児童館でボランティア お花見 集合
結構時間かかったけど、慌てるほどの時間ではない。お弁当をつめてのんびり休憩してから、着替えて準備して出発だ。
集合場所の10分前には到着した。すでに部長はいて、さすが。って感じだ。
「おはようございまーす」
「おはよう、卓也ちゃん。今日も可愛いね」
「どうも」
部長にきらっと効果音が付きそうな笑顔で言われたけど、スルーする。こう言う技なんだから、気にするほうが失礼だよね。
すぐ近くに、児童館の職員らしいお姉さんが数人いて、紹介してくれた。事前に言ってくれてたみたいで、男!? ざわざわ、みたいな反応はない。あ、いやこの言い方だと、言われて当然みたいで自意識過剰だよね。高校でちょっと騒がれたからって、それが世間の普通じゃない。
この間の清掃活動ではちょっと変な感じになったけど、普段は町中歩いても、ナンパされるくらいで、ざわざわされたりはしないんだから。普通に大人は男ってだけでびっくりしないよね。
そうこうしていると、他のみんなも来た。ボランティア部では一年はこの間と同じで、先輩は前と同じ人が7人いて、知らない人が2人いた。と言っても、元々全員覚えたわけじゃない。
あとでかなちゃんと確認し合ったけど、普通に名前とかはうろ覚えだ。でもそれはしょうがないよね。
全員揃ったところで、さっきのも合わせて、年配の館長さんも含めた職員さんたちに改めて挨拶する。職員は5人だ。ボランティア部と合わせて19人だ。
そして今日の予定の詳細が知らされる。予定では28人の児童が来るので、職員一人ずついる5グループに分かれて、児童5,6人に対して僕らと職員が3、4人ずつで一緒になるのが基本で、移動等をするらしい。
僕とかなちゃん、部長と館長さんで保護者組は一組だ。ここに子供たちが5人来る予定だ。え、館長と一緒なの? とちょっと戸惑ったけど、色々理由があるらしいから、しょうがない。それに話すと、のんびりした上品で気さくな感じで、結構好きだし、楽しいかも。
「かんちょーせんせー! おはよーございます!」
「あらあら、みんな元気ねぇ」
あ、生徒が来た! 新一年生は、7歳だっけ。ちいさいなぁ。この間の清掃活動の時の子ほどじゃないけど、僕らの半分くらいなんじゃない? それは言い過ぎか。でも僕の胸よりは下だ。
3人の子供たちが駆けあうようにやってきて、園長先生に抱き着くように挨拶した。可愛い。となごんでいると、後ろにいた僕らに気づいてびくっとして、きょろきょろする。
「あ、あれ? か、かんちょーせんせー、知らない人、いっぱいいるよ?」
「ふしんしゃってやつじゃないの?」
「えーでも、なんか、誰か来るって言ってたような気もするよ?」
「そうよ。今日は、高校生のお姉ちゃんたちが、一緒に遊んでくれるの」
「そーだった、そんなことも聞いたかも知れない。うーん」
「どうしたの? いつも元気な綾香ちゃんらしくないわね? ほら、ご挨拶しましょうか」
こっちを見て、もじもじしだした子供たちに、園長先生が優しく促す。この間も思ったけど、子供はやっぱり可愛いし、見ててほっこりするなぁ。
「う、うーん。えへへ、私、綾辻綾香! 今日は、よろしくお願いします!」
「と、灯火ちゃんは、灯火ちゃんだよ」
「あたし、磯山多恵、です」
う、やばいぞ。これ、名前を覚えないといけないのでは? あ、いやでも、あとで班になるし、最悪その子だけ覚えれば大丈夫。とりあえずこの子たちの名前を、うろ覚えまで持って行く!
「私は、小林加奈子です。今日はよろしくね」
「私は飯島三美だよ。よろしくね、お嬢ちゃん」
「僕は酒井卓也です」
「!? あれ、おにーちゃんはおにーちゃん!?」
「わー、大人の男の人だ! 珍しいね!」
「灯火ちゃん、はじめて見た」
お、おお。子供からも新鮮がられてはいるけど、大人の男の人って言ってるってことは、子供は普通に見てるってことだ。そりゃそうだ。僕も、小さいころは僕以外の男の人をちょこちょこ見ていた。小さな子供はどこに行くにも親と一緒だから、それなりに見かけるのだ。うんうん。同級生相手より、子供相手の方が気楽かもね。
「わー、おにーちゃんも一緒に遊ぶの? すごいたのしそー」
「だっこしてー」
「灯火ちゃんも、一緒に遊んであげてもいいよ?」
「あ、ありがとう。えっと」
え、だっこしてとか言われてるのはどうすれば? やればいいの? やってもいいけど、三人とも言われて順番にやったりしたら疲れそうなんだけど……ま、まぁ、いいか。
かなちゃんをちらっと見るけど、特に何の反応もなく不思議そうにしたので、問題ないと判断して、真ん中の、えっと、磯野? ちゃんをだっこする。
手をあげていたので、しゃがんでわきの下に手をいれて、ぐっと持ち上げて。お、い、意外と女の子でも重いな。えっと、ここからどうすれば?
「あのね、お尻の下で腕くんで」
「え、あ、うん」
女の子が僕の体に足をまきつけ、僕の肩をつかんでそう言ったので、まず右手を女の子のお尻の下にまわして力をいれて持ち上げて、左手で素早く右手の補助をした。女の子が僕に抱き着いてきているので、案外簡単にいった。
いったけど、ものすっごい抱き着かれてる。なんだこれ。顔ちっか。えー、なんか、知らない子とこの距離間やばくね? なんか、ちょっとこわ。色んな意味でこわい。
周りを見ると、園長先生と部長はなんかぎょっとしてるし、かなちゃんは呆れた顔してる。ぐ。やっぱりだっこは駄目だったのか!
「か、かなちゃん、たすけて」
「……なんでだっこしちゃうの? はい、磯山ちゃん、だっけ。お兄ちゃん疲れたから、やめてあげて」
「うー。もっとしたい」
かなちゃんが女の子の肩を掴んでゆらすけど、女の子はぎゅっと僕にくっついてくる。園長先生がため息をついてから、女の子の頭を撫でて優しく声をかける。
「多恵ちゃん、お兄ちゃんとこの後遊べなくなっちゃってもいいの? みんながだっこしてって言ったら、お兄ちゃん困ってしまうでしょう?」
「うー、わかったー」
「次私ー!」
「灯ちゃんも!」
「うーん、じゃあちょっとだけね。酒井君、申し訳ないのだけど、他の子が来る前に、ちゃちゃっとだっこしてください」
「は、はい」
「あと、後でお願いされても無視してくださいね。女の子は調子に乗りますから」
「はい、すみません……」
とりあえず二人はだっこしたけど、なんか二人ともめっちゃぎゅっとしてきたし、頬ずりとかされた。僕は悪くないはずなのに、何故かめっちゃ悪いことしてる気になった。
あと優しそうな園長先生に、軽くだけど注意されたのも落ち込む。あー、なんか、前途多難かも。
考えたら、女の子も大人は珍しいってだけで、ナンパしてくるみたいな下心はなくても、ちょっかいかける感じのはあるのか。
で、でも普通に女の子と同じ対応してたら大丈夫だよね! うん。他の子には内緒ってことで話はついたし、もうだっこはしないぞ!