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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
恋人編
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挙動不審

「……でも、僕」


 かなちゃんは好きじゃないと嘘をついた僕に、お姉ちゃんは優しく許してくれた。だけど、僕はそんな自分を受け入れきれずにいた。

 それに、お姉ちゃんの提案に対しては、どっちにしろ受け入れられない。それをはっきり伝えないと。


「どうした? 別に、好きならそれでいいさ。無理強いするつもりはないって、言っただろ?」

「……うん。だけど、でも、僕、かなちゃんと付き合うとか、ないし、だから、結婚だって、しないよ。ずっとこの家にいる」

「うん? どうした? いや、嬉しくなくもないが、ん? どういうことだ? 加南子のことが、好きなんじゃないのか?」


 う。改めて聞かれると、体中が熱くなる。

 かなちゃんのことが、勝手に頭の中に思い浮かぶ。そのかなちゃんは、すごく優しい笑顔で、最近毎日みたいに傍で見てるはずなのに、何故かかーっと体が熱くなって、どきどきしてしまう。

 意識してしまうと、どうしようもなくて、僕は、今更自覚する。こんなに、かなちゃんは僕にとって、友情以上にどうしようもないくらい、異性として好きなんだ。女の子として、好きなんだ。


 もう、こんな反応してしまった僕が、今更お姉ちゃんに隠せるわけもない。


「うん。僕……かなちゃんのこと、好き……かも」


 素直に答えきれずにあいまいにする僕に、お姉ちゃんはさっきから不思議そうな顔をしていて、しきりに首をひねっている。


「あ、ああ……うん? ちょっと待て。加南子のことが好きだけど、でも恋人になる気はない。そして加南子以外とも付き合ったり結婚する気はないから、忍ともあわないと言うことか?」

「う、うん。そうだよ」

「幸せになるのに、加南子が必要なんじゃないのか?」


 う。確かにさっきは、自覚した衝撃で思わずそのまま言ってしまったけど。えっと、か、カットで。


「そ、それはその、あくまでそうなった時を想定したらであって、実際にはしないから。えっと、つまり、将来的にはかなちゃんには傍にいてほしいけど、結婚とかそういうのとは違って、普通に今のまま居てほしいって言うか」

「……いや、ああ……いや、卓也、お前、それはいくらなんでも、加南子が不憫と言うか……いや、お前がそうしたいなら、いいが。うん、好きにしろ」

「ん? あ、う、うん。えっと、とにかくそういう訳だから、大森先輩のことは、ごめんなさい。諦めてほしい」

「ああ、わかった。すまないな。積極的になったお前を、見ず知らずの女がちょっかいをだしたりするんじゃないかと思うと、つい先に安心な人間をあてがおうと先走ってしまった。できれば加南子以外だとなおいいしな。あ、でももちろん、お前がどうしても加南子がいいと言うなら、なんだかんだ許すつもりだぞ? 私に気をつかって言っているなら、そんなのは全然いいからな?」


 謝ってから、はっとしたように慌ててそうフォローされたけど、そ、そんなのじゃないよ!


「ち、違うよ。そうじゃなくて、かなちゃんも、もう僕のこと好きじゃないかもだし、その、この関係を、壊したくないから、このままがいいんだ」

「そうか……わかった。わるかったな、急かして」

「ううん。全然いいよ。お姉ちゃんが心配して言ってくれたのはわかってるから」


 要するにお姉ちゃんは、今まで引きこもっていた僕が積極的になったから、今までの対人関係の少なさから変な女の人に引っかかってしまう前に、信頼できる人と出会わせようとしたんだ。そう考えたら、話は急すぎるけど、全然変なことはない。

 僕はお姉ちゃんにとってそれだけ頼りない、心配な弟だったんだ。僕だって、自分がまだまだで、世間知らずで人を見る目もない、恋愛偏差値も0の駄目な奴だってわかってる。だから、怒ったりはしない。そこまで心配だったのかって、ちょっと自分が情けないけど。


「そうか、よかった。ごめんな。あ、それはそれとして、バスケの応援はきてくれるか?」

「もちろん! お姉ちゃんのことは好きだもん」

「卓也! 私も好きだぞ!」

「えへへ」


 まぁ、思わぬことを自覚してしまったけど、でも今後もかなちゃんとの関係はこのままをキープするし、何にも変わらないよね!









「おはよう、たくちゃん」

「おは、よう。きょ、今日も、早いねー」

「え? そう? と言うか、なんか変だけど、どうしたの? 体調悪い?」

「全然! 元気ですけど!?」


 う。なんだこれ。別に、昨日急にかなちゃんを好きになったわけじゃなくて、元々好きなのを、恋愛的な意味でもあるって認めただけなのに。

 なんでこんな急に、顔見るだけで変な感じになるんだ!? こんなのおかしくない!? だって小学生の時だって好きだったけど、別に告白するまでも多少意識するけど普通に遊んだりしてたのに!


「え、明らかにおかしくない?」

「おかしくないです。ちょっと距離近いよ。セクハラだし、離れて」

「え、え? ど、どうしたの?」


 首を傾げつつも、かなちゃんは僕から一歩距離をとってくれた。

 全くもう! かなちゃんは無意識に距離が近すぎるよ! なんなの、その肩が触れ合いそうな距離感。完全に恋人とか家族の距離だよ。僕らは年頃の男女なんだから、ちょっとは気をつかってよね!


「どうもしないよ。単に、かなちゃんが近いから言っただけ。体調もなんともないし」

「えー? えっと、近いのはごめん。心配で。でも、さっきから目を合わせないのはなんで?」

「は、はー? なんのこと言ってるのか全然わからないし、目を合わせようとするなよ。きもいんですけどー」

「う。ご、ごめん」


 あ、やべ、いいすぎた。かなちゃんが想定以上にへこんでしまったようで、胸を押さえてさらに離れてしまった。だ、だって、めっちゃ追及してくるから!


「こ、こっちこそ、言いすぎた、ごめん。違うんだ。その、かなちゃんが、えっと、と、とにかく、きもくないから! そして一定の距離は保ってほしい。体調には問題ないけど、今日は一日挙動不審になるけど、とにかく気にしないで」

「う、うん……わからないけど、わかったよ」


 よかった。わかってもらえた。よしよし。とにかく、今は変に混乱してしまってるけど、ちゃんと、元通りにならないと。


「おはよー。あれ? なんか酒井くんと小林さん、喧嘩してる?」

「おはよう、金山さん。喧嘩なんてしてないよ」

「おはようございまー、ん? あれ? 酒井くん、なんかご機嫌ななめな感じ?」

「そんなことないよー」


 何故か、みんなからすぐ異変を察知された。そんなわかりやすく変だったかな?

 とにかく誤魔化して、授業が始まるまでしのいだ。


 授業中、かなちゃんの後ろ姿をじっと見て、ひととおり照れまくることで逆に冷静になって、なんとか普通に話せるようになった。


「たくちゃん、まだ目は合わせてくれないの?」

「かなちゃん、逆に考えるんだ。僕がかなちゃんと目を合わせないんじゃない。かなちゃんが僕と目を合わせないんだ!」

「え……えー? どういうことなの?」

「そう言うことだよ!」


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