LHR
今日は週に一度のロングホームルームの日だ。と言っても、入学して最初なのだけど。
話し合う内容は、委員決めだ。色々ある委員会に所属するやつで、例えばお姉ちゃんはクラス委員とか風紀委員とか年替わりで経験したり、中学の頃の委員長は三年間同じでクラス委員をしていたそうだ。
基本的に立候補制で、誰も居なければ推薦か、じゃんけんになる。あ、中学の時の感覚でクラス委員って内心呼んでるけど、この高校では学級委員って言うみたいだ。へー。
先生の指示の元、まずは学級委員が決められる。と言うか、まさかの二人希望者がいて、じゃんけんでどっちが委員長でどっちが副委員長か決めた。まじか。たぶんこの二人は意識高い系のめっちゃ真面目な人なんだなぁ、ちょっと恐い。
「じゃあ立候補を募ります。一つずつ言っていくから、手を挙げてください」
そして決まった委員長が司会、副委員長が書記として、他の委員が決められていく。
広報委員、図書委員、環境委員、風紀委員、保健委員、福祉委員、体育委員、文化委員、選挙管理委員とたくさんある。それぞれ二人ずつなので、学級委員と合わせて20人が委員になる。クラスの内、委員じゃない人の方が少ないくらいになる。そうなると、じゃんけんによっては一番不人気で大変な役が回ってくる可能性がある。
それを避けるためには、あえて自分から簡単そうなのに立候補するのも手だ。こっちの僕は全然委員に関わっていなかったけど、向こうでは福祉委員、図書委員、広報委員をしたことがある。
体育、文化、選挙管理は一年中じゃなくてイベント時だけだけど、その分大変なイメージがあるし、何ていうか、テンション高そうな人がやっているイメージがあるので却下だ。となると前の方のになる。うーん。
でもそうは言っても、やらずに済むなら済ませたい。やりたいかどうかでいえば、やりたくない。中学でしていたけど、例によって隠れるように息をひそめていた僕は、ことを荒立てないよう、とにかく言われることだけしていた。
楽しくもなく、面白くもなかった。ただ面倒だった。こっちの世界では全くしていなかったんだから、何とかならないかな。
「うーん」
「ん? どうかしたの、たくちゃん? もしかして、委員に興味があるの?」
「ううん。全然ないし、できればしたくないから、なんとかならないかな、と思って」
「大丈夫だって。どうせしない人もでるんだから、わざわざやる気のない男子に無理強いすることはないから」
「あ、そう?」
「うん。それにそもそも、立候補者がだいたいするし」
「……ほんとだ、結構立候補する人多いんだね」
成り行きを見守っていると、意外なことに全部の委員に立候補者が複数いた。余るくらいだ。そんなにみんな委員になりたいの? みんな意識高いの? それか内申点目当て?
「そうだよ。中学の時からそうだし、委員何てやってないじゃない」
「それはそうなんだけど、あんまり考えてなかった」
「……たくちゃんは、私が言うのもなんだけど、もうちょっと周りを見た方がいいと思うよ」
「うん。今度からそうする」
今気を付けているところだから。
それにしても、何というとんとん拍子。すごい早く決まっていく。そんで書記してる副委員長凄いな。手を挙げた人の名前呼びながら書いて、手を下ろさせている。もう全員覚えているとか、ちょっと恐いくらい記憶力いいなぁ。
……あ、覚えてない僕が駄目なのか。だいたい副委員長って、さっき委員長もだけど決定してすぐに教壇で挨拶してたのに。覚える気ゼロだった。こういうところだ。気をつけなきゃ。
「ねぇ、かなちゃん、ちょっと教えて欲しいんだけど」
「なに?」
「あとで、クラス全員の名前教えて欲しんだけど」
「覚える気? ていうか、さすがに全員は覚えてないよ」
「え、そうなの?」
なーんだ。まぁ、しょうがないか。あ、ここで勇気を出さなきゃ。これで諦めていたら、今までと同じだ。覚えられなくても、覚えられるよう努力をしないと、変わるなんて無理だ。
とりあえず一覧表をつくって、顔を名前を一致させたら、挨拶だってできる、はずだ。そのためには……副委員長に聞く、かなぁ? 真面目そうなショートカットの眼鏡で、そもそも副委員長の名前覚えてないし聞きにくいんだけど。って、副委員長の名前くらい、かなちゃん覚えているかも!
「かなちゃん、副委員長の名前は?」
「田中さん……ねぇ、そういうところが、見えてないと思うんだけど」
「わかってるってば、今度からするから」
もう、かなちゃんしつこいなぁ。でもこれで、副委員長の名前はゲットだ。よーし、頑張って話しかけるぞ。
と、かなちゃんとこそこそ話していると、全ての委員が決まった。僕とかなちゃんは当然として、高崎さんと木野山さんも立候補しなかった。ほーん。どうやら僕らはやる気ないーズのようだ。ちょっと嬉しい。
それにしても、向こうでは男女比がほぼ同じだから、委員は男女一人ずつだったけど、こっちでは当然そんな規定はない。女子ばっかりだ。
クラス内で僕しか男子居ないんだから今更だけど、壇上に女子だけ並んで挨拶していくのは何となく変な感じ……って、また名前をスルーしてしまった! うう。なんでだろう。僕、女子の名前覚える気なさすぎじゃない?
うーん。元の世界だと、男子はともかく女子と友達とか考えないからスルーするし、こっちだとそもそも関わりたくないし見たくもないし声も聴きたくなかったからなぁ。スルー力が無意識に鍛えられていたのかも。これはまずい。本気で一覧表作って、真面目に覚えるようにしないと。
全員と友達は理想論だし無理だとしても、この男女比で、女子の名前覚える気ないですとかなめたこと言って女子を敵に回すのはまずすぎでしょ。
「それでは無事、全委員が決定しましたので、空き時間でクラス交流会について話したいと思います」
おー、とクラス中で声が上がって盛り上がったので、思わず肩を揺らす。え、何? クラス交流会?
そ、そんな話してたっけ? え? みんな知ってる系? 僕だけ知らないの?
慌ててきょろきょろする僕に構わず、委員長は続ける。
「何人かには話しているけど、まだ聞いていない人の為に説明したいと思います。クラス交流会とは、せっかく一度しかない高校一年生を同じクラスになったのだから、仲良くしたいということで、学外で交流をとって行こうという会です。もちろん自由参加ですが、反対だ、と言う方は挙手願います」
はー。なんだ。まだ委員長が内輪で話していた提案なのか。よかった。僕だけ話題に取り残されたのかと思って焦ったー。
全く、焦らせてくれる。でも交流会かー、なんかそういうの、いいかも。と言うか、名前覚えるチャンスって言うか、も、もしかして、いっぱい連絡先の交換とかしちゃったりして。これは行くしかないでしょ。
「反対の人はいないみたいですね。提案者として嬉しいです。ここでもう一つ、提案があります。酒井君、いいですか?」
「ん? ……えっ!? ぼ、僕!?」
え? 急に指名された!? え、な、なに?
思わず音をたてて立ち上がってしまった。しまった。めっちゃ、見られてる。クラス中の視線が、僕に向いている。う、ううわぁ。な、なんだこれ。
「え、な、え、え? な、え?」
「はい、みんな酒井君はシャイなんですから、凝視しない。驚かせてごめんなさいね、酒井君、落ち着いて。はい、深呼吸してください」
混乱して頭が真っ白になって馬鹿みたいに声を上げてしまう僕にも動じず、委員長がそう言った。みんなの視線が素直に消えてくれて、ほっとして、前の席のかなちゃんが心配そうに僕を見ていることに気づいて、落ち着け、落ち着けと自分でも言い聞かせる。
「あ、は、えと、は、はー、すー、はー、すー」
言われたとおりに深呼吸をしてみる。あ、これすごい効果ある。
「はい、落ち着きましたか?」
「う、うん。ありがとう」
「どういたしまして、それで、酒井君も参加、しませんか? 予定があるなら、そっちに開催日を合わせるので」
「え? ぼ、僕にって、そんな、えっと」
「あ、別にそんな、酒井君だから気を使ったというより、男子をハブったってなると外聞も悪いので、少しでも参加してもらえるなら、せっかく男子が登校してるクラスだし、参加してほしいなって言うくらいなので、気楽に参加してもらえたら嬉しいんですけど」
「あ、う、うん」
僕に合わせる!? って驚いたけど、そういう事なら、わからなくもない。
僕って思うから、そんなって及び腰になるけど、仮にこれが転校生とかだとしたら、クラスに一人の特別な人だし、最初くらいその人に合わせようって思うもんね。で、僕と言う男もクラスに一人なんだから、このくらいの特別扱いは普通、なのかな?
うーん、自分で考えてあれだけど、たとえが悪かった気もする。でも、何となくいいかなって気になったから、気にするのはやめよう。
「えっと、その、さ、参加、したいなって、その、お、思って、ます」
う。ただの参加表明なのに、二回も噛んでしまった。周りの視線がなくなったけど、みんなの前で立って発言すると思うと緊張で膝が震えるし、声も震えた。た、立たなきゃよかった。転びそう。
だけどそんな僕の後悔とは裏腹に、返事をした瞬間、一斉に教室から歓声が上がった。驚いた僕は思わず、尻餅をつくように席に着いた。




