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閑話 ハモ村の神事

今回は、主人公視点ではなく、ハモ村のライカさん視点の話です。

 知らぬ間に、恐ろしい事が起きてしまった。私ライカが、人質としての役目を尽くさなかったせいで、お爺様が死ぬことになってしまった。


 トンビ村に来て8ヶ月、表面的には穏やかに時が流れていた。文字も覚えた。色々な村の娘と仲良くなれた。戸惑う事はあったけど、お爺様の孫娘として、恥じる事なく過ごせたと信じていた。

 何より、辱めは受けなかった。戦鬼タツヤも、人質に無体をするような鬼畜では無いと少し安心していた。

 今思えば、人質として余りにも油断していたのだろう。


 聖女ハヤドリが移住して数日後の昼下がりに、突然に戦鬼タツヤの呼び出しを受けた。


 お爺様と戦鬼タツヤが、誓いを交わす為に、文字を読める私が証人としてハモ村に行く必要があるそうだ。

 しかも、その誓いの内容が酷い。私とミライを妾に差し出す事を拒否した懲罰として、お爺様に死ぬまで戦い続ける事を強要している。

 戦鬼タツヤの言葉は誤魔化しだらけだったが、誤魔化しの美辞麗句を除けば、そんな内容しか残らない。


 しかも、お爺様の逃げ道を塞ぐ為に、クマオリ村長やイモハミ婆様、アマカゼさんまで儀式に参加する。


 その翌日から、5日という強行軍でハモ村に着いた。その行程で『書記団員になるなら走り込みをした方が良いわよ』とアマカゼさんが言っていた意味が身に染みた。女の脚だと足手纏い扱いされるのだ。実際、クマオリ村長やブナカゼ村長は、私とミライを置いて行ってしまった。置いて行かれた私達は、平然とした顔のアマカゼさんに鼓舞されながら必死になって歩くしかなかった。


 ハモ村に着いてからすら安心できなかった。戦鬼タツヤは、徹底している。お爺様の逃げ道を塞ぐ為に、儀式の参加者がどんどん増えていく。


 そして、12月13日の昼、20村以上の代表が集まり誓紙の儀とやらが始まった。



             ◇



 証人を務めるヒノカワ様の不吉な宣言から、儀式は始まった。


「それでは、証人を代表して私ヒノカワが、誓紙の儀の開始を宣言する。タツヤ殿とライゾウ殿は前に」


「「畏まりて」」


「まず、ライゾウ殿から誓いの言葉を」


「ハモ村連合は、神命である聖戦に全力を尽くす事を誓う。特に、ライゾウは難敵の討伐を弛まず続ける。その為に、どんな苦難だろうと進んで引き受けよう」


 お爺様の死を覚悟した宣言に胸が締め付けられる。


「立派な御覚悟。神々よ御照覧あれ。

 この意気に応える為にタツヤ殿も誓いの言葉を」


「北部大連合を代表し、聖戦に全力を尽くすハモ村連合殿に、最大限の誠意で力添えする事を誓う。特に、ライカ嬢やミライ嬢を含めライゾウ殿の親族には名誉ある待遇を約束する。万一、名誉を傷つける者が出た時は、必ず厳罰に処す。例え、それがタツヤ自身でも例外ではない」


 本当は、お爺様の代わりに私を生贄にして欲しいが、最早変える事は出来ない。なら、せめて、この誓いは守って欲しい。


「タツヤ殿の誓いを神々よ御照覧あれ。

 それでは両名、神々への奏上を」


「以上の誓いがなされた事を、全ての神々とハモ村の祖霊に対して奏上致します。

 この誓いが破られた時は、神罰を賜りますようお願い申し上げます。

 元年12月13日 ハモ村のライゾウ」


「同じく、誓いがなされた事を、全ての神々と全ての祖霊に対して真名にて奏上致します。

 この誓いが破られた時は、神罰を賜りますようお願い申し上げます。

 元年12月13日 ダザイタツヤ」


「北部大連合の議長として、この誓いを固く守る事を関係者に命じます。

 元年12月13日 熊村のイモハミ」


「聖戦の神命を受けた聖女として、この誓いを祝福します。

 元年12月13日 兎村のハヤドリ」


「証人を代表して、この誓いが正当に行われたことを宣言します。

 元年12月13日 猪村のヒノカワ」


 一つ一つがお爺様の死の階段のように感じられる。逃げたい。でも、私はこの儀式から逃げられはしない。


「それでは、誓紙を披露して貰おう。固い固い誓故、神々から下賜された魔術にて、硬い硬い岩に刻んで貰った」


 ヒノカワ様の宣言に合わせ、今朝、私の眼前で戦鬼タツヤが作った誓紙が姿を表した。禍々しい。


「当事者として、誓いを正しく刻んだ事をタツヤが奏上する」


 次は、私の番だ。私もお爺様の死の階段の一つに指定されているのだ。


「ライゾウの孫ライカが、正しく刻まれている事を確認しました」


「文字の責任者であるアマカゼが、この誓紙に一片の誤りも無いことを確認しました。

 そして、この場にいる書記団を代表し、正確にこの誓紙の複製を作る事を誓約します」


 書記団と言っても、ハモ村連合で文字の読み書きができるのは私だけ!実質、私一人で、こんな不吉な誓紙の複製を20以上作らなければならないなんて、拷問よ!


「それでは、証人を代表して私ヒノカワが、誓紙の儀の終了を宣言する。皆々、神々への感謝の祈りを捧げよ」


 神様お願いします。お爺様を殺さないで!でも、私の無言の祈りの後も、戦鬼タツヤは非情に儀式を続けた。


「それでは、次の儀式に移りたい。これほどの御覚悟を捧げてくれた、ライゾウ殿とハモ村殿に感謝の品の贈呈したい。

 此処に、五振りの鉄の武器を準備した。これを、聖戦を早期に終結させる為に、困難な闘いに身を投じて頂くライゾウ殿とハモ村殿に贈呈したい。難敵を屠る為に、この鉄の武器をハモ村の勇者に是非にも使って頂きたい」


「ハモ村を代表して、私エンライが拝受する。貴重な鉄の武器を贈って頂き感謝に耐えない。難敵との闘いに有効活用させてもらう」


 お父様まで巻き込んで、本当に酷すぎる、


「なお、鉄の武器の費用の半分は、フグ村から寄贈して貰った。北東の村々を代表して、アラウズ村長からこの誓に対する謝意の申し出があるので、お耳汚しになるかも知れないが聞いていただきたい。

 では、アラウズ村長、お願いします」


「来年のフグ村北の聖戦に全力で協力頂けることを、言葉で表せない程に感謝している。そのため、比較にならぬほど些細ではあるが、フグ村からも寸志を提供した。

 また、ハモ村と北東の村々の協力関係を強化する為に、これから行うハモ村周りの闘いに戦士を派遣させて頂きたい。ライゾウ殿と共に、難敵との闘いに参加させて頂く事で、フグ村の戦士を鍛え、来年の聖戦をより万全なものしたい」


「皆々有難う。これでワシが目指している聖戦の早期終結に少しだけ明かりが射した気持ちだ。

 聖戦を早期終結させる計画について、ワシはこれまで自身の胸の中に留めてきた。

 だが、ライゾウ殿の本格参戦で、ようやくその計画を明らかに出来る状況になった。

 ワシは、来年中に、ヤマハラ半島、フグ村北、マワリ川村南の3つの無人地帯を奪回する。そして、再来年もこのハモ村東を含め複数の無人地帯を奪回する。そうすることで聖戦を加速し、3年でこの島の全てを人の手に取り戻す。

 激しく厳しい闘いになり、苦しい想いをする者が多数出るだろう。だが、妖魔に怯えるこの時代を終了させる為に必要なことだ。だから、せめて、この場に居る者だけでも、ワシの想いに賛同して欲しい。

 お願いできるだろうか」


 戦鬼タツヤへの最低限の抵抗として、私は口を噤む事にした。だか……


「「……「「うおぉぉぉお」」……」」「「……「「タツヤ様! バンザーイ! バンザーイ! タツヤ様!」」……」」「「……「「聖戦の早期終結を!そして妖魔は皆皆々殺しだ!」」……」」


 私の想いは大歓声に掻き消されてしまった。


次は「ハモ村の神事の裏で(前編)」です。

4月21日16:00投稿予定です。

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