第一回聖戦進捗会議(中編)
「それでは、僭越ながら、前線で考えていた事を説明させて貰おう。ここに居る皆でワシのアイデアを精査してより良い作戦に仕上げて欲しい」
ワシは、周りを見渡しながら、話を切り出した。一応は、皆、ワシに注意を向けているようだ。素直に聞いてくれれば良いのだが…
そして、ワシは南西基地の建設にワタリ島の村々を動員する考えを説明した。
「この策の利点は、兵站の負担が少ない事だ。食糧他の物資は、対岸のワタリ島から舟で運ぶのが最も早道だ。
だから、ワタリ島の7村には、この策に最大限の協力をして貰いたいと考えている。タナミ村長。重い役目だが、引き受けて貰えないだろうか?」
「当然の事。ワタリ島7村は、最大限の力を出してやり遂げてみせる。
そもそも、ヒノカワ様には、何度もワタリ島に来訪頂き、多大なご支援を頂いてきた。
そのヒノカワ様への恩返しの聖戦。戦士を数名出すだけでは、貢献として明らかに足りぬ。だから、どう貢献すべきか模索してきた。
その意味で、タツヤ様の提案は、誠に有難い。ワタリ島の衆のヒノカワ様への感謝の気持ちを形にできる、素晴らしい機会だと感じている」
「それは、有り難い。他の村も、この案に賛同して貰えるだろうか」
ワシは、そう言って周りを見回した。他の村の衆は、互いに顔を見合わせるだけで、あまり色よい反応はない。
「僭越ながらタツヤ様。
一口に最大限の協力といっても、南西基地の建設にどう貢献して貰うのかハッキリしていないと、我々には判断しようがない。どの程度の人手や食料を、どの時期にワタリ島から運ぶのか、それが判らないと計画の立てようがない。その辺り、ご存念があればもう少し詳しく説明して頂きたい」
ツバメ村のハヤグロ村長だ。ハヤグロさんには、事前に議論をリードするように頼んである。
「これは失礼した。
ワシの考えでは、ワタリ島の衆に南西基地建設、周辺掃討、その後の維持、全てを任せることを考えている。そして、大戦全体のスケジュールから、春一番で実施してもらうことを考えている」
「それは……、失礼ながら可能なのだろうか。
ワタリ島の全ての男を集めても、難しいような難事。
そう、見たところタナミ村長も驚かれている様子。
少し、無理があるのでは無いでしょうか。
タナミ村長、率直に言って頂きたい。無理なものは無理。それを理解せぬような者が此処に居るはずは無いのだから」
「難しいのは事実だ。だが、ヒノカワ様にこれまで受けて来た恩を考えれば、何が何でもやり遂げねばならぬと考えておる。
なに、ワタリ島の7村の全ての男手を集めれば300人は集まる。そして、ワタリ島の男は全て船乗だ。海を渡る事を怖がるような者はいない」
「人手はあると言っても……
それだけの人と物資を渡せるだけの舟も必要であろう。そして、村の防衛を考えればある程度の戦力を残す必要もある。さらに、ワタリ島には鉄の武器を持つ勇者の数も少なかろう。
安請け合いされて、失敗されたら、これまでの苦労が無駄になるやも知れん」
ハヤグロ村長の疑問に、タナミ村長に応えて貰った。この段階でタナミ村長が弱音を吐いたらまとまるものもまとまりはしない。だが、ワタリ島が支援を欲しているのも事実だから、扱いが難しい。
「ハヤグロ村長、最初に申した通り、タツヤ様は、出来るだけ多くの意見を聞いて最善の策を模索されるお方です。無理がある部分は、此処にいる皆々で補ってより良い案にすれば良い。
兎村から戦士と物資を送って、南西基地建設を作るより、ワタリ島から戦士と物資を送った方が、方向性としては良い案のように思えます。
皆様方もそうは思われないでしょうか」
テンヤ村長が議論をまとめるために、目力を入れて周りに賛意を求めた。
「それはそうだろう。海を知る者は皆、ワタリ島から向かった方が近いのではと考えていた筈だ。
ワタリ島がそれ程の覚悟なら、誰がどう考えても良策に違いない。
なに、ワタリ島に舟が足りんというなら、我がマワリ川村連合から舟の5隻や10隻回遊する事も可能だ。そして、勇士が不足するというなら、我がマワリ川村連合を経由して送れば良い。時間は掛かるが、マワリ川村連合からワタリ島であれば安全に渡れる」
ワタリ島への支援で、最も重要なマワリ川村連合のタイラさんが、ワシの策に賛意を示してくれた。これで、南西基地の対応は一応成立するだろう。
「流石、マワリ川村連合殿、西側打通作戦の重い負担もあるなか、有難い申し出です。マワリ川村連合殿が関与して頂けるなら、南西基地作戦は成功確実でしょう。
他の村々にも細かい支援をお願いするやも知れませんが、それは些事。大筋で疑念がある方は居られますか」
「「「異議なし」」」
テンヤ村長の呼び掛けに、まばらだが、賛意の声が上がり、ワタリ島起点で南西基地作戦をする事が決まった。
「ありがとう。これで懸案が一つ減った。聖戦の大円団に一歩近づいた。細々としたことは、これから有識者会議で詰めて報告させて貰う」
「タツヤ様のお役に立てたなら、喜びに耐えません。
それでは、他になければ、本日の全体会議を終了いたします。皆さま、お疲れ様でした」
テンヤ村長が締めくくり、全体会議を切り上げた。さて、次は有識者会議だ。まだまだ、気を張らねばならぬ。
次は、第一回聖戦進捗会議(後編)です。
12月9日16:00投稿予定です。




