何年か……僕も苦労した時期があるんだ。顔も知らない僕が、強大な魔術を行使すると、皆々怯えて怯えて……生贄を捧げられた事が何度もある。決死の覚悟で来て、青ざめた顔で細かく震える娘を見るのは……酷く傷つけられる思いがしたよ。

 タツヤ君の好みが舞踊だと判っていれば、そういう馬鹿げた行き違いが無くなって、皆々幸せになれるよ」


 フクロウ村で……あったな。そういう事が……積極的にお願いした方が良いだろうな。

 ワシは、急ぎ村長らと調整して、旅立つことにした。しかも、『此方での細かい根回しは任せておけ。タツヤは、堂々と島の有力者として名乗りを上げてこい』と激励されてしまった。




 既に、夏の気配が強い。7月17日の朝、ヒノカワ様との旅に出た。最初の目的地は、ヒノカワ様の猪村だ。熊村から西南西約73㎞と相当の距離がある。それを、途中ヒヨドリ村で休憩するだけの強行軍で午前中に到着した。


 猪村は海に近く、かすかに潮の香がする。近くに川も高台もあって、色々便利そうだ。その村の門を通って直ぐにヒノカワ様が告げた。


「タツヤ君、悪いけど旅人用の小屋で暫く寛いでいてくれないかな。僕は、留守が長かったから野暮用が溜まっているんだよw」


 見ると、歳がバラバラだが綺麗な女性が3人ほどヒノカワ様に手を振っている。若しかしたら、嫁さん達だろうか。


「家族の(かた)を大事にしてください。ワシは、適当に寛いでいます。案内は、門に居た若衆に頼みます」


 そう言って、若衆に声を掛けると、鯱張(しゃちほこば)って旅人小屋に案内してくれた。直ぐに、白湯や食事を持った女性もやってきて、少し早いが昼飯にすることにした。


「ヒノカワ様が忙しいようなら、先に挨拶周りをしておいた方が良いかな? 悪いが、村の偉い人の所に行きたいのだが、案内してくれないかな?」


「畏まりました! 直ちに、村長を呼んでまいります。大変恐縮ですが、少しお待ちください」


 控えていた、若衆が弾かれたように、全速力で走っていった。本当に、直ぐに村長らしき人がやって来た。


「初めまして、わたくしめは、村長をしているセンカワと申します。お見知りおきを」


「ワシは、トンビ村のタツヤです。ヒノカワ様から聞いているかも知れませんが、七村連合の東1位を務めています。また、次の満月に大盟の儀をする北部大連合の副議長を務める予定です。今回は、ヒノカワ様のご厚意で挨拶周りの旅をすることになりました。

 見た通り、まだまだ未熟者ですが、よろしくお見知りおき頂きたい」


 先ずは、旅をすることになった事情等を、センカワ村長に説明した。


「気が利かぬ事で申し訳ございません。そういう事であれば、直ぐに腕の立つ絵師を呼びましょう。それと……ヒノカワ様は多分、明日の昼までは小屋から出てこないので……明日、付近の村の者を集めて盛大に歓迎の宴をしましょう。

 今夜は、この村の者だけでささやかに親睦を深めましょう」


 なんか、気苦労が顔に出ている人だな。


「有難うございます。実は、経験不足でどうしたら良いか判らなくてね。戸惑っていたんだよ。

 少し話は変わるが、確か猪村を中心に緩い連合が作られているといった話を聞いているんだ。実際の村々の関係はどうなんだろう」


「連合といいますか、村々が、ヒノカワ様を頼っているというのが実情です。南に少し行くと、半島の先に大きな無人地帯があって、色々村々も大変なんです。強力な治癒術と攻撃力を持っているヒノカワ様が居なければ、何時無人地帯に飲み込まれるか判らない。

 特に、この村は大きな恩恵を受けています。ヒノカワ様が魔術に目覚めてから、多くの移民を受け入れて拡大し、今では近くに3つも分村がある状態です。

 本当に、ヒノカワ様様なのですよ」


 そうして、猪村に二日滞在し、次の目的地に向かうことになった。紹介された村々の話を総合すると、ヒノカワ様は、周りの大体10位の村から盟主と目されているようだ。なお、一緒に修行したハヤドリの兎村は、無人地帯に面する村であり、何時も苦しい戦いをしている事も判った。

 そして、ここ15年程度、ヒノカワ様は、素質がありそうな少女を見つけ、イモハミ婆さんの所に修行に出す活動をしている事も判った。


「最初に修行に行かれたメイ様は、開眼して魔術士になられました。ヒノカワ様もメイ様を殊のほか大切になさって、今ではヒノカワ様の一番若い妻になっています。

 我々も、ヒノカワ様とメイ様のお子様に、高い素質が無いか、ついつい期待してしまいます」


 皆々、色々なやり方で明日を掴もうとしている。ワシは、知らない事ばかりだな。


 ────────────────────

 ”フクロウ村で……あったな。そういう事が”は、前作63話の「笑顔重要」に当たります。

 なお、フクロウ村は熊村から南西約29kmの位置にあり、シカ村の大戦に参加した村の一つです。


次は、兎村訪問です。暫く、ハヤドリという少女に焦点を当てます。

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