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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
友達編
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天然疑惑 市子視点

 体育の授業後、更衣室で着替えながら私は、さりげなさを装って隣にいる小林さんに話しかける。


「小林さんって、天然?」

「え? なんで? そんなことないと思うけど……嘘、私、天然なの?」

「うん、少なくとも養殖ではないことがわかった」


 酒井君のお付きって言ったらあれだけど、小林さんはどうにも浮いてる感がある。人として好ましいなって思うし、素直に友達になってもいいなって思うけどそれよりつい酒井君メインで考えてしまうのは仕方ない。

 小林さんは、何というか、男子と結婚できる可能性を掴んでいる割にはそんな余裕感とかない。普通に酒井君の保護者ポジってだけで、普通に接している。逆にがっついている感とかも皆無だ。

 そして何に驚くって、男子に対しての周囲の反応に、酒井君と同じように驚いている時すらあることだ。酒井君自身はいいよ? 大切にされたお坊ちゃま何だな可愛いなって思うよ? でも守っている側の小林さんは、それ駄目じゃないって思う。不安だ。


 多分、酒井君が傍にいるのが当たり前すぎて、他の女子がどれだけ男子に飢えているのかって、普通はどれだけ男子に慣れていないかって、全然分かっていないんだと思う。

 めっちゃうらやましい環境だと思うと同時に、危機感なさ過ぎて酒井君と結婚する気あるのかなとか、変なところで心配になってしまう。浮世離れしてる子の世話を浮世離れしてる人がするって、大丈夫なのかな。


 気になっていたことを聞けたのはいいけど、さらに疑問が増えてしまった。でもさすがにそこまではまだ聞ける仲じゃない。


「小林さん、あの、ちょっと質問してもいい、かな?」

「え、あ、はい。なんですか?」


 クラスの人に話しかけられてきょとんと振り替える小林さんは、相手がぎらついた目をしていることにも気づいてないらしい。


 気づこう? 酒井君はクラス中の視線を受けてるって。

 みんな半ば諦めてても、同じクラスにあんな性格よさげな美少年がきて、しかも女子の友達つくろうとしてるって会話してたら期待するって。

 最初に私たちと会話するとき、みんな平静を装いつつめっちゃ気にされてたし、絶対酒井君の発言は全部知られてるよ。


「市子、市子、小林さんなんですけど、正妻狙ってるんですかね」


 こそこそと歩が聞いてくる。なんつこーことを、ちょっと離れたからって狭い更衣室内に本人居る状態で聞いてるんだ。

 声を潜めつつも睨み付ける。


「わかんないけど、こんなとこで話す話題じゃないだろ」

「いいじゃないですか。小林さんがみんなに攻略されたら、私たち不利になるんですから」

「言わんとすることはわからないでもないけど」


 そういう言い方するやつ、いる? なんで小林さんが攻略されるんだ。うちのクラスはレズの巣窟か。


 正直、私も結婚なんて無理だと諦めていた。でも、本気で酒井君を好きになってしまえば、そんなのは前言撤回する。と言うか本気で誰かを好きになってないから諦められていただけだ。

 普通に考えたら、私みたいに何の特徴もないモブみたいな女が、酒井君みたいな美少年と結婚とか無理だ。でもそもそも友達付き合いだって無理な酒井君と、こうしてちゃんと友達扱いされているのだ。なら夢見ちゃう。希望を持っちゃうに決まってる。


 はっきり言って結婚したい。この際愛人でもいいし、最悪子供だけでもいいけど。できるなら、叶うなら、理想を言うなら、酒井君と結婚したい。愛人が法的に許されていても、正妻はやっぱりその中で一番なんだから、正妻がいいに決まっている。

 自分でも単純だと思うけど、こんな美少年に優しくされて、友達とか嬉しそうにされて惚れない訳がない。


「私が正妻になったら市子を愛人にするよう勧めますから、協力しません?」

「ふざけないで。私が正妻になったら、あんたをペットにするよう勧めるから」

「ちょ、法的に許された愛人と、意味不明なペットとか、全然違うと思うんですけど」


 いや、確かにペット枠とか法的にあるわけないし、性的なペットとか男の子が持つわけないけど。でもだって、なんであんたを正妻にしないといけないんだよ。ふざけんな。いらっとするわ。

 と、おふざけはここまでにしよう。小林さん戻ってきたし。


「おかえり、なんだったの?」

「んー。なんか、たくちゃんについて聞かれた」

「そうなんだ」


 何を聞かれて、何を答えたのか。興味がなくはない。でももう休み時間も半分過ぎているし、続けて説明するのは億劫だろう。スルーすることにする。


「早く着替えなよ。酒井君待ってるよ」

「ん、ありがとう」


 着替え終わり、男子更衣室まで酒井君を迎えに行く。すでに着替え終わっているのはわかっていても、ドアを開けて中が見える瞬間はどきどきしてしまう。


「三人とも、いつもありがとう」

「どういたしまして」

「気にしないでいいよ。どうせついでだし」

「そうですよ」


 男子更衣室は万が一を考えて、職員室のある第一棟にある。女子は普通に体育館と隣の校庭近くにある、第四棟の一階にある。

 教室に帰る途中に少し寄るだけなので大した手間ではない。まぁもちろん、仮に学校の端でも寄るけど。酒井君を一人になんてできるわけないしね。


 はぁ、にしても体育の時はだいたい見学の酒井君だけど、何だかんだいつも体育の後は疲れているらしくてちょっと頬が赤くて、可愛さ当社比150%だ。結婚したい。


 体育の後は現国だ。正直、狙っているのかと言いたいくらい、眠い。しかも先生、朗読させるとか、気が抜けるし絶対、ねむい。


「……、」


 あくびを噛み殺し、自分の番が来たので読み上げて、それから歩が、読まない。


「?」


 ちらと振り向くと、思いっきり酒井君の方を見ている。マジか。お前、授業そっちのけはないわ。と思いながら小さく声をかける。


「歩、次朗読」

「あ、ご、ごめ。ありがと」


 びくっと驚いてから、歩は読みだす。そんな見る? と思いつつちらっと酒井君を見て、思わずそのまま前を向くどころか、体ごと酒井君を見てしまった。

 だって、え、ね、寝てる……!? や、やばい。なんだこの、天使の寝顔。可愛すぎる!


 男子の寝顔何て、どれだけ気を許されたら見ることが許されるのか。それこそ最低で愛人以上だと思っていたのに、こんなところで見れるとは!

 もはやなりふり構わず、授業そっちのけで見つめてしまった。先生が目の前を通るまでぼーっと見とれてしまった。


 小林さんが気づいて起こそうとしたけど、先生が止めた。先生グッジョブ! と思っていると小林さんは、えっ、とめっちゃ不思議そうな顔をしている。

 えぇ、まじか。え、わかんないの? 男子の寝顔がどんだけ貴重か。先生にだってそうだよ。結婚できない人がどれだけいると思ってるの? 大人だろうと、むしろ大人の方が男子との接点ないし飢えてるよ!? 世の性犯罪者率は成人の方がよっぽどい多いんだよ!?


 あー、もう、ほんと、小林さん天然すぎる。こんなの、心配すぎる。


 授業が終わり、恥じらう酒井君の可愛いことよ。と和みながらボランティア部について話していると小林さんが酒井君を心配して注意する場面があった。

 酒井君はうざがるほどではないけど、不満そうだ。まぁ、何かにつけて小林さんをライバル視している節がある、と気づいている。


「大丈夫だって、小林さん。私らも一緒なんだし」


 ここは純粋な善意半分、あわよくば酒井君ともっと親しくなりたい下心半分で、小林さんに私たちも酒井君を守るチームに入れておくれと言ってみる。

 歩ものって二人で言うと、小林さんはきょとんとしてから、嬉しそうにはにかんだ。


 う。

 女子のはにかみ笑顔を見てときめいたりはしないけど、でもこう、善意100%みたいな顔をされると、さすがにすこし罪悪感が。と言うか、だからそういう純粋なところが天然だし、余計心配なんだよ! 小林さんのこともだし、それで手抜かりがあって恐い目にあうのは酒井君だし、ほんと色んな意味で心配なんだよ!


 と思っていると、小林さんから名前で呼んでと言われた。

 お、いい機会だ。いろんな意味で小林さんとは仲良くなりたいから、私たちもタイミングを見計らっていたところだ。もちろん了承する。


 可能なら酒井君と名前を呼び合えたら最高だけど、そういう付加価値を置いておいても、小林さんと友達として仲良くなれたことは、少し嬉しい。私は歩に比べると誰とでも友達になれるほどのコミュ力もないし、名前呼びになるのは同性でも少し、緊張しなくもない。

 さらっと、かなちゃん呼びはたくちゃんだけ、とかのろけられたのはイラッとしたけど、天然なので仕方ないとスルーする。


「ぼ、僕も、いれてもらって、いい?」


 ふぁっ!? え、さ、酒井君も!?


「もちろん! ぜひ私のことは、歩とお呼びください、卓也君」


 お、おお。相変わらず、歩のレスポンスぱねぇ。って感心してる場合じゃない! 私も!


「じゃ、じゃあ私も、た、卓也、君?」

「う、うん……」


 う、うわぁ、やばい。なんか、嬉しい通り越して、ちょっと感動する。私が、男子の名前呼んで受け入れられるなんて、しかも、好きな男の子の。

 しかもその後、普通に酒井君と呼んでしまってから、卓也でしょ、とか言われた。恋人か。破壊力ヤバすぎて、死ぬかと思った。


 こんなの、結婚するしかないじゃん!


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