第一回聖戦進捗会議(前編)
10月7日秋分、聖戦進捗会議は予定通り始まった。計画では、有力村のみの会議だったが、会議場所の広場に集まったのは、40村を超えている。しかも、猪村に使者を送っている村は、更に多く150村を越える。
参加条件とした『有力村』言うは安いが、実際に選定しようとすると……どの村にも自負がある……大変な難事であった。
この社会は、村々が独立してポツポツと存在するだけだ。そして、村に命令を下せる権威者は居ない。ある意味、一つ一つの村が主権を持つ国家のような立場になっている。
ハッキリ言って意思決定の効率が悪すぎる。前世の国連総会以下だ。
しかし、それでも進むしかない。
会議の第一の議題は、聖戦の進捗確認だ。
「ワシの方は、付け根基地、西基地、北基地の3箇所の作戦が終了した。会議後に東基地作戦をするが、此方は課題が少ない。年内に終わるだろう。
残りの南西基地作戦と聖戦本戦の進め方は、後で議論して欲しい。
リュウエンさんの縦貫作戦はどうだろうか?」
「僕の方も順調だよ。この三ヶ月で敵の巣を19踏み潰した。その結果、スケオジ村打通作戦が終盤に差し掛かっている。あと二つ潰せば、スケオジ村に到達する。
戦死者を3名も出したのは慙愧に堪えない。だけど、経路の村は皆積極的で、戦士も物資も情報も十分に用意してくれる。
スケオジ村まで行ったら、次はタミサキ村への打通作戦に移る。流石に、年内には終わらないだろう。だけど、東側の作戦は、スケオジ村打通作戦とタミサキ村打通作戦だけの予定だ。春には、西側の打通作戦に移れると思う。
そういえば、西側打通作戦の根回し状況はどうだろうか」
「それは、私から説明しよう」
リュウエンさんの問いかけを受けて、西側にあるマワリ川村連合のタイラさんが話始めた。
「西側の村々への根回しは万全だ。リュウエン殿の準備が整い次第、いつでも作戦が開始できる。
少しでも円滑に連携するため、15名の先遣隊を東側の打通作戦に派遣する予定だ。全員、偵察隊ができる精鋭で、北部大連合基準の連携訓練も済んでいる。
また、作戦の検討も進んでいる。ヨイヒト村打通作戦と湧き水村打通作戦が検討されているが、どの村がどの程度の戦士を出すかまで議論が進んでいる。
無論、最初は起点となる私らマワリ川村連合の戦士団150名が中核になる。今、私らの連合は、連合内の妖魔駆除戦で技量と自信をドンドン高めているところだ」
「それを言えば、北部大連合の若長達も同様だ。前回の会議から、若長隊だけで6つの巣をすり潰した。皆々、自覚を持って訓練に励んでいる。北部大連合の先鋭は、ドンドン増えるだろう」
女狐村のクロキ村長が、北部大連合の若長達の活躍を説明した。北部大連合では、もう一歩でベテランになる若長達を集めて安全圏の拡大を進めている。
クロキ村長は、その作戦の世話役だ。
スミレ坂もこの作戦に参加して魔力を強めている。この三ヶ月で、高揚と土操作を身に付けたと聞いている。
「どの作戦も順調だな。素晴らしい事だ。どの村の戦士も本当に献身的に対応して貰っている。島の守護者を継ぐ者として身が引き締まる思いがする。
本当にありがとう」
「イエイエ、タツヤ様にそう言われると此方の方が恐縮してしまいます。
最も献身に献身を重ねているのは、タツヤ様です。タツヤ様は、新しい世を招き入れる為に、延々と戦場で闘い続けておられる。
頭の下がる思いがします」
テンヤ村長だ。
「過分な褒め言葉、感謝に堪えない。新しい世を開こうと懸命に奔っている事を理解して貰って有難い。
村々には、これから、更なる貢献をお願いせねば為らぬが、協力して貰えるだろうか」
「「……「「応」」……」」
ワシの協力要請に、参加している村長達が、一斉に応えた。
実は、テンヤ村長他が、根回した結果だ。ワシに協力する世論を形成する為に、ワシに協力的な村長達に声を掛けて貰った。
声が揃った賛成の声、態度が曖昧な村長には、強いプレッシャーになるだろう。
「皆が、心を一つにして、聖戦に尽くしてくれる事は、言い表す言葉がない程に有難い。
皆の貢献を最大限に活かすために、次の三ヶ月の作戦を練りに練ろう。
何か、アイデアがあれば、積極的に発言して欲しい」
「それでは、私から、提案です。
兎村南岸に二カ所船着場を作るべきです。そうすれば、猪村から、西側前線基地まで、安全に舟で行けるようになる。
そうすれば南西基地への補給問題も一気に解決してしまう。
一度、村々で人手を出して建設して頂ければ、維持は我が村が末代まで責任を持って実施しても良い」
「何を言い出すかと思えば、そんな戯言を、そんな事より打通作戦の方が優先に決まっておる。我が村まで繋げてもらえれば、周りの村と合わせて、聖戦本線に戦士を50人は派遣できる」
「いやいや、戦士の数は、既に十分じゃ。数だけ増えても兵糧の負担が増えるだけで何ら利点が無い。
それよりは鉄の武器だ。鉄の武器は、あればある程に有利になる。ウチの村にも、鉄の武器を使うに相応しい戦士が何人もいる。鉄の武器を増産して、早くウチの村にも回して欲しい」
ワシから、アイデア出しを頼んだら、何人もが、てんでバラバラ我田引水な事を話し始めた。遠い場所から、何日も掛けて会議に参加するんだ。言わねば損と思う気持ちは分かるが、此れでは話がまとまらない。
如何したものかと暫く黙って聞いていると、タイミングを見計らってテンヤ村長が良く通る声で話し始めた。
「皆様が、色々な提案をされておられるが、タツヤ様が無言のままだ。先ずは、最も戦場を見てきたタツヤ様の御考えを傾聴すべきでは無いだろうか?
タツヤ様は、出来るだけ多くの意見を聞いて最善の策を模索されるお方。自身の考えを無理に押し付ける事はない。タツヤ様のお考えに加えるべき点があれば、後でも確り聴いていただける。
我先と、様々な事を主張するより、タツヤ様の御考えを土台により良い策を考える方が、よりこの会議が上手く回る。
皆様、そうでしょう」
テンヤ村長は、良く通る声と目力で皆を黙らせてから、ワシに向かって話し始めた。
「タツヤ様、議論を集束させる為に、聖戦を進める為に、今一番重要な事を皆にご教授下さい」
R04.11.12:日付を修正




