次の時代への布石
東基地作戦開始までの数日の間に、フグ村以外にも彼方此方飛び回った。10月13日には、久しぶりに、ムササビ村に行き、ミナミカゼ村長に現状を見せて貰った。
「案内してくれてありがとう。窯や作業場といった設備だけでなく、小屋もどんどん増え、発展していることに安心した。
ただ、鉄の需要はまだまだある。だから、増産に努めて欲しい。増産する上で、何か課題は無いだろうか」
「まず、安心して欲しい。今の大きさの塊鉄炉の最適化は順調に進んでいる。失敗する事は殆ど無くなった。
また、更なる増産の為、塊鉄炉の大型化を視野に入れている。より大きい炉で鉄を作ればその分生産力が上がる筈だ。そのため、より大量の風を送れるフイゴの開発を進めている。
フイゴで風を送るのも相当の重労働だ。塊鉄炉を大型化したら、負担が増え身体を痛める者が出るかも知れない。だから、負担がより少なくなるフイゴを模索している。革を使ったり、教えて貰った蛇腹を使ったり、色々試している。良ければ後で試作品を見て欲しい」
「塊鉄炉の大型化か。是非進めて欲しい。まだ何年も先の話だと思うが、送風力の強化については、大胆な手が幾つかある。動力として人手ではなく水車を使うという手もある。また、人手を使う場合でも、送風専用の小屋を作り、数人ががりでフイゴを動かすという手もある」
可能なら何時かは高炉を作りたい。そこまで行かなくともタタラ場までは進みたい。ワシは、簡単な図を描きながら、それらの仕組みを説明した。
「タツヤ様、ご教示ありがとうございます。この図は、清書してムササビ村の秘宝と致します。そして、何時か必ず実現させて見せます」
不味い。一寸、一足飛び過ぎたか、恐縮させてしまった。それよりは、より現実的な事を話した方が有効だな。
「話は変わるが、製鉄で出た残渣はどうしている。頼んだ通り、川に流れないように管理して貰えているだろうか」
ワシの前世は、考古学者で、冶金学は門外漢だ。だから、鉱毒があるか判断できないが、ハッキリ判るまでは鉱毒があるという前提で進んだ方が無難だろう。
「ああ、残渣に毒が混じっている可能性があるという話だったよね。今は、川に流れださないように、大穴を掘って全てそこに集めている。今後、さらに量が増えるので、良い場所が無いか探している。最悪、また大穴を掘って、川には流れないようにするよ。
確か、禿山にならないかも気にしていたよね。今のところ、間伐で対応出来ているので問題はない。また、出来るだけ、他の村から炭として購入するようにもしている。万一、皆伐が必要になったら、誓って植林をする。これらは、ムササビ村の掟とする予定だから、安心して欲しい」
その後、フイゴの試作品を見せて貰った。また、カシイワ師匠他の名工達と懇談し色々なアイデアを披露した。次の時代までには、小規模・非効率な塊鉄炉から次のステージに進んで欲しい。
◇ ◆ ◇
10月16日から開始した、東基地作戦は、順調に進んだ。東基地から殲滅する妖魔の巣は4つで他の基地に比べ多めだ。だが、経験と物資の蓄積が効いている。あっさり、11月2日には作戦が終了した。予想よりだいぶ早い。
東基地作戦終了により、春までの間、ヤマハラ半島の4つの基地は冬営に入る予定だ。基地を維持する最小限の戦力を残し戦士達を帰村させ、物資の消費を抑える。
冬営の間これらの前線基地では、防衛施設の整備を進めて貰う。早期警戒と情報伝達のための見張り台。より強固な柵や逆茂木。聖戦本線で、妖魔王の襲撃を受ける可能性を考えると、防御施設は幾らあっても無駄にはなることはない。
というか、これらの前線基地は、村にする予定だから、設備はあればある程良い。
実は、これらの基地に別の可能性を見出している者もいる。東の内海の沿岸の村々だ。ヤマハラ半島沿岸に村が出来れば、より自由に東の内海を渡れるようになるから。
特に、熱心なのが、カサゴ村のフジキ村長だ。彼は、東基地作戦期間中も、物資の輸送がてら精力的に調査を続けていた。
カサゴ村は、東の内海の北部と南部を分つ細いカサゴ海峡に位置している(それぞれ、前世の有明海、八代海、三角ノ瀬戸に対応)。この地勢からクニ時代には、東の内海の海上交通の要衝として栄えていたそうだ。
クニ滅亡後、無人地帯に変わった為、ヤマハラ半島とカサゴ村との行き来が無くなった。だが、フジキ村長によると、潮流を正確に読めば、カサゴ村から東基地に渡れるそうだ。
さらに、南西基地作戦でハヤシオ海峡を渡れるようになれば、航路整備が大きく前進する。後は、航路沿いの村々が一つ一つ船着場を増やして行けば、この島の西部にあるマワリ川村から北部にあるタコ村へ舟で行き合えるようになるだろう。
可能なら、次の時代には、島を一周する航路を整備したいが……まだ、この夢を語るのは早過ぎだろう。
◇ ◆ ◇
次の時代と言えば、治癒術士についても考える必要がある。歳を取ったイモハミ婆さんの事績を引き継ぐ者を用意する必要がある。ワシが知る女性魔術士の中で、それが可能なだけの才能を持つ者は、スミレ坂とハヤドリの二人しかいない。
スミレ坂は、魔術の才能「中」を持つ。修行を開始するのに適切な若年者で、魔術の才能「中」を持つものは、スミレ坂しかいない。一方、ハヤドリは、魔術の才能「小」に加えて超努力家という才能を持つ。これは、特に強い想いを持つ者に現れる才能だ。これらの才能は、専一に望みさえすれば、年に一つ新しい魔術を身につけられる程の物だ。
さらに、二人は戦場に同行した場合のSPの取得効率も高い。スミレ坂には、スミレ坂を女神と仰ぐ親衛隊が居る。ハヤドリは、ワシが功績大と考えている為だが、最近はそれだけではない。聖女と呼ばれ続ける事でハヤドリも気品を身に付け、段々と認める者が増えているようだ。実際、鑑定すると治癒術のレベルが上がっているだけでなく、気品というスキルを身に付けている。
これからの数年を考えると、二人以上の成長を遂げる女性魔術士が出る事は、望むべきもない。
そう考え、ワシは、ワタリ島作戦にハヤドリを連れて行く為の根回しをした。聖女としてだけでなく、次の時代の女性魔術士の柱としても、ハヤドリには、より魔力を高めて貰わねばならぬから。
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ハヤドリ
力強さ9、素早さ13、器用さ15、持久力8
頑強さ7、注意力10、魔力15
HP5、MP23、TP6
呪術士技能L2(SP3)、舞踊L3(SP3.5)、気品L1(SP0.5)、歌L1(SP1)
応急手当L2(SP1.5)、薬草知識L2(SP1.5)、薬作成L1(SP0.5)
書記L1(SP1)
魔力操作L1(SP10)
治癒術L2(SP6)
魔術の才能「小」(魔力操作取得に必要なSP10、個別魔法SP2)
舞踊の才能
精神・肉体技能才能(治療関係限定)
超努力家(タツヤ様のご恩に応えている間)年当たりSP取得2倍
次は「クニ清算への布石」です。
1月20日20:00投稿予定です。
ミナミカゼ村長は、クマオリ村長の息子で、七村連合がムササビ村を服従させた時に、村長として送り込まれました。最近出て来たのは93話「帆船計画」です。
カシイワ師匠は、タツヤに物造りを教えた師匠で、鉄造りのためムササビ村に移住しました。最近出て来たのは77話「宴の後の奔走」です。




