ハモ村の神事の裏で(前編)
時系列が前後しています。
この話は、ハモ村との交渉からハモ村の神事までの間の話です。
12月14日の昼下がり、ハモ村の神事の後始末に区切りを付けたワシは、西北西22㎞のヤマモモ村へ飛んだ。次のボス大鬼駆除作戦は、明日の予定だ。遅れる訳には行かない。
多くの人々の配慮により、何とかハモ村の神事を乗り切る事ができた。これで、聖戦早期終結の計画について、堂々と議論できる。しかしながら、思い返しても大変な10日間だった。ボス大鬼駆除作戦との掛け持ちで、儀式までに3回しかハモ村に顔を出せなかった。そのワシですら、頭が痛かった。直接対応した者にはどれ程に苦痛な日々だっただろうか。
◇ ◆ ◇
12月3日の昼過ぎ、ライゾウ殿との話を終え、7村連合方向に飛ぼうとしたワシに、ヒノカワ様が声を掛けてきた。
「ライゾウの理解が非常に心配だ。だから、僕は、誓紙の奉納が済むまで此処に残る事にするよ。これから色々あるだろうから、言霊を使える僕が此処に居た方が、キット上手く行くと思う」
非常に有難い申し出だが、ヒノカワ様にそこまでの手間を取らせるのは……
「何を遠慮しているのだね。きみは、ボス大鬼駆除作戦との掛け持ちで、大変だろ。そちらも、重要な作戦なんだから、遠慮なく頼って貰えば良いさ。この位は、僕がフォローするよ」
振り返ってみると、ヒノカワ様がハモ村に居なければ何ともならなかっただろう。そもそも、作戦中のワシと連絡不可能になっていた筈だ。
急いで7村連合に戻ったワシは、その足でライカさんとミライさんに話をした。そのライカさんへの説明中にクマオリ村長から、意外な提案があった。
「大変重要な儀式になる。私も行こう。イモハミ婆さんとブナカゼさんにも声を掛けてくれ」
「え? 年越しが迫っているのに、ハモ村迄行くって、大丈夫なの?」
「そちらはオオカゼがいれば何とかなる。それより、タツヤ。神事を軽々しく考えてはならない。そして、参加者が多ければ多いほど、神事は意義深いものになる。
そうだ、私やブナカゼさんでは、文字の細かい規則は判らない。文字自体の責任者としてアマカゼにも参加させた方が良い」
確かに、盛大に行った方が、他村から勇者を集めやすくなって、ライゾウ殿の生存率が上がるかも知れない。
その後、熊村でも同様の議論になり、ミライさんに加え、イモハミ婆さんとブナカゼ村長もハモ村に行くことになった。
翌日、儀式について検討したワシは、追加で二つの手を打つ事にし飛び回った。
一つ目は鉄の武器の調達だ。ハモ村の戦力を強化し作戦を万全にするには、鉄の武器があった方が良い。それには、7村連合の各村に了解を取る必要がある。
二つ目はボス大鬼駆除作戦の組み換えだ。ハモ村での儀式に聖女であるハヤドリを参加させる為、ハモ村に最も近いヤマモモ村での作戦時期を儀式に合わせる必要がある。
どちらも緊急の調整が必要で、高速で飛行出来るワシが直接対応するしかない。そして、一日中飛び回り何とかギリギリ処理を終えた。これで何とかなると思っていたが、それは全く甘かった。
12月7日の日没後にヒノカワ様からの不吉な言霊が届いたのだ。
「ライゾウが判らず屋でクマオリ村長とブナカゼ村長が苦労しているようだよ。タツヤくんも一度ハモ村に顔を見せた方が良いと思うよ」
慌てたワシは、翌12月8日の朝一に、ハモ村まで飛んで対応をすることとした。ハモ村に着いたワシにクマオリ村長が状況を話してくれた。
「問題は、大きく分けて二つある。
一つは、誓いの文言だ。『孫娘を妾にしない代わりに、死ぬまで戦うことにする』では、余りにも世間体が悪すぎる。だから、マシな文言に変えたいのだが、ライゾウ殿が全く理解してくれない。
ただ、此方はエンライ村長が間に立って貰えるだけマシな方だ。私らだけで何とかする。
もう一つの方が、本質的には更に厄介だ。
そもそも、ハモ村がそれだけの覚悟を持って挑むのなら、『ハモ村東の無人地帯奪回が先だろ?』という疑問への応えが無い事だ。此方は、エンライ村長の方でも頭を抱えているので、エンライ村長を含めて話をしたい」
「念の為に確認するけど、エンライ村長が『ハモ村東を優先せよ』と主張している訳では無いよね?」
「エンライ村長に一応確認したが、顔を蒼ざめさせて『検討中だ』としか答えん。だから、その質問はするな。プライドを傷付けて良い事などない」
「了解した」
離れの小屋に移動しクマオリ村長、ブナカゼ村長、エンライ村長、ワシの4人の打ち合わせを開始した。その冒頭、エンライ村長は厳しい目でワシを問い詰めた。
「今回の件、本当に父の安全に配慮して頂けるのだろうな。そうで無ければ、ライカを犠牲にしてでも食い止めさせて貰う」
「二人から聞いているとは思うが、ワシは、誰も戦死させない完全な勝利を目指している。今回もその考えは同じだ。
そのため、ライゾウ殿の闘いでの犠牲者が最小限になるように幾つもの手を打つ予定だ。
まず、ライゾウ殿と共に闘う先鋭を強化する為に、此方が持つ最新の装備を提供する用意がある。既に、七村連合に無理を言って、鉄の武器を確保した。
また、盾や防具なら必要なだけ準備するし、ハモ村連合外からの援軍も確保する。
戦いなので危険は避けられないが、無謀な事をさせる気は無い」
「その事を誓いの言葉に盛り込んでもらおう」
「承った。クマオリ村長、ブナカゼ村長、お願い出来るだろうか」
「了解した。元よりそのつもりだ」
ワシとクマオリ村長が即答した時、エンライ村長の表情が少し柔らかくなった事を感じた。よし、このまま、畳かけて話を終わらせたい。
「それと、作戦の順番の件だが、ライゾウ殿という最強の戦力を出して貰うのに心苦しいが、何とかフグ村北を優先させて貰う訳にはいかないだろうか。
北東の村々は、去年から心待ちにしている。実際、最近訪問した時も、拝み倒さんばかりの勢いで懇願された。此方の都合ばかり言っているのは理解しているが、何とか何とか考えてはくれないだろうか」
ワシの懇願に対して、少し間をおいて、明らかにホットした様子のエンライ村長が告げた。
「…………此方も早く無人地帯を制圧したいとの声が強い。それを譲るとなると、相当の見返りが無いと困る事は理解して頂けるだろうか」
「了解した。北東の村々から今回の儀式に然るべき者を参加させる。見返りについては、その者を含めて相談させて欲しい」
その日はその後、北東の村々を飛び回った。そして、ハモ村との交渉の為の有志──アラウズ村長他──をハモ村に向かわせ、日没近くにボス大鬼駆除作戦に復帰した。
次は「ハモ村の神事の裏で(後編)」です。
5月19日20:00投稿です。




