神社2
「おみくじをひこうよ」
「お、おみくじね。うん、いいね」
まだ動揺を引きづっているようだけど、おみくじで時間を稼ぐことに成功した。変な空気になったし、それもなんとかしたいしね。
移動する。本宮の前に戻ってきて、右側の脇の小さめの建物で、常時お守りとかをうっている。もちろん、おみくじも売っている。
「あれ、干支みくじだって。こんなのあったっけ?」
「昨年から販売開始しております」
「あ、そうなんですか。ありがとうございます」
かなちゃんに話しかけたのに、中にいる巫女さんが答えてくれた。びくっとする僕に代わって、かなちゃんがお礼を言ってくれた。う、不意打ちだったから、つい、落ち着いたら、僕だって知らない巫女さんでも返事くらいできるし。
と心の中で言い訳をしつつ、指先で干支をかたどった小さな人形をつつく。ねずみで、水色やピンク、白と色とりどりだ。実際にはないだろうけど、水色が可愛いな。しかし、干支みくじ高いなぁ。普通のおみくじが200円、水みくじが300円で、干支は500円。人形として飾れるとは言え、別に僕飾る趣味はないし。
「たくちゃんは干支みくじするの?」
「ううん。しない。普通でいいよ」
「そう? たくちゃんの部屋そっけないから、一個くらいこういうの飾ってもいいと思うけど」
「いいよ。掃除大変だし」
こういう小物って、地味に埃溜まったら面倒だし、さりとて掃除もちょっとひと手間面倒なんだよね。
「そ、そう? じゃあいいか。すみません。おみくじ2人します」
かなちゃんがお金を払ったのを横目に見つつ、おみくじ棒が入った八角形の箱をじゃらじゃら揺らしてから逆さにして、手のひらに出す。5番だ。
かなちゃんに渡して、それぞれの番号のをもらう。お。大吉だ! こいつは縁起がいいね!
「大吉! かなちゃんは?」
「……うーん、吉。普通だね」
ふーん、と相槌をうってから、ピンとくる。そうだ。これ、干支みくじを買ってから、かなちゃんの部屋に飾るって流れにしたら自然に行けるんじゃない? 考えたら、僕の部屋ばかりでかなちゃんの部屋には全然行ってない。
いつもの僕の部屋だと流されてしまいそうだけど、かなちゃんの部屋ならいつもと感じが違うし、流されずにかなちゃんにだけ二人だけって意識させられるかも! これはいい案だぞ。
「じゃあかなちゃん、もっかい引いたら? 干支みくじとか」
「え? そういうものじゃない、いや、いいんだけど、やっぱりほしくなったの?」
「ううん。かなちゃんの部屋こそ、どうせそっけないんだろうから飾ったらどうかなって」
「うーん、まあ、じゃあそうしようかな。せっかくだし、記念に残してもいいかな」
断られたらどういう風に言いくるめようかなと思ってたら、思いのほかすんなり頷かれた。もしかしてさっきの提案も、自分に振ってほしいからあえて僕に言ってたのかな? だとしたら空気読めなくて申し訳ない。
「何色がいいと思う?」
「かなちゃんが好きなのでいいとおもうけど、水色が可愛いかな」
「だよね。私もそう思ってた。じゃ、これで」
「え、ほんとに? 自分で選ばなきゃ意味がないんだよ?」
「水色の中の一つを選んだのは私だし、それに本当に、水色が可愛いって思ってるってば」
「それならいいけど」
いいけど、僕に聞く必要あったのかな? まあ答えた僕も僕か。水色だけで5つ以上あるわけだし、まあいいか。
かなちゃんは嬉しそうにネズミのお腹からおみくじとりだしてあけた。
「あっ、大吉だ!」
「え、本当に!? やったじゃん」
「えへへ。ありがとう」
「じゃあさっそく、結ぼうか」
建物の横の、結ぶ用の柵みたいなところに移動しつつ、おみくじの文章の詳細を読む。待ち人来る、か。でも僕にとってかなちゃんがもう待ち人みたいなものだし、かなってるな。恋愛運も良し、だね! ん? 縁談、続々と来る? え、続々とは来ないでしょ。なにこれ恐い。モテ期がくるってことかな。まあすでに来てるから、あたってるのか。失せ物はでず。勉学は、目標を定めて努力すれば届く。ふんふん。大吉なのに、そこそこ微妙な評価もあるなぁ。ま、恋愛系がいいだけで今はいいか。転居とかどうでもいいし。
「そうだね。でもたくちゃんのは大吉だし、結ばなくてもいいんじゃない?」
「ん? なんで? 結んだら悪いのはよくなって、いいのはその通りになるんじゃないの?」
「そうなの? 私は、いいものなら持って帰ってもいいって聞いたけど」
「そうなんだ。でも別に持って帰る必要ないし、結ぶけど」
きゅっと結ぶ僕の隣に、かなちゃんも結ぶ。ん? 一個だけ?
「かなちゃん、もう一個は?」
「へへ、大吉は、せっかくだから記念に持って帰ろうかと思って」
「ふーん」
大吉一つで記念って、そんなに嬉しかったのかな? そりゃ僕も嬉しいけど、喜んで持って帰って飾るってのはやり過ぎな気も。まぁ、そこに口出しする気はないけど。
ん? あれ? でも前にかなちゃんと来た時は結んでたような? まぁ、いいか。
「じゃあ、かなちゃんの部屋行こうか。そのネズミとおみくじ、飾らなきゃだしね」
「へ!? え、わ、私の部屋!?」
え、な、何その反応。そんな、ちょっと飛び上がるくらい肩動かして反応したけど。えぇ? そんなに僕、驚くようなこと言ってる?
確かに若干唐突だし、えー、急に? みたいなことは言われるかもと思ってたけど、そんな驚く?
僕まで驚いて、一歩引いてしまった。そんな僕に、かなちゃんはきょどって手を振りながら口をひらく。
「え、えと、え? そんな急に。そ、掃除とかしてないし」
「そんなに散らかってるの? なんなら、片付け手伝ってあげようか?」
「う、そ、そこまでじゃないけど。え? もう来るの決定なの?」
「まあ……そこまで言われたら、もう行くしかないよね?」
絶対かなちゃんの部屋に行かなければならない、わけじゃなかったけど、そんなに動揺されたら、是非部屋を見せてもらいたいという気になって当然だ。それに女の子の部屋と言うのも、興味がある。向こうなら綺麗だろうって思うけど、こっちだと女の子の平均的な部屋と言うのが想像できない。
「う……ちょっと、片付ける時間をくれる?」
「それはいいけど、手伝うよ? 僕は全然、かなちゃんが汚部屋の住人でも、まあ引くけど、嫌いにはならないよ」
「お、汚部屋はいいすぎだから。ちょっと散らかっているだけで、ご、5分もあれば余裕だし」
「じゃあ、それで」
「うん。……本当にくるの?」
「ここまできて、やめよっかってなると思う?」
「思わない……」
いやまぁ、本気で絶対いやだって言うなら引き下がるけどね? でも恋人だし、ずっと見ないままとはならないよね? まして僕の部屋に入りびたりの状態で、自分の部屋は5分で片付く程度散らかっているから嫌ってのはさすがに通らないよね?
と言うことで、かなちゃんの家に向かう。もう当初の予定からずれてきている気もするけど、まあ別に絶対今日成功しなくてもいいし、何とかなるでしょ。




