街での清掃
児童館にも参加するとして、それより先に今週は土曜日に街での清掃ボランティアがある。
「……掃除か」
「ねぇ、嫌なの? 嫌なら別に無理をしないでもいいんだよ?」
「……」
正直に言うと、いざ週末になってお休みとなると、ちょっと億劫になった。わざわざ外に行って掃除するくらいなら、家の中で掃除した方が喜ばれるのでは? と思ってしまった。
でも行くって言ったし、高崎さ、もとい、市子ちゃんと歩ちゃんとも行こうって約束してるんだし、行くんだけど。でも何というか、友達と会えるって言うのに、ちょっと疲れたらあんまり気のりしないってことは、僕って薄情なのかな。それともボランティア自体にあんまり興味がないからかな。
掃除とか、嫌いじゃないけど、顔も知らない誰かのためにしようとか、そう言う奉仕精神って僕ないんだな。
よし、考え方を変えよう。家を出て、外でみんなと遊ぶための予行練習だ。最初からみんなと長時間一緒にいて間が持たないと地獄だから、こうしてやることがはっきりしている行事で、長時間一緒にいることになれるんだ。
……ちょっと、やる気出てきた。そうだよね、いきなり遊ぼうってなって気まずかったら友達やめとか十分あり得るもんね。小さなことから積み重ねることで人間関係はできるんだ。
「頑張ろう!」
「え、急にやる気だね」
「かなちゃんも、やる気出さなきゃ、友達できないよっ」
「え? そういうイベントじゃ、ま、まぁ、とにかく、やる気出たならよかったよ」
と言う訳で、今日は清掃です。と言ってもごみを拾うだけなので、持ち物は軍手だけ。ゴミ袋は用意してくれているらしい。
勇んでかなちゃんと公園へ行く。
「あれ? 酒井君?」
「ん? あ、いい、井上さん」
そして集合場所の大きい公園の出入り口に行くと、そこには見覚えのある人がいて、とととっと軽く駆け足で近づいてきた。と言うか中学時代の委員長だった。高校が同じなのは知っていたけど、別のクラスだし合わないからスルーしていた。委員長とは春休みに、あの後にも一回、会話練習として会ったけど、それきりだった。
新学期で忙しいから連絡もお互いとってなかったし、まさかここで会うとは。
「もしかして酒井君と小林さんも、ボランティア部だったの?」
「そうだよ。委員長も?」
「ええ」
ほおぉ。何というか、へー。そうなんだ。
うーん、今日はいっぱい人が来るって聞いているし、その内一人でも知っている人なのは安心する反面、井上さんか、と言う微妙な気持ちだ。井上さん、いい人なんだけど、ちょっと苦手意識があるんだよね。
「え。男子?」
「ボランティア部なんかに、ほんとに男子いたんだ」
「部長が自慢してた美少年」
う、なんかこそこそされているぞ。自意識過剰じゃなく、僕のこと言ってる、よね?
委員長以外にも、すでにそこには11人もいた。部長と委員長、高崎さんと木野山さんも含めてだから、7人は知らない。
とにかく委員長も連れて、群れに近寄る。
「お、おはようございまーす」
「おはようございます」
「おはよう、二人とも」
「おはようございます」
「やあ、よく来たね、酒井君。紹介はみんな集まってきてからにするから、もう少し待っていてね」
こわごわ挨拶すると、すかさず歩ちゃんと市子ちゃんが近寄ってきて、僕らの傍に陣取ってくれたので、ちょっとほっとする。そして戸惑う他の部員を置いて、部長が仕切るように声をかけてくる。
「みんなも、この美少年が気になるようだけど、手を出さないように。何せ私のだからね」
「部長のじゃありません」
「ははは、ツンデレだなー、酒井君は」
素でされたらうざいけど、この部長の馴れ馴れしい軟派な態度もコミュ力の賜物と思えば、むしろちょっと楽しい気分になる。
「ぶちょー、遅れてすみませーん」
「すみませーん」
おっと、確か全員で14人だったから、残りの人が来たようだ。遅れてきた人が部長に駆け寄り挨拶して、それから僕を見て、めっちゃ驚いた。
「えっ、男子!?」
え、えぇ……。
なんか、ゴキブリ見たみたいにほんとに飛び上がるほど驚かれた。口元に手を当てて目をむいて、ひどい。めっちゃ酷い顔してる。
男だってだけで、ここまで驚かれたのは初めてだ。ま、まじか。こわぁ。
思わずかなちゃんの左腕にそっと手を添えて、ゆっくり身を寄せる。かなちゃんは静かに僕の少し前に立ち位置を変えてくれた。頼もしい。
「なにビビってんの? 私ちゃんと、美少年が来るから心の準備してって言ったでしょ?」
「えー? あんなのいつもの部長の妄想だとばっかり」
「ふふふ。私、嘘言わない」
「片言ー」
「はい、じゃあそういう事でね。初回だし新入生が5人もいることだし、自己紹介しましょうか」
「はーい! やった、じゃあ私から! いやー、私最初にあなたたちが入部する時部室にいたの覚えてる? あの時から話したくて話したくて」
「はい、踊り子さんには手を触れないでくださーい」
先輩らしき人が僕の前に出て興奮したように声を上げるのでビビる僕に、部長がボディガードのように両手を上げてかばってくれた。
お。おお。ほんと、言動と乖離してまともでいい人なんだよなぁ。
とりあえず自己紹介した。一年生としてみんながするはずなのに、何故か僕に対してされたけど、みんな当然のようにスルーされたので、そこには触れないことにする。
さぁ、ここで部員のみんなを紹介しよう。
今日来ているのは
3年、部長、飯塚先輩、釜井先輩、真殿先輩、荒井先輩
2年、君島先輩、狩野先輩、新庄先輩、遠山先輩
1年、僕、かなちゃん、歩ちゃん、市子ちゃん、井上さん
の14人だ。
覚えられない。1年生をコンプリートしているのが幸いだ。と言うか、僕ら以外一年生いないんだ。毎年4、5人の入部が例年だそうだけど、4月の今にもう5人いるのは早いらしい。今年は豊作だとか言われた。
そんなものなのか。もっとたくさん入っていると思っていた。だって兼部OKだし、なんかみんな入ってそうな感じだったけど。
とか思っていると、部長から注釈が入った。なんでも今日来ている先輩が、基本的にメインで活動しているらしい。他に特定のイベントにだけ来る部員や、滅多に来ない幽霊部員とかもいるらしい。その数をいれると、結構な人数になるらしい。
ほうほう。なるほどなぁ。確かに、とりあえず何となく入ったなら、あんまり活動しないこともあるか。僕らは頑張ろう。
「おーい、集まったかー?」
「あ、せんせー、遅いですよ」
「うるせーなぁ、ん? げ、ほんとに男子来たのか」
決意を新たにしていると、顧問の先生が上下ジャージのやる気があるんだかないんだかわからない格好でやってきた。しかも僕を見てあからさまに嫌そうな顔をして、そのまま僕らを見渡して口を開く。
「お前ら、一応言っておくが、問題を起こすなよ。こっちは休みを返上して付き合ってやってるんだ。それに感謝して、一切の迷惑をかけるな。それとそこの男子生徒、男だからと優遇する気はないからな。こっちは二次元の彼氏で満足しているんだからな」
「は、はぁ」
別に優遇してほしくはないし、他の人と同じ扱いなら文句はないけど……そもそもそんなことを生徒に言っていいの? 生徒にそんな歯に衣着せなさすぎる物言いでいいの?
と思ったのは僕だけじゃないらしく、一年生はみんなぎょっとしたけど、2年生と3年生は慣れているようで、はいはいと流している。
「わかったならよろしい。じゃ、各自勝手にすること。私は本拠地で待っている。部長、後は頼んだぞ」
「はいはい、わかってます」
「うむ。よろしい」
先生は公園に入ると、一番近くの屋根付きの休憩所のベンチに座ると、携帯ゲーム機を取り出してプレイしだした。ほ、ホントに全然やる気ないんだなぁ。
まぁ熱血で、みんなもっとボランティアしろよ、みたいなのだったら、幽霊部員とか兼部とか問題が言ってなるだろうし、こんなものか。
「じゃ、早速始めようか。一年生には詳しく説明するね」
部長の説明を受けてから、街の清掃活動を開始した。