清掃活動の後
街中での清掃活動は、小さい女の子が手伝ってくれてほんわかしてたら、なんかその子がいなくなってから通行人の人が手伝ってくれたりした。そこまではいいとして妙に姿勢を下げていると思ったら、中学生くらいの女の子が頭撫でてくれとか言ってきて、ドン引きした。
ドン引きした僕に気づいたようで女の子が逃げて行って、気づいたら他の拾ってくれてた通行人の皆さんも居なくなっていた。なんなのこれ。
己惚れるわけじゃないけど、みんな僕に頭撫でられたがってたみたいに感じる。恐い。明らかに年上の人もいっぱいいたし、普通に美人の人も結構いたのに。頭撫でられたかったの? しかも言わずに無言で頭下げてさりげなく? とか、めっちゃ恐いんですけど。怖すぎて確かめるためにかなちゃんに聞いたりとかできなかったし。
まぁ、その後は何とか順調で、普通に終わった。その後親睦会だ、とか言ってみんなで昼食を近くのファミレスで食べた。一年のみんなはともかく、先輩たちが僕と話したがってくれたのは、何というか、嬉しいけど大変だった。
でも多人数でお話しするいい練習になったと思う。相手が先輩で心が広いので、多少うまく話せなくても年下特有の緊張して可愛い扱いで流してもらえるしね。可愛いと言われるのは複雑だけど、年下ってだけで同性でも異性でも関係ない可愛さってのがあるのは僕も理解している。
「じゃ、卓也ちゃん、また部活きてねー」
「は、はい」
「ひいてるじゃん! さ、酒井君、大丈夫だから来てね」
最終的に部長からは卓也ちゃんと呼ばれることになった。恥ずかしいけど、部長なのでキャラ的にしょうがない気がしてOKしてしまった。たくちゃんとはずっと呼ばれているから気にならないけど、ちゃん付けってやっぱりちょっと抵抗がある。まあ、年上だし、部長だから上からなのは仕方ないか。
「今日はちょっと、疲れたわね」
「うん。あれ、でも井上さんがそういう風に言うの、何だか意外だね」
「そう? 私だって疲れるわよ」
井上さんは相変わらず真面目で、清掃中は全然話さなかった。昼食中は先輩にたじたじになりそうな僕を、いい感じにフォローとかもしてくれて、ほんといい人だ。
終わるとこうして気さくだし。ううむ、そろそろ僕の中の苦手意識無くなってほしい。井上さんに失礼だし、ちゃんと僕も真面目にしようとしている限りは、怒られることないわけだし。
「あ、あのー、よかったら今から、軽く喫茶店とか、カラオケで休憩しません?」
「え?」
と、後ろを歩いていた高崎さんがそう提案した。解散してから何となく一年生組で歩いていたけど、特に何も考えず家方向に向かっていて、途中で段々脱落していく方式かと思っていた。
でもそうか! ここから遊びに行ったりするものなのか! 正直気持ち的にも疲れたし、帰ったら存分にごろごろしようと思っていたけど、でも遊ぶと思うとテンションあがってきた!
「い、いいね! あの、僕、カラオケ行ったことないんだ」
「え、そ、そうなんだ。じゃあカラオケにみんなで行く?」
「そうだね。いいんじゃないかな」
委員長が僕の発言に驚きつつも同意してくれて、かなちゃんはいつも通りイエスマンな反応だった。
よ、よかった。思わずカラオケって確定して言ってしまったし、しかもカラオケ行ったことないとか不必要なぼっち情報を出してしまったけど、みんなの反応は特におかしいほどじゃないぞ。
「私もいいけど、歩はどこにカラオケ行くかもう目星つけてんの?」
「そ、そうですね。いつも市子と二人で行くんですけど、駅前のお店でいいですか? 割引券ありますし」
「いいんじゃない? た、卓也君、初めてってことだけど、どこか希望とかある?」
「う、ううん。ないよ。どこでも、大丈夫」
と言う訳で、カラオケに行くことになった。市子ちゃんが、僕の名前を呼ぶときに、まだちょっと戸惑ったみたいに恥ずかしそうにしてるのが、なんか可愛くてちょっとどきっとした。
カラオケボックスには入るときに一人だけ申し込むのが、なんかへーって感じだった。歩ちゃんは宣言通りなれているみたいで、機種とか指定していた。でもなんの機種だろ。マイクの機種とか、あるのかな?
飲み物は先に持って行くみたいだ。すぐ近くのところでコップを手に取るみんなに続く。うーん、コーラ好きだけど、歌を歌うなら喉にいいのは、常温の水とあったけど……え、ボタンに水ないんだけど? えっと、お茶でいいか。氷なしで。
「あれ、たくちゃんコーラじゃないの?」
「うん。かなちゃん、炭酸は喉に悪いよ」
「え? 急に……? いつも、ポテチにはコーラだって言ってるのに」
「い、言ってるけど、いいでしょ」
う。別に変なこと言ってないはずなのに、かなちゃんにみんなの前で二人きりの時のこと話されると、無性に恥ずかしい! 何というか、家族の前の顔を暴露されているかのような感じだ。
「まあいいけど。持つよ」
「うん。ありがと」
……は、ナチュラルに荷物持ちさせてしまった! う、う。しまった。自然と言うから。かなちゃんはいつもこうやって、僕から荷物をとろうとする。僕としてもそれが自然だから、ごく当たり前にいつも渡してしまう。そして渡してからはっとするんだよー。コップなんて、重いって程じゃないのに。
「かなちゃん、つい渡したけど、コップ位持つよ」
「いや、こぼしたら危ないから、いいよ」
……え? そういう心配されて持たれてるの? もしかして普段から、僕非力で落としたら危ないって思って持ってくれてたの? ……く、悔しいけど、かなちゃんより弱いのは事実だ、でも、うーん。とりあえず、もう絶対渡さないようにしよう。
せめて、コップを持ってない僕がドアをあけよう。211だったよね。ここだ!
「えっ」
「間違えましたすみません!」
う、うわあああ!
「卓也君、そこ212ですよ。こっちです。さ」
「う、うん…」
間違えた。もうすぐ部屋だと思って、先頭の歩ちゃんがドアを開ける前に! と思って慌てて前に出て、ドアを開けたら、普通に間違っていた。中は女の人二人組で、めっちゃ驚いていた。勢いで閉めたけど、水を差して申し訳ない。
気持ち的にはもう一回謝りたいけど、向こうからしたら余計にうっとうしいだろうし、しないけど。あー……へこむ。
こういう、慌てるのがダサいよね。ミスするのはしょうがないとして、慌てるからミスしたわけだし、ほんと、日常の何でもないことで慌てるのがコミュ障ボッチだったからだよね。自分アピール必死過ぎだよね……みんなが全く突っ込まない優しいのが、逆につら……。
「たくちゃん、そんなにへこんだら、みんな気を遣うし、気を取り直して、歌おうよ」
「う、うん。ありがと」
とりあえず入り口近いソファに座った僕の隣に、かなちゃんが僕を押してつめさせて座りながらそっとそう耳打ちした。確かにその通りだ。これ以上気を使わせてどうする!
歌うぞ。えっと、まず、まずどうするんだ?
狭い部屋は薄暗い。大きなテレビがあって、その下にデッキみたいなのが棚に収納されている。歩ちゃんがその棚からマイクと大きい何かを机に移動させた。液晶画面がついてるので見ると、曲検索とか書いてあって、あ、リモコンか! と気づいた。
へー、こういう感じなんだ。もっとこう、テレビのリモコンみたいなのを想像していた。タッチパネルみたいな感じなんだ。
「さーて、まずは私からいれましょうかねー」
「そうだね、慣れてないなら、私らが歌っている間に決めるといいよ。二人もそれでいい?」
「そうね。私もよく行くわけじゃないし、それでいいわ」
「うん。私はたくちゃんのあとでいいよ」
「じゃ、私から時計回りですね」
歩ちゃんが素早く操作し、音楽が流れだした。