交流会3
山田さんの次は田中さんだ。どうも順番として、HRで決まった各委員の順からに決まっているらしい。僕を基準なのは置いといて、わかりやすく名簿順とかじゃないのは、山田さんから始まるように気をつかってくれたのかな。
そして順番に、各委員の人と話していく。
色んな人がいた。すごいぐいぐい来る人、全然話す気がない人、普通に無難に話す人。正直に言おう。全員を覚えたかと言ったら覚えてない。名前と顔を一致させようと頑張ったし、話題として最初の自己紹介を徹底したけど、今その内容を言ってみろって言われても無理。
元のあやふやな記憶を多少は補強できたかなと言う程度だ。もちろん話したし、面と向かえば少しは思い出すだろうけど、今全員の名前と委員名を羅列しろと言われたら無理。
もちろんぱっと思い出せる人も何人かいる。図書委員の柊さんとか、本の趣味同じで盛り上がった。何委員か忘れたけど、田上さんが同じ中学で、色々話したりした。もう一人同じ中学の人はいたけど、同じクラスになったことないみたいで、盛り上がらなかったからピンと来ない。後でかなちゃんと、記憶をまとめなおそう。
「五分経過ー、じゃ回るよー」
「はーい、じゃ、また学校で」
「う、うん」
委員も終わって、今話していたのは花田さん、だったかな。ちょっとギャルっぽい感じで、ぐいぐいきた。好きなタイプとか聞かれた。こういうタイプが一番苦手だ。でもちゃんと会話はできたし、僕のコミュ力も加速度的に上がっている気がする!
「……」
次に僕の隣に座ったのは、木村さんだった。名前を憶えているのは、別に接点があるとか話したことがあるわけじゃないんだけど、なんか、勝手な印象で悪いんだけど、ちょっと恐いから。
だって木村さん、見るからにぎんぎんの金髪だし。いやうちの学校は、一応染髪禁止じゃないのは知ってる。でも他の人も茶髪程度なのに、めっちゃ金なんだもん。正直ちょっと恐いよね。
「……」
あ、話しかけてこない系だ。最初にちらっとこっち見たきり、前見てるし。まぁ、男子だってだけで目の色変えられるよりいいけど、話す気ゼロなのもちょっと。交流会何だし。
ちょっと勇気がいるけど、今までも何人かしたので、大丈夫。自分から話しかけよう。
「まずは自己紹介しようか。酒井卓也です。ボランティア部に入ってます。得意科目は数学。苦手科目は歴史です。好物はカレーで、趣味は、ゲームと読書です」
「私は小林加奈子です。たくちゃんの幼馴染で、同じくボランティア部です。得意科目は理科で、苦手科目は国語、好物はあんぱんで、趣味は漫画です」
「……木村智子です」
「……。ん?」
「なに?」
「あ、ううん、なんでもないっ」
名前で終わって間が空いて、あれ、続きは? と思って首を傾げたら睨まれて首をすくめるように否定した。
え、なにこの人。やっぱ恐いじゃん。こっわ、無言で五分やり過ごそうかな。
「……」
いやいや、駄目でしょ。それに考えたらあれだよ? この人ここにいるってことは、クラスのみんなと仲良くなりたがってるってことだし、僕と同じじゃん。僕みたいな男子とは嫌だからローテンションかもしれないけど、少なくとも他のみんなとの友達を狙っている以上、多少気に食わないことがあっても、暴力とか振るわれないはず。向こうの感覚的に言えば、どんな不良も、多少気に食わないだけでクラスの女子にいきなり暴力振るわないってことだし、うん、あり得る。
ポジティブに考えよう。そうなると男子と仲良くなる気はなくて論外と思われてるとして、それってある意味、僕が何か失敗した対応しても元々嫌われてるみたいなものだし、逆に自分から色々話しかける方法の練習するチャンスかも! 嫌われて元々なんだし、この際友達になるのはあきらめて練習と割り切ろう!
「木村さんは、何か部活とか入ってないの?」
「……ないけど、悪い?」
う、取り付く島もない。でもとなると、次の話題は
「ううん。でもじゃあ、普段何してるの? 趣味は?」
「…別に、特にないけど」
う、この子、やばいくらい心閉ざしてるんだけど。ほんとに友達作りにきて……え、もしかして友達いなくて、今日は勇気出してきたとか? もしかして僕以上のコミュ障なのかも。うん、よーし、ここは僕が会話をもりあげてあげよう。
「そうなんだ。でもそれって休日も? もしかして家事とかして忙しいの?」
「ま、まあ、そうだけど。母親、忙しいし」
お! まともな答えが返ってきたぞ!
「そうなんだー。僕も、たまに晩御飯作ったりするんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「うん。よくつくる簡単でおススメなメニューとかある?」
「そうだな……煮豚とか、あ、圧力鍋使えば簡単なんだけど」
「圧力鍋が家にあるの? わー、いいなー。でもあれなんかちょっと恐いんだけど、大丈夫なの?」
「慣れたら別に。使い方を守ってれば、変なことにはならないし」
「へー、そうなんだ」
会話がはずんでる! それに慣れたら別にって、それたぶん木村さんも最初圧力鍋にちょっとビビってたってことだよね。なんか意外だけど、見た目ギャルっぽいだけで、普通の子なのかも。いや、もしかして僕以上にコミュ障口下手の人見知りで、目つきも悪いから開き直ってこんな格好しているのかも知れない。
そうだとしたら、なんか仲良くなれるかも!
「……あ、あのさ」
「ん? なにー?」
「良かったら、圧力鍋、一回使う? 毎日使うものじゃないし、ちょっとくらい、貸せるけど」
「え、いいの?」
「ああ、まぁ」
「是非、お願いします。あ、じゃあさ、さっきの煮豚のレシピも教えてよ」
「まぁ、いいけど。じゃ、あとで、携帯に送るから」
「ありがとう、木村さんっていい人だね」
全然思ってたタイプと違ったし、本当に人って見た目じゃわからないよね。
これで友達もさらに一人追加だ! やった!
「五分経過ー、まわるよー」
「あ、じゃ、じゃあ、また」
「うん、またね」
木村さんのあとは、特に見た目からビビッていた相手はいない。何とか全員と問題を起こすことなく、無難に会話を終わらせることができた。
ちょっと気が早いけど、僕基準では6人も友達が増えたし、今日の交流会は間違いなく大成功だ。
「ねぇ、たくちゃん、聞いても、いいかな?」
みんなで解散して、上機嫌で家に帰る。途中でみんなと別れたところで、かなちゃんが何やら深刻そうな顔で話しかけてきた。
え、何事? あ、もしかして僕ばっかり出しゃばって、かなちゃんがあんまりみんなと話せなかったのを気にしてる!?
正直僕も最初は気にしたけど、ちょいちょい目の前の人に集中して、かなちゃんまで意識回ってなかったし、かなちゃんが会話に参加できなかった人も何人かいたんだよね。
う、怒ってるよね? 僕、自分のことばっかりで、すぐ周りが見えなくなって、かなちゃんだって、友達が欲しいのは同じなのに。
「ご、ごめんね、かなちゃん。でももちろん、会う時はかなちゃんも一緒だし、ちゃんと紹介するから」
「え? ……え? ご、ごめん、どういうこと?」
「え? あの、今日僕、かなちゃん抜きでお話ししたりしたから、その、拗ねてるのかと思ったんだけど」
「違うから。そうじゃなくて、その、木村さん、結構最初感じ悪かったのに、珍しくたくちゃんからぐいぐい話しかけてたから、その……たくちゃん、木村さんみたいな子が好きなのかなって」
「ん? 好きって、そんなわけ、あ、恋愛的な意味で言ってる!? いや、違う違う」
僕はかなちゃんに、どうしてあんな感じになったのかちゃんと説明してあげた。木村さんの複雑な感情表現のギャルファッションについても説明したのに、不思議そうにされた。何故。
でも僕の恋愛の好み過ぎてぐいぐい話しかけたという疑惑は晴れたからよしとする。友達としてならともかく、ああいう派手な感じの子は好きじゃない。どちらかと言うなら断然かなちゃ、あ、いや別に、変な意味じゃないんだけど。あくまでも好みのタイプだから。うん、まぁ、好みであることは、否定しないけど。
「ん? たくちゃんどうしたの? ちょっと顔赤いけど、もしかして、いっぱい話したから気疲れした? 家までおんぶとかしようか?」
「い、いいよ。それより、今日みんなと話した内容、まとめようよ」
「え、いいけど、マメだね」
「う、だって、記憶力に自信がないんだからしょうがないじゃん」
自分でも、正直いちいち名前をメモしたり、会話内容さかのぼってわざわざ思い出すとか、ちょっと気持ち悪いマメさだと思うけど、しょうがないじゃん。僕の脳みそは自然に健忘症レベルで忘れようとするんだから。