表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/126

第一回聖戦進捗会議(後編)

 全体会議では曖昧にしたが、ワタリ島から南西基地を作る場合も、相当の苦労がある。


 戦場のヤマハラ半島に、ワタリ島から行くには、ハヤシオ海峡(前世の早崎海峡に対応)を渡る必要がある。前世と同様に5㎞以下と距離は短い。丸木舟でも上手く行けば2時間以下で渡れるだろう。

 しかし、そこには両岸とも船着き場すらない。だから、船着き場から作る必要がある。しかも、作戦の都合上、100隻を超える舟を同時に収容できる規模の船着き場にする必要がある。

 他にも色々あるが、莫大な準備が必要だ。


 それ故、有識者会議で、徹底的に詰める必要がある。そこで、熟練の船乗りを有識者会議に呼んだ。ワタリ島に近いカサゴ村のフジキ村長だ。航海に関する問題は、フジキ村長の質問に、ワタリ村のタナミ村長が応える形で進んでいった。


「ハヤシオ海峡は名前どおり潮流が激しい。川と言っても良い位だ。潮流に逆らえば、漕いでも漕いでも押し流されて行く。一気に外洋まで流されて遭難しかけた話は幾らでもある」


「そこは、ワタリ島の方が詳しい。流れは早いが、潮変わりの時間を選べば十分渡れる。そして、潮変わりの時刻は正確に予測できる。正しい時刻を選べば外洋まで流されるようなことはない」


「何隻使うのかは判らんが、多数の舟を集めるなら場所の確保も一大事ではないか。下手な場所だと、漕ぎ出すまでに時間が掛かり過ぎて、最後の舟を出す頃には潮が変わっている。」


「あの辺りには、何本も川がある。また浜も多い。何ヵ所かに分散させれば相当数の舟を同時に出航させられる。また、南西基地側には、大きな湾があるから、湾内で隊伍を組んで潮変わりまで待つ事が出来る。

 なお、舟の数は150隻と考えている。転覆を防ぐ事を優先し、一番安定性する1隻当たり2名にすることを考えている。とすると、ワタリ島から300名同時に渡すには、150隻必要になる」


 類の無い規模の挑戦だから、舟だけでも考えねばならぬ事は幾らでもあるのだろう。だが、他にも幾つも議題がある。


「頼もしい話だ。可能なら海を知るもの同士で細かいところまでトコトン詰めて欲しい。遭難者を多数出すような事態だけは何としても避けたい。

 とはいえ、他にも議題がある。其方も議論させて欲しい。特に、150隻もの舟、300名もの戦士を出すために、ワタリ島が必要としている支援は、この会議中に詰めてしまいたい」


 タナミ村長とフジキ村長の話に区切りを付けて、ワシは、本題を切り出した。


「ワシが前々から言っているように、最終決戦では、山頂に陣取る敵目指して斜面を駆け上がる必要がある。しかも、瓦礫が多く足場が悪い。更に足場が悪くなる梅雨の時期に行うのは不利すぎる。

 その諸々を考えると、3月10日には、南西基地作戦を開始したい。つまり五ヶ月しか無い。準備期間が余りに短すぎる。

 だから、ワタリ島の総力を結集しても、無理な点が有るかもしれない。

 タナミ村長には、その辺りを率直に皆に伝えて欲しい」


「畏まりました。

 皆に安心して貰うため、先ずは可能なところから説明しましょう。

 食料は全く問題ない。ワタリ島の周りの海は魚の宝庫。食い切れん程に獲れるから、漁を自制している程だ。遠慮なく獲れば、一月や二月分の備蓄は直ぐに確保出来る。水も手頃な川があるから問題ない。

 輸送も問題ない。一隻当たり二名なら、同時に一月分の食糧を運ぶ事が出来る。

 舟の数は微妙だが、マワリ川村連合からの支援だけで何とかなる。ハヤシオ海峡の激しい潮流に対応出来る舟は、現状でも90隻はある。だから、必死になって一村当たり月に二隻新造すれば、残り60隻造れる筈だ」


「無理があるなら、ワタリ島で抱え込まず、申し出て欲しい。聖戦を成功させる為に、率直に協力し合うことが連合した意味なのだから」


 タナミ村長の苦慮する声に思わず口を挟んでしまった。現代人が石斧で丸木舟を作った事例では、1人で作業して通算一月弱だった筈だ。だから、人手を投入すれば出来そうだが……他の準備もある。頼って貰って他から集めた方がマシだ。


「タツヤ様、ありがとうございます。舟の建造状況は定期的に報告し、必要なら伏して支援をお願いします。

 さて、此処まではそれほど問題ない部分だ。一方、ワタリ島として不安を抱え支援をお願いしたい点があるのも事実だ。実は、戦士の練度、特に大規模戦闘の経験が殆ど無い事を懸念している。

 それと、殆どの男を遠征に出した後に、残した女子供が妖魔に襲われる不安もある。その可能性があれば、ある程度戦士を残さざるえない」


「タナミ村長殿。失礼ながら、言わせて頂きます。それは、それ程大した問題のようには聞こえません。

 単に、独自にワタリ島内で妖魔の巣の駆除作戦を行えば済む話ではないでしょうか。闘いを経験すれば、戦士は見違えるほど成長するものですから」


「テンヤ村長殿。それは、その通りなのだ。

 だが、未経験の戦いで、多くの損害を出したら目も当てられん事になる。そもそも、南西基地作戦に出せる戦士の数が減り、本末転倒の事態になる。だから、ワタリ島の衆が大規模戦闘をする際に、模範となる戦士がある程度欲しい。それが、ワタリ島が切実に求めている支援だ」


「成程、確かにそれは道理です。ただ、北部大連合外の妖魔の巣の駆除に、戦士を派遣する。そんな事をすれば『何故、我が村より優先するのだ』と言い出す村がでるかも知れない。北部大連合内に不協和音を産みだす元になる可能性がある。中々、難しいかも知れません。

 タツヤ副議長。タツヤ様はその点どうお考えでしょうか」


「そんな、大層は話には思えない。恐らく、東基地作戦は、11月前半には終わる。その後、年末寒くなるまでの間に、ワタリ島の戦士の教練を兼ねて、ワタリ島で闘う事ぐらい、聖戦の成否に比べたら、論ずるまでも無い些事だ。

 そしてタナミ村長の言うような話なら、模範となる戦士が10名ばかり居れば十分だろう。その程度なら、鉄の武器を持つ勇者から、志願者を募れば直ぐに集まるのではないか?」


「そうだ。タツヤ様の言う通りだ。丁度7村連合から、タツヤ様直属の戦士7名の交代を出すところだ。7村連合としては、タツヤ様が直属の戦士を引き連れて、ワタリ島に渡る事に嫌はない」


「ヒノカワ様の妻のツバキ様をご支援する為に戦士を派遣すること。わたくしめら、猪村の衆にとって名誉極まりないこと。残りの戦士3名は、猪村から派遣させて頂く」


 根回ししていた通り、熊村のブナカゼ村長と猪村のセンカワ村長が、戦士派遣を申し出てくれた。かなり強引だが、これで押し通すしかない。本当は、教練どころではなく、ワタリ島の妖魔を一掃する予定だが、あえて言う必要はあるまい。


 そして、他の議題も全て処理し、聖戦進捗会議は10月10日に無事終了した。東基地作戦開始までに、数日は余裕が確保できただろうか。


次は、「次の聖戦への布石」です。

1月6日16:00投稿です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ