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ワタリ島の必要性

 実は、10月7日の秋分に、猪村で聖戦進捗会議を開く事になっている。北基地作戦に区切りを付けた9月30日の朝、ワシは幹部を集め今後の方針を話し合った。


「これからどんどん寒くなっていく。本格的な冬になるまでに何処まで進められるか? 忌憚のない意見を教えて欲しい」


「それより先に、そろそろ北部大連合の戦士も交代させる必要があるだろう。闘いたがっている男は、相当いるはずだ」


「いや、更に先に、基地の整備が重要だ。見張り台も船着き場も燻製小屋も何もかもまだまだじゃ」


 確かに。前に進む事を優先した為、其々の基地の整備はそれ程進んでいない。それでシンドイ思いをしている者も沢山いる。


「東の基地を作ろうとすれば、北基地への食料蓄積を急がねばならぬ。それと、経路の整備も重要だ。アップダウンが激しい道のり、探索して少しでも楽なルートが見つかれば効果は大きい」


 付け根基地から北基地への地形は、海岸近くまで何本もの尾根が平行に連なっている。海岸を歩ければ楽なのだが、足場が悪過ぎて海岸を歩けない場所が結構ある。そんな場所では、内陸のルートを選ばねばならぬが、内陸ルートでは尾根を乗り越える必要が出るため結構しんどい。

 だから、よく調べて良いルートを見つけたいと考える者もいる。


「何れにせよ、タツヤ様も不在になります。しばらく、作戦は中断です。10月の前半は、基地の整備に充てる事にして、戦士の多くは一旦帰村させる方が良いでしょう」


 実は、兵站の負担は、相当だ。兵站に係わる者は直接の攻撃部隊より多いぐらいだ。

 現状、大戦に従事している者は、500名程度になっている。まず、主力部隊が250名程度だ。これは、魔術士見習、雌鷹隊、少女書記団を含んだ数だ。

 他に、兎村から付根基地付近で食料の現地確保を行う要員が100名程度、西基地と北基地の駐留部隊が合わせて100名程度、彼らは基地の整備や食料調達もしている。そして、これらの基地間の輸送に従事している者が50名程度いる。

 合わせて500名強だ。他に、遠方からの物資輸送隊も居る。


 人数が多くなった結果、物資の蓄積も遅れ気味になっている。一度、人数を減らすのは意味があるだろう。


「皆、勝手な事を言っているが、タツヤ様の問いは、『冬になるまでに何処まで進められるか?』だ。それに答えてないではないか? ワシとしては、北基地への物資輸送に注力すれば、東基地作戦は、年中に終わると思っている。だが、南西基地は何か根本的な手を打たぬ限り、どうにもならんと思っている。

 他の者はどうだ?」


「南西基地作戦をしようとすると、兎村南の海岸に新たに船着き場を作って、輸送の便を良くするしか無いが、船着き場を作る労力、輸送用の丸木舟を多数回送させるための手間。どう考えても、冬までに終わる訳が無い大作戦になる」


「いや、南西基地はワタリ島から、物を運んだ方がマシだ。南西基地予定地には、舟を泊める適当な地形もある。ワタリ村から舟で運んだ方がスムーズに行く」


 南西基地予定地は、ワタリ島の対岸で、手漕ぎでも1日あれば渡れる場所にある。北部大連合からワタリ島へは、マワリ川村経由で島伝いに移動できる。だがら、マワリ川村連合と、ワタリ島の村々の全面協力があれば、海上輸送で対応できる。


「食糧の輸送を舟に依存するのは危険だ。嵐が来て、何日も舟が出せなくなることなどざらにあるのだから」


「いや、いざとなれば、付け根基地に退避すれば良い。食糧が3日分を割り込んだら退避するとか基準を決めておけば対応できる」


「色々、意見をありがとう。ワタリ村とマワリ川村の協力が必要である事は同意だ。だが、何処までの協力が得られるかは、直接交渉しないと判らない。

 だから、今は未確定な南西基地より、東基地を優先する。北基地の食糧備蓄を最優先、各基地と経路の整備が次に優先だ。

 無論、作戦中断期間を利用した戦士の交代も進めておいて欲しい」


 幹部達の話を聞いたワシは、そう総括して会議の為に飛び立った。先ずは、ヒノカワ様と合わねばならない。


「やあ、タツヤ君、異様に早くやって来たね。まだ、会議開始まで7日はあるよ。どうしたんだい?」


 猪村に着いたワシは、若衆に案内されてヒノカワ様の所に赴いた。


「会議までまだ日数があるが、先にヒノカワ様とワシだけの秘儀の話を済ませておきたい」


「了解した。悪いけど二人にしてくれるかな?」


 若衆が駆けて行ったのを確認し、ワシは本題を切り出した。この島の未来を占う重大事、同じ事に気が付いているはずのヒノカワ様と話をしたい。


「名前付きが25匹から24匹に減った。この事は、妖魔王誕生時期にどんな影響があるのだろうか?

 いや、そもそも、ヒノカワ様は経験があるだろうか」


「僕にとっても初めてさ。だから、よく分からない。というか、僕は今でも半信半疑だよ。

 今の今まで、僕の欲目がもたらした幻想だと自分を戒めていた。タツヤ君にもそう見えるという事は、事実なんだろうけど……何というか……嬉し過ぎて信じられない」


 ヒノカワ様でも経験がないのか……それなら、本当にこの一年の闘いの結果なのか。


「それなら、年に2回妖魔王が出現したとか、あるいは出なかった年が有るとかはどうだろう。今回の聖戦での妖魔王出現時期にどの程度の誤差があるか検討したい」


「大戦が2回とかは、結構有ったよ。

 けど、タツヤ君が知りたいのは、妖魔王誕生日を予想できるか否かだよね? そちらは、大丈夫だと思う。未成熟な名前付きが突然妖魔王に成り上がった例は無いから。

 名前付きの成熟度合いを僕とタツヤ君で見張っていれば問題ないよ」


「判りました。これまで通り対応します」


「??? タツヤ君は、感動が薄いな〜。全く動じていないや。僕にとっては、猪村全村総動員の大祭をして、裸踊りを奉納したくなる位の超絶・超越・超級の大ニュースなのになぁ。

 タツヤ君にとっては、単なる通過点の一つなのかなぁ」


「そういう訳では無いのだが……ワシは大戦をまだ2回しか経験していない。それに、今は聖戦をどう進めるかで頭が一杯だ」


「そうか、まあ確かに君はまだ若いからね。で、それほど頭一杯の難題は何? 僕は、何時でも力を貸すから何でも言ってね」


「そうだ。それが今日きた要件のもう一つだ。ワタリ村との交渉の後押しが欲しい。聖戦用の物資の確保、ワタリ島の村々の協力が無いと上手くいかない」


「なんだ、そんなことか。センカワからも言われたから、ワタリ村には言霊を飛ばしておいた。ワタリ島の村々の代表としてツバキが村長を引き連れて来るはずだよ。その時に相談すれば?

 この前ワタリ村に行った時に、村長は『我々も聖戦に貢献したい。戦士でも物資でも何でも言って欲しい』なんてリップサービスしていたからw

 内容と見返りによるだろうけど、交渉には乗るんじゃないかな。あまりに分からず屋するなら、僕が頼んでも良いし、何とかなるよ」


 有難い話だ。ヒノカワ様とワタリ村の好意を上手く利用させて貰おう。


次は、アマカゼの癒し成分です。

R04.11.12:秋分の日付を修正

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