会議とイモハミ一族の苦悩
前例が無い巨大な会議が始まろうとしている。63村の152名、前世では大した事ない会議だ。
だが、人口が100人強しかない村、更に隣村まで半日は掛かる。この状況でこの会議はトンデモ無い負担だ。熊村は、多くの村人を他村に疎開させ、さらに分村を完全に解放して対応している。
運よく晴れていて、広場に多くの村の代表が集まった。
滅多にない機会だからと、各村の代表に簡単に村の紹介をして貰っている。それぞれの村への思いは強く、結構長く自慢話をする者もいる。夕方までに終わるのか……心配になる。無論、大人しく聞いている者だけではなく、席を外して色々動き回っている者はいる。だが、ワシはイモハミ婆さんと全て聞く事になっている。
しかし、完全記憶は便利すぎる。頭の中の地図と村の紹介とが連携できるだけでなく、特産品の話だったり地形の話だったり、姻戚関係であったり、それらが上手く整理・連携され頭の中に入っていく。HTML言語より遥かに高機能だよw
7月11日の朝から日没過ぎまで掛かって、村々の紹介が終わり、そのまま宴に突入した。宴では、色々な村がてんでバラバラな事をワシに言いに来ていた。整理するのは鬱陶しいが、特に注意力を振り絞らなくても完全記憶で自動的に記憶できるのが救いだ。ただ、その中には、ワシらの見落としや良さげなアイデアもあった。明日からの会議が有益な物になるように、考えを整理しておく必要がある。
◇
「会議を進めるために、ワシの個人的な叩き台を作っておいた。未熟者で色々見落としがあることは、重々承知している。皆さんの知恵を借りたいと思っている。だが、一度説明させてはくれないだろうか? 此処から少しでも良くして、気持ちよく連合に参加してくれる村を一つでも増やしたいと思っている」
翌日は、ワシの原案の説明で日が暮れた。余りにも多様な話が盛り込まれている。一つ一つの側面に対して、疑問の声が上がって、真意を説明するのに時間が掛かってしまった。ただ、一応皆聞くだけは聞いてくれるのは有難い。事前に根回しを進めていなければ、聞いてくれるところにすら辿り着けなかっただろう。
その後、3日に渡って有意義に会議が進んでいった。前世の感覚で言うと……あり得ないほど順調と言える。何らかの合意形成が出来る事を多くの村が望んでいるのだろう。そして、7月16日の午前中に大盟の儀に参加する条件等が整理され、準備会議は終了した。
なお、ムササビ村への貝貨の供給問題については、狐村のギンオ村長、ミナミカゼ村長、マコさん、アマカゼらと調整しておいた。ワシへの借りになっている褒賞を付け替えるだけなので、話はスムーズに済んだ。
7月16日の午後、準備会議参加者が徐々に帰っていく中、幾人かの魔術士が集まって極秘の会議が始まった。結果によっては、この社会の在り様を根底から変革してしまうかも知れない。
「タツヤが持ち込む秘儀の話は、マジで秘儀の話の場合があるから困る。乙女の小さい胸がドキドキして破裂しそうじゃ」
イモハミ婆さん、相当緊張しているんだな。会議に参加する他の二人──カニハミさんとスミレ坂──に比べても、明らかに青ざめている。
「何から、話始めれば、心臓に悪くないのか、ワシ自身身構えてしまうよ。一応、気付け薬は用意してある。
だけど、前置きとして、半年ぐらい前のヒヨドリ村の呪術師の小鳥さんとの話から始めるよ。直接切り出されるよりは、ショックが小さいかも知れない」
「「「…………」」」
◇
「魔術士になるのに20年も掛かるのは、才能が無いから。話を結論まで聞いた小鳥さんは、娘には聞かせたくない話と苦吟していた。だけど、これから行う確認結果によっては、事態はより切迫しているかも知れない。この前、ハテソラ師匠を観て、高レベルの鑑定の効果が判明したんだ」
「話の予想が付いたよ。一息、白湯を飲む時間をくれないかい。孫たちに何と説明すべきか、小鳥と同様にババにとっても重い話だよ」
白湯を飲んで落ち着いたイモハミ婆さんから切り出してきた。
「魔術についての才能を持っているはずの、ババとカニハミとスミレ坂を鑑定したい。そういう話だね。嫌とは言えない。お前たちも同様だよね」
「はい。お母さま。でも、結果がどうであれ、シオハミ達に修行を続けさせる事は変わりません。まだまだ、魔術士の数は少なすぎます。若し、鑑定に期待するような効果があるなら、良い知らせとのみ受け取りましょう」
「???鑑定するのは、断らなくても何時でも良いわよ???」
スミレ坂は、話の流れが見えなくて、目をパチクリさせている。まあ、そうだろうな。
「鑑定した。イモハミ婆さんとスミレ坂は魔術の才能『中』、カニハミさんは魔術の才能『小』だ。鑑定結果から計算すると、魔術の才能『小』だと治癒術を取得するまでの期間が大体12年、『中』だと6年、『大』だと3年になるね。普通25年位掛かるのに比べるとやはり才能の差は大きい。
また、『小』だと大体2年に一度、『中』や『大』だと毎年新しい魔術を取得できる計算だね。これも、普通だと5年に一度位なのに比べると、差が大きい」
「とすると、今すぐ鑑定で才能のある者を見つけても、魔術士が大幅に増えるのに10年以上は掛かるってことだね……あまり悲嘆するような事じゃない。カニハミの言うように良い知らせと受け取る事にしよう。
悪いが、カニハミ。シカハミとカワハミとハナハミを呼んでくれないかい。一度、皆揃って相談した方が良いようだ」
そう、魔術の才能が即座に判定できる事は、人生設計を狂わせる大きな出来事だ。それでも、一人でも多くの魔術士を増やしたいと、ワシは思っている。最も割を食う、現在修行中の者について、親身になれる者が考える必要があるのは当然だ。
その後、イモハミ婆さんの一族の内、開眼している者だけ集まって、孫やひ孫の教育方針について、会議が開かれた。そして、少なくとも10歳以上の者については、このまま魔術士の修行を続けさせる事になった。また、大盟の儀の後で、付近の高弟達も集めて、鑑定を使った素質ある者のスカウトをどうするか、秘儀の会議を行う事も決まった
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“半年ぐらい前のヒヨドリ村の呪術師の小鳥さんとの話”は、前作64話の「ヒヨドリからキジ村」に当たります。
ただ、別に読む必要はありません。
また、ヒヨドリ村は西側から大戦に参加した村の一つで、熊村から西南西約34kmにあります。
次から、主人公は暫く旅をします。




