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アマカゼの癒し成分

 会議まで、余りにも時間が少ない。ヒノカワ様との話を終えたワシは、その足でトンビ村に向かった。根回しは順番を間違えると大変な目に合う。


 9月30日の昼下がり村に着いたワシは、その足でクマオリ村長のもとに向かい。七村連合の会議の準備を依頼した。今回、根回しが必要な事は、ワタリ島に戦士を派遣する件と、奴隷狩りの禁止の件だ。余り異論が出る問題では無いが、根回しの順番を間違えると良い顔をされない。


「話は、分かった。明後日、熊村で七村連合最高会議を開けるよう伝令を走らせておく。

 それはそうと、今日ぐらいは、実家に泊まるな?

 アオカワやテルヒコが随分と寂しがっていたぞ」


 そう言えば、2ヶ月以上トンビ村に帰っていなかったか。アオカワ母さんやテルヒコ兄の顔は一度も見ていなかったな。


「そうよ。私とアカユリさんがトンビ村に戻った時、随分と土産話をせがまれたわ」


 実は、少女書記団は、一月強で交代をしている。婚約者のアマカゼとアカユリ姉さんは、7月の後半から8月末まで、部隊に随行して随分と働いてくれた。あの期間、アマカゼが居ることで、少し癒された。

 作戦の合間に二人きりになって、チョットだけエッチに触れ合った時の、アマカゼの甘酸っぱい顔を思い返してしまう。触れ合ったと言っても服の上からだが、小さくとも女性の唇、胸やお尻には、不思議な癒し成分が詰まっている。


「ワシも疲れているか。今晩ぐらいは家族と一緒にゆっくりした方が良いか……。いや、心配しないでくれ。身体は気を付けて休めている。ただ、ここ一月ばかりは、精神的に張り詰めていたかも知れない。

 そう言えば、アマカゼ、学校の状況はどうだろうか? 文字を読み書きできる者は順調に増えているだろうか?」


「すぐ、そうやって仕事の事ばかり考える。心を癒す事も考えてよ。

 ……判ったわ。気になるのね。学校は順調というか大流行よ。今、入れ替わりで20~30の娘が来ているわ。数が多すぎるから、宿泊費とかの名目で費用を請求しているけど、それでも希望する村が多数ある。

 というか、今回の聖戦に参加している村の殆どが複数人に学ばせたいと希望を出しているわ。

 これも、タツヤが強引に導入した少女書記団の影響よ。あれに、どの村も衝撃を受けたのよ。自分の村というか自分の娘が遅れた娘と嘲りを受けるのではと。女性の身で軍議に参加できるのは、例え意見は言えなくても、ただ聞いて記録するだけの役目でも、凄い(ほまれ)なのよ。その資格が無いという事は、一段劣った娘と見做されることになる。そんなの避けたいのは『極普通の親心』とお父様もお母さまも、お爺様も、お婆様も皆言っていた。

 そして、少女書記団に娘を派遣する為には、文字を読み書きできるのが一人では不十分。前線から送られた木簡を村で読む係りも必要。さらに言えば、交代できる者も居た方が良い。多くの村が、文字の修行者を3人も送る事を希望しているわ。

 どうにもならない希望者数だわ。

 それで、お祖父様に、小屋や設備を何個も増設して頂いた。この(あと)、案内するわ。

 あ、ただ、突然の連合幹部の来訪で騒ぎになると、娘達が可哀想だから、目立たないように行くわ」


『目立たないように』と言いながらアマカゼがウインクをした。気のせいかも知れないが少し期待してしまう。


「アマカゼ。案内は頼めるか? ワシは、伝令を頼んでおく。それと、人目に付かぬようにするのは良いが、暗くなる前に戻るように。気付かれて恥ずかしい思いをさせる事より、安全の方が優先だ」


 クマオリ村長は、そう言って席を立った。


 アマカゼに案内されて、学校を見にいく途中で、人目に付かないように道を外れて森の中に入った。強引にアマカゼの手を引いたが、赤く俯きながらも素直について来てくれた。


 凄く可愛い。


 森の中で向かい合い、抱き締め、キスをし、胸やお尻から癒し成分を吸収した。もう一歩だけ前に進もうと、舌を挿し入れた時、アマカゼの身体が硬くなるのを感じた。


 アマカゼはまだ12歳、ワシの肉体に至っては8歳だ。慌ててガッツいてはいかん。


「今は、まだ、アマカゼを見上げながらの子供のキスだけど、もう少し大きくなったら本当の大人のキスをしよう」


「わたしは……いえ何でも無いわ。

 暗くなると危険だから、早めに丘を登りましょう」


「そうだね。でも、アマカゼのお陰で随分と癒された気がする。ありがとう」


「バカ‼︎」


 何とも噛み合わないぎごちない会話だが、それでも良いさ。


 それから、暫く歩き、学校を遠目に見た。竪穴住居が結構増えている。


「今、合宿用の小屋の4つ目を造って貰っているわ。他に、文字の練習用の小屋が二つ、膠を練って墨を作る為の小屋が一つ、筆や木簡を作る為の小屋が一つあるの。

 何より皆んな熱心だわ。

 そういう意味で学校の事業は順調よ。新しい課題があれば何でも言って」


「色々、やりたい事はあるが慌てるのは禁物だ。まずは、読み書きと計算が出来る人が増えれば良い。

 そうだなぁ。そう言えば、前に頼んだ知識の集積はどうなっているだろうか?」


「あれは……簡単に進む事では無いわ。志願した娘は何人かいる。その娘達は、色々話を聞いたり、せっせと木簡や木の板に書き留めたり、頑張っているわ。

 でも、志願した娘達は途方に暮れているわ。

 人に聞くたびに新しく書き留めるべき事が増える。そして、自分が知っている事すら、全然書き留められない。

 そもそも、何から書いていけば良いのか、全く分からない。物知りなら誰もが知っている事を書き留めても、木簡や墨の無駄遣いでしかない。なら、書き留める価値がある事って何なの?」


 確かに、簡単な話では無いだろうな。しかも筆記用具自体、それなりに費用が掛かる物だ。


「そうか、苦労をさせているのだな。まあ、1年や2年で成果が出ないのは当たり前、娘達には気負い過ぎないように伝えて欲しい。

 書き留める為に、その娘自身が物知りになるだけでも、それなりに意味のある事だから」


「ゴメン、大袈裟に言い過ぎた。心配させたなら本当にごめんなさい。途方に暮れているのは事実だけど、志願した娘達は明るくやっているわ。タツヤは何も心配する必要ないから。本当に大丈夫だから」


 ワシは苦い顔をしてしまったのか、本当にワシは政治家には向かないのだろうな。


 そして、その日は、その後そのまま実家に戻り、家族のもとで暖かく眠る事が出来た。


 次は、帆船の開発状況です。

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