ボランティア 中庭掃除
「あれっ、本当に来たんだ」
「え、きたらまずかったですか?」
「あ、ううん、ごめんごめん。ただ一年ですぐ活動するってほど熱心な子って珍しいから。うち、内申点とか、とりあえずで入る子多いし。来てくれる分には歓迎だよ! 四人ともようこそ!」
「えっと、よ、よろしくお願いします、部長」
放課後、ボランティア部に行くと意外そうな反応をされた。めげずに頑張ろう。
今日は新入生たちの為に、校門周りや中庭の目につくところを掃除するとのことだった。部員募集のアピールにもなるし、気分もいいから。らしい。なるほどなーと思うと同時に、一年生の僕らが来たら、あ、来たんだって気持ちにもなるかと、さっきの反応に納得した。
基本的に二人か三人でひと組、上級生と下級生の混合でわかれて活動するらしい。組み分けは交流の為にも完全にじゃんけんにするらしい。他にも先輩はいるけど、仮にも男子と言うことで、他の知らない人と急に二人きりにはできないだろうということで、僕らの中で二人と部長になることになった。
じゃんけんをした結果、僕と木野山さん、部長になった。
「じゃ、二人とも今日はよろしくね」
「よろしくお願いします」
「お願いします。部長、場所は決まってるんですか?」
「うん。私たち三年で常連がいるから、だいたいそれで事前に割り当ててるんだ。だから上級生と下級生を組ませるって面もあるんだけど。今日の私たちは、中庭です。あ、第二中庭の方ね」
「第二、ですか?」
どこだろう、と首を傾げると先輩は、あっ、と小さく声を上げて口を押さえて、にこっと笑う。
「ごめんごめん、知らないか。あのね、校舎の形はもう覚えたかな? こう、5つの棟があるでしょ? その中で向かい合っている4つの間の中庭で、校門側から番号ふられてるんだ」
「なるほど。あ、じゃあ校門前も庭じゃないですけど、結構大きいじゃないですかあ、あそこは何て言うんですか?」
「いい質問だね、木野山さん。あそこは普通に、庭だよ」
「普通じゃないです」
「まぁ、私の周りでそう通じるってだけだから、もしかしてボランティア部以外では通じないかもしれないけど、どんまい」
「なんですか、どんまいって。と言うか普通に移動してますけど、掃除用具は持って行かないんですか?」
「テキトーに近くの教室から借りればOKだよ」
「そんな感じなんですね」
……く、口を挟む隙間がない。木野山さん、おとなしい感じだったけど初対面の部長とそんな突っ込み混じりに話すとか、コミュ力高すぎじゃない?
高崎さんが敬語キャラの割にボケっぽいから、木野山さんはツッコみなのかもしれないけど、初対面でできるって相当だ。嫌われたらとか、変に思わないかなとか、そう思わないのかな?
ちらちら木野山さんを見ていると、気づいた木野山さんは驚いたように二度素早く瞬きして僕を見る。
「え、何? 私に何かついてる?」
「う、ううん。なんでもないよ」
ああ、また駄目だ。友達で話せるようになったとは思うのに、コミュ力高すぎー、なんかコツとかあるの? とか軽く聞こうと思っただけなのに、全然声かけとかできない。挙句向こうから聞かれて否定してしまった。
「おやおや? 酒井君はもしかして、女好きなのかな?」
「うぇっ? な、何、言ってるんですかっ!?」
「えー? だってそもそも、普通の人みたいに女子と話すし、あの世話係っぽい小林さん以外とも仲がいいみたいだから、たくさんの妻を持とうとしているのかと」
「そんなわけ、って、たくさんの妻ってなんですか」
普通の人みたいに話してたら女好きで口説こうとしているって疑うのも酷いけど、たくさんの妻って。世界は変わったけど、一夫一妻なのは変わらないはずだ。確か知識ではそうだ。小学校に入ってすぐの頃に、クラスの女の子が誰が僕のお嫁さんになるかでもめてたことがあった。恐かったからかなちゃんに泣きついて何とかしてもらったけど。
とにかく、そんな酷い言いがかりを、冗談交じりに笑いながらとは言えつけてくる部長に睨みながら文句を言う。
「変なこと言わないでください。僕は普通に友達を作ってお話したりしたいってだけです」
「普通、ねぇ。少なくとも男の普通ではないと思うけど。でも残念。女好きなら私も入れてもらおうと思ったのに」
「……」
こ、こわ。めっちゃ引くわ。平日の昼間、大して親しくもない後輩になんてこと言ってるんだ。人のことビッチ?みたいに言うのもあれだけど、入れてくれって、なんだそれ。
僕はそっと部長から距離をとり、木野山さんの後ろに隠れた。
「あ、怒った?」
「怒ってはいないですけど、ちょっと恐いので」
「えー。女子ならみんなそう思うって、ね? 木野山さん? とりあえず男の子がいたら期待するよね?」
「うえっ、え、や、やー……言うて、私も、やっぱ、好きなひとがいいです」
「だよねっ。先輩、木野山さんに変なこと言わないでください」
突然フラれて困惑しつつも、木野山さんは僕の感覚に近いことをいった。やっぱりね。この先輩がおかしいんだよ。極端なこと言って、惑わすのはやめてほしい。ほんとに誰もがそう考えているなら、怖くて1人で外を歩けないじゃないか。
怒る僕に、だけど先輩はけらけらと笑い声をあげる。
「ははっ、男子に怒られたー」
「喜ばないでくださいよ」
「ま、とりあえず酒井君の緊張もほぐれたみたいだし、中庭にもつくし、真面目に掃除しよっか」
「あれ……」
そう言えば、普通に話しているし、それどころか先輩なのにツッコんだり怒ったりしてる。まさか、これが狙いでわざとバカみたいなこと言ったの!?
な、す、すごすぎる……これが、部長と呼ばれる人をまとめる人のコミュ力。あえて自分が悪者になることも恐れず、ガンガン突っ込んで笑いをとり空気をなごませるっ!
「部長……」
「おっと。私に惚れた?」
「いえ。でも、尊敬しました」
「……惚れるぞ」
「あはは、ごめんなさい」
半目で言われて笑ってしまう。中庭が見える通路までやってきた。まずは掃除道具だ。
先輩について、近くの教室に入る。二年の教室だったけど、よくあるからか勝手に入っても誰もつっこまないし、どころか掃除器具入れのロッカーの前にいる生徒は取り出して渡してくれた。
「じゃあ、一年生は端から落ち葉とか箒ではいてくれる? 私は大きいゴミとか拾っていくから」
中庭に戻ると、先輩は軍手をつけてゴミ袋を持ちながらそう言った。
率先して手が汚れることからするなんて、真面目な人だ。なのにさっきみたいな冗談も言えちゃうなんて、幅広いなぁ。僕も真面目なだけじゃ駄目だ。もっと柔軟に対応できるよう、頑張らなきゃ。
でもまずは、目の前の掃除から、頑張ろう。