第二編プロローグ
よろしくお願いします。
興奮した戦士達の騒ぎに当てられて、ワシは風に当たろうと防壁の上に移動した。この大勝利を祝うに相応しい綺麗な月夜だ。
この世界に転生して7年。妖魔に喰い散らされて人が滅びる未来を解消しようと、ワシが闘い始めて1年。今日、その第一歩──建国──の足掛かりになる勝利を収めた。ワシも血が騒ぐ。美しい月を愛でて心を鎮めたくなる。
月は美しいのだが、匂いは酷い。当たり前か。これは戦勝の宴、周りには何百もの腐乱死体が転がっている。肉に出来るほど鮮度の良い物も中には……止めよう。食中毒と伝染病が怖い。
第一、欲張る必要は無い。籠城用に用意した食料はまだ十分残っている。それに、奴らを皆殺しにし、邪魔者は居なくなった。採取と狩りで十分な食料を確保できる。
二本足で歩き、若干は知恵もあるが、妖魔は我々人間の不俱戴天の仇だ。妖魔に喰い散らされ人が滅びる可能性もある。人型に近い死体を見て心を乱すのは止めよう。
今夜は、大勝利を純粋に喜ぶべきだろう。この勝利で、新たな体制を築けるだろう。上手くいけば、早期に妖魔を駆逐しきって、三千年の刑期が千年に短縮されるかも知れない。
もっとも、大連合に参加する村々全てを合わせても五千平方㎞程度だ。一億五千万平方km程度はある世界、その世界を救う使命に比べれば塵以下だ。
だが、その第一歩──建国──の足掛かりにはなる筈だ。
前世の大事故──高速道路逆走による惨事──を無かった事にする代わりに、この世界に転生して7年、本格的に動き始めて1年、……自画自賛だが成果としては十分だろう。
6歳の正月にイモハミ婆さんの所へ修行に出て開眼し、魔術士になった。そして、この近辺がどれ程、妖魔に脅かされているのか、魔術士がどれ程貴重なのか痛感した。魔術士になるための修行に20年程度は掛かるのが普通、だから、13歳で開眼したスミレ坂は天才と呼ばれる。それより、7歳も早く開眼したワシは、皆にどう見られたんだろうか。
幸いな事に、あっという間に魔闘術と魔力矢を身に着けて、闘えるようになった。
それから、今日までずっと闘い続けた気がする。
スミレ坂の婿を選ぶためのお見合い連合に燃える縁談大作戦……集団見合いを成立させるには、先に移動経路上にいる妖魔を駆逐しなければならない。
多数の重傷者と2名の戦死者を出しながら何とか貫徹して、スミレ坂はタコ村のウオサシという似合い──この場合似た者──の婿を得る事が出来た。
それから、引き続き恒久連合を結んだ七村周りの妖魔の駆除が始まった。
それに、今日の大戦の援軍を確保する為、東奔西走し闘い続けた。
眼下の散らばる数百の腐乱死体は、ある意味1年闘い続けた成果だ。
襲われた村が壊滅し廃村するのも珍しくない妖魔の大襲撃──大戦──を尊い3名の犠牲者に抑え込んだのは、一定の勝利と言えよう。
次は、この余韻で大規模な体制を作ろう。刑として課された使命──前世知識を活かした技術移植、それによる人の滅亡の阻止──を進めるには、技術開発を行いえる余裕の確保が第一歩だ。
今日、ワシは心の中で決意した。この社会での成人は15歳だ。ワシが15歳になり成人する時に、ワシはワシの国を建国する。クニが滅びて70年も無政府状態だったこの社会、国という物が何かイメージする手段も無いこの社会
今夜、ワシは、ゼロからの建国に向けて走り始める。
この作品は、前作「神聖太宰王国の建国 ~クニも文字も暦もない社会への懲役刑~」の続きです。そのため、しばらくは、前作を読まなくても良いよう、各話の末尾に補足を入れます。
H30.5.13 書き出しを見直しました。