貝貨の祟りへの対策会議
弥生時代っぽい世界で何故貝貨が流通しているのか?
そこは、基本ご都合主義です。
ご容赦下さい。
金属を精錬できないのに、貨幣が作れる訳は無い。この社会では、銅銭ではなく貝貨を使っている。タコ村のマコさんは、タコ村の貝貨の実質責任者だ。
大連合本部の運用資金の話に入った時、マコさんが貝貨の運用面から意見を述べた。
「貝貨で困るのは、だぶついたり、突然大量に使用されたりすることです。貝貨を出しても欲しい物が買えない状態になると、発行している村で貝貨の回収を進める必要がありますが、正直大量の回収はしんどい。
タコ村の貝貨の安定のため、カニハミさんはもちろんイモハミ婆さんにも協力してもらいましたが、治癒と再生による貝貨の調整機能が無くなると、多少困る事が考えられます。
私としては、貝貨の安定のために連合というかタツヤさんにより積極的に協力してもらいたいです。協力が得られるなら、連合の本部に3000枚程度までなら、貝貨をプールしておいて貰っても良いです」
確かに、そうだろうが、その話題は機密事項にせねばならぬ事ではなかろうか。
「協力するにやぶさかではない。僕が協力すれば済むなら、此処で議論する必要は無いのでは? 後で僕がクマオリさんかブナカゼさんとお伺いするよ」
「お気遣いありがとうございます。確かにあまり公然と議論して良い話でありませんが、大連合の幹部の方は意識しておいてもらう必要があります。大連合は、大きすぎる。大連合の一寸の不注意で、タコ村が貝貨の祟りに掛かってしまう」
「「「貝貨の祟り???何の話だ???」」」
事情を理解していない何人かが同時に疑問の声を上げた。
「現在、この辺りで貝貨が流通する状況を維持するのに、タコ村と熊村が結構な無理をしているって話だよ。大連合が成立すると、恐らく貝貨の流通量が増える。そうすると、タコ村と熊村の2村じゃ支えきれなくなる。
貝貨の回収なり流通の促進には、ワシは最大限協力するし、大連合にも無茶な事はしないよう意識してもらう必要がある。
そういう事でしょマコさん」
「そうですね。事情を知らない人には、二つ驚くような事を説明しましょう。
一つは、貝貨を発行しているどの村も同様ですが、実は、100枚の貝貨の組が100個、それを遥かに超える量の貝貨の在庫を持っています。クニが滅びた以降、貝貨の流通量は非常に不安定で、在庫が溜まる傾向にあります。
二つは、カニハミさんとイモハミ婆さんの再生の費用の一部は使わずプールして貰っています。何度か、溜まった貝貨の大部分を、そのままタコ村の在庫に送って貰った事もありました。
タビスケがばら撒いて、カニハミさんとイモハミ婆さんが回収する。一昨年までは、この手段で、この辺りの貝貨の流通量を調整していました。そうでもしないと、村々がどんどん孤立していくばかりです。
去年頃から、貝貨を欲しがる人が増えて、在庫からの放出量を増やしているのですが……正直言えばとても恐ろしい。だぶついた時に、誰かに回収して貰わないと大混乱になる」
「???何がどうなっているのか、まったく判らん???」
結構、長い話になりそうだな。だが、理解してもらう必要があるな。
「他の部分は、ほぼ固まっているので、貝貨の問題についてじっくり議論しよう。マコさんは、色々説話とか用意してあるんでしょ?」
「はい。ただ、真剣に聞いてくれる人は非常に珍しいですね」
この問題を理解してもらうのに、マコさんが手を変え品を変え、翌日の昼前まで掛かってしまった。とはいえ、関心のないヒノカワ様や事情を理解している人は席を外してしまったが……
「貝貨を発行している村は、そんな重い役目を引き受けていたのか……今まで全く誤解していた。誠に済まん事だ」
理解するのに一番時間が掛かった狐村のギンオ村長が、零した。
「新しい事業を始めたり、村々の特産品を流通させる上で、貝貨は非常に重要で、今後流通量を増やして貰いたいとワシは思っている。ただ……タコ村の負担が問題なんだ。祟られそうになった時に、全力で庇う事を意識しておかなければならない。
大連合が気ままをするのは、地域全体を混乱させかねない。そういう意味で、大連合の金庫番の人選も重要だけど、これは出来れば総会での決議事項にしたくない。
仕事内容を理解できる村が少なすぎるから」
「そこは、形式的な責任者をイモハミ婆さんにしてもらって、最初は熊村長夫人のアマミツさんに勤めて貰いたいと考えています。アマミツさんは、長年やり取りしてきた方なので、事情を十分理解しています。また、議長代理の夫人の役割として、事情を知らない村からも自然に受け止めて貰えると思っています。
何れは、素質のある若い娘達を教育して分担したいとは思いますが……相当先の話ですね」
そして、夕方まで掛かって、全ての議題について意見の統一が終わった。さて、これをどうやって他の村に提示すべきか……
「会議の初日は、それぞれの村々の紹介で費やそうと思う。昼過ぎから開始すれば、夕方まで掛かるだろう。そして、親睦の為の宴を開く。
タツヤ以外の者は、その間に委任を取り付けた村々への説明を進めておいてくれ。タツヤには、色々な村が色々な話をしに来るだろうから、『なるほど、なるほど』と聞いた上で、『吟味します』とだけ答えるようにしてくれ。
二日目の最初に、タツヤの個人的意見として、今回まとめた提案を紹介してくれ。あえて言えば、『経験が浅いので色々な意見が欲しい』という態度を貫いてくれ。何も意見を言えなかったとなると、プライドを傷つけられて拗ねる村が出かねん。
それから、何日か個別または全体での会議を開いて、ガス抜きを進める。若しかしたら、ワシらが気づかんかった重要な問題やより良い提案があるかも知れん。原案から、何か所かは修正して、全体会議でまとまったという体裁を整えるつもりだ。
議論をどの程度の日数で打ち切るかは、正直予想が出来ないが、遠方の村もあり、村に持ち帰っての議論の時間も必要だ。10日未満で打ち切らないと、大盟の儀の日程に不都合が生じる」
テンヤ村長と相談していたブナカゼ村長が、そうやって根回しを締めくくった。さて、明日から本番だ。
次から章を変えます。




