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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
恋人編
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初デート3

 ぱっと明るくなると同時に、僕らは手を離した。

 まるで何もなかった振りをするみたいに、目をそらしながら席をたつ。映画館の入り口に向かいながら、僕はさっきの熱が残っている気がして、そっと右手を握ったり開いたりしてみた。

 そうすると、段々とマヒして手の感覚が薄れて、普段通りの感じになる。それが当たり前のような、でも少し寂しいような気になってかなちゃんの横顔を盗み見る。


 かなちゃんは少しにやけたような顔をしていて、僕は少し笑ってしまう。だけど同時に、僕も同じような顔をしていたかと思うと、恥ずかしい。

 だけどふと、このままでいいのかと不安になる。今はこうして、間違いなく手を繋いでいたと思える。だけど、まるで何もないみたいに二人して振る舞えば、それは本当になかったことと同じじゃないのか。ただ自己満足しているだけで。それは、嫌だ。


「あの、かなちゃん」

「! な、なにかな、たくちゃん」


 かなちゃんはびくっとして、まるで悪戯が見つかった子供みたいに伺うように僕を見てくる。


「さっき、手、繋いだよね」

「え、あ、う、うん……い、嫌だった?」

「嫌だったら、握り返さないよ」

「だよねっ! えっと、じゃあ、なんでしょう?」


 にこっと笑顔になってから、かなちゃんは首を傾げる。う。聞き返されると、その、困る。

 僕はただ、言葉にして認め合いたかっただけだ。確かに手を繋いだって、実感だけじゃなくて認めて、それを事実として認識して初めて手を繋いだことを残したかっただけだ。って、こういう風に言うと、めちゃくちゃ女々しいっていうか、乙女チック的というか、は、恥ずかしい! こんなこと言えるわけない。


「何ってことはないけど、その、言いたかっただけ。それより、かなちゃんのせいで、ポップコーン、余ってるんだけど」

「うぇ? わ、私のせいで?」

「そうだよ。かなちゃんが僕の右手を封じるから」

「えーっと、それはその、誠に遺憾でして。はい。食べます」


 かなちゃんにポップコーンを渡して、ドリンクは飲み切ってごみ箱に捨てた。かなちゃんは、まだ結構残っているポップコーンをつまんでいる。

 早くなくしたいのか、結構早くもごもご食べてる。ちょっとハムスターみたいで可愛い。かなちゃんはこちらの女子らしく、結構よく食べるので、軽く食べてくれるだろう。


「次どこ行く?」

「お腹減ったしお昼だね」

「え? ……そう言えば、最初に話していた予定ではお昼食べてから映画だったのに、順番かわったね」


 緊張で電車で変に緊張したから忘れてた。忘れてたのはいいけど、え、かなちゃん、ここから食べれるの? ポップコーンの半分以上を食べて、お腹空いたっていった? まじか。ポップコーンって結構お腹膨れるのに。

 まぁ、かなちゃんがいいなら僕はいいけど。


「うん。何食べたい?」

「かなちゃんが食べたいものでいいよ」

「うーん、私の好みで言ったら、とんかつとか食べたいなぁ」

「いいね。それにしようか」


 たしかカツもあったしね。でも、僕はいいけど、入るんだね。いいけど。


 レストランエリアにつくまえにかなちゃんはポップコーンを食べ終わったので、ゴミ箱によってからそのまま店をみる。先日のラーメン屋をスルーして、とんかつ屋に入る。揚げ油のいいにおいがする。

 単純なもので、僕も急にお腹が空いてきた。時間的には少し遅いくらいだしね。


 お店に入って案内された席につく。メニューを見ると、今日のランチのヒレカツとエビフライ、ササミカツのセットがおいしそうだ。かなちゃんはロースカツ二枚セットだ。おお。食べるなぁ。

 注文した品は、しばらく待っているとやってきた。あげたての香ばしい匂いと見た目、よだれ出てきた。


「ん、美味しい」

「んー、サイコー」


 かなちゃんは嬉しそうに食べている。その顔を見ていると、僕も何だか嬉しくなってくる。

 食べ終わったら、腹ごなしでのんびりしながらはっとする。そうそう。今のうちのこっそりお金をはらっておこうかなぁ。さっき次回はって言われて納得したわけだけど、でも考えたら、映画って結構高いし、次にただご飯だけだと、釣り合い取れないからね。せめて食事くらいはもってもいいでしょ。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるから、待ってて」

「ん、OK。って、ちょっと待って、外だし、先に会計しちゃおう。一緒に行こう。私も行くし」


 さりげなく伝票をとって、会計に向かおうとしたのに阻止された。くそぅ。

 そうなんだよなー。普通のお店じゃないから、トイレは共通のモールのトイレだから、会計の向こうに行かないといけないんだよねー。ううん。だからこそ、怪しまれずにお会計できると思ったのに。


「かなちゃん、さっき映画出してもらったし、ここは僕が持つよ」

「えっ、いやいや。デートなんだから、私に払わせてよ。てかこのくだりさっきもやったよね?」

「そうだけど、映画が高いから」

「うーん、たくちゃんの気持ちも、わからなくはないんだよ? でも、お願いだから、ね?」

「……逆に迷惑な感じ?」

「うん。私のこの気合を、邪魔しないでほしい」

「わかったよ」


 格好つけたいのはわかるけど、でも実際に2人ともバイトしてないし、むしろかなちゃんがバイトできないのは僕の為みたいなものだし、払うのも自然だと思うんだけどなぁ。

 しょうがない。こうなったら次回もそれなりのお金を使うデートコースにするか。


「さて次は、どうする? 予定ではご飯食べてから映画見て、お茶するって予定だったけど」

「うーん、どうしよう。いつも行かないとことなると、ゲーセンとか?」

「ゲーセンってデートコースっぽいかな。いいけど」

「2人で対戦する系ならいいんじゃない?」

「いいねぇ。レース系とか?」

「あと、リズムゲーは?」

「いつも家でしてるけど、あれってゲーセンのだと難しそうじゃない?」

「まぁ。でもそれも面白そうだし」

「そうだね。じゃ、お会計していこっか」

「うん」


 引きこもっていて家でゲームしていたし、変わってからも家にゲーム機があるのでわざわざゲーセンでゲームしようとはならなかった。この辺に来て暇になっても、クレーンゲーム見るだけで、奥のゲーム機とかはあんまり見てないし。


 いろんなゲーム機があるってのは、わかってはいるし興味がなくはないんだけど、結構若い人が騒々しい感じにいっぱいいるのが見えてるし、正直びびって入らなかったんだよね。でも最近はもう、他人にびびることも減ってきたし、もう平気だ! 今の僕は、2回四捨五入したら100人になるくらい、友達がいるんだから!


 NAMAKOに入って手前のクレーンゲームコーナーを一通り見てから、ついに奥の方へ行く。レースゲームやプリクラ、シューティングゲーム、リズムゲームが並んでいる。


「とりあえずどれする?」

「うーん、とりあえず、空いてるからあれしようか」

「シューティングゲームだね。すごい懐かしい。覚えてる? 子供のころ家族ぐるみで温泉旅行行ったときに、旅館にあるのやったよね」

「あー、あったっけー」


 なんか、あった気もする。でももっとごつくてレトロ感あったような。これは画面も大きいし、銃もスマートな感じでいいなぁ。

 種類が多いけど、一つずつが何台もあるわけじゃないからか、人気のあるやつは列ができている。なのでたまたま空いているやつにすることにする。


 お金は、あ、100円なんだ。安いなぁ。もっと高いイメージがあった。お金をいれて、荷物を置いて、早速プレイする。


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