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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
友達編
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部活見学

「まずは、近いし吹奏楽から行こうか」

「そうですね」


 放課後、何故かかなちゃんが音頭をとって出発した。何故かなちゃんが前に出ているのか、遺憾である。ていうか、いかんでしょ。二人が優しいからか?

 まあいいんだけど。


「吹奏楽部の見学希望の人は、こっちに並んでくださーい」


 吹奏楽部は音楽室を部室にしている。結構人気があるみたいで、吹奏楽部の前には生徒が何人もいて、音楽室の中が見えないくらいだ。先輩らしき女生徒が誘導している。

 人ごみっぽいわいわいした流れに、ちょっと引きながら、ここまで来たのでかなちゃんの後ろに回りながら、その列に並ぶ。


「ん? あ! 来てくれたんだ!」

「え?」


 ぱっと笑顔で先輩が何かを言っているけど、高崎さんと木野山さんの知り合いかな? 後ろを振り向くと目が合って、首を傾げられた。

 あ、二人の先輩かな? と思って振り向いたけど、木野山さんも高崎さんも首を振った。不思議に思いながら前を向くと、知らない先輩が僕の前に居てぎょっとした。すかさずかなちゃんが僕との間に入ってくれた。


「すみません、距離が近いので、ちょっと離れてください」

「あ、ごめんごめん。美少年だからつい」


 び、美少年。そう言えば、友達作りで社会復帰のことばかり考えていたけど、僕のこの女顔って、女の人から見て、プラス評価なのかな。な、なんか変な感じだ。でも、正直、悪い気はしない。人見知りで女の子が恐い僕でも、女の子に容姿を褒められて嬉しいんだ、と自分でもちょっと驚いた。


「チラシ配ったけど、見学だけでも来てくれると思ってなかったから嬉しいよ。あなたももちろんだけど、よかったら入ってね。あ、うちはすでに男子生徒も一人いるから、安心してね!」


 かなちゃんにも勧誘しつつも、主に僕を見てそう言う先輩に、少し身をひきつつも、他にも男子がいるんだ、と当たり前のことで少し嬉しくなる。

 登校していない生徒も多い中、部活までして青春を謳歌している先輩がすでにいるのは、何となく心強いというか、朗報だ。男だって、頑張れば普通に学園生活を満喫できるんだ。


「そ、そうなんですね。前向きに見学させてくださいっ」

「お。元気がいいね!」


 かなちゃんに付き添われつつも、前向きに部活体験をした。したんだけど、全然音が鳴らないんだけど。フルートにいたっては、口をつけないとか意味が分からない。

 あと意外とかなちゃんが潔癖で、自分の時も僕の時も口をつける前と後でマウスピースを熱心に拭いていた。これはかなちゃん、吹奏楽には向いていないかな? 僕も技量的に向いてなさそうだし、残念だけど吹奏楽は優先順位から脱落だ。


「じゃあ次は、何する?」

「そうですね、近いとこから回って行くのはどうですか?」

「いいんじゃない? さ、酒井君も、それでいいかな?」

「う、うん。いいと思う」


 それからいくつかの部活を見て回る。放送部、美術部、書道部を見てから、陸上部、野球部、サッカー部を見学した。

 どれも歓迎してくれたけど、その勢いにちょっと引いてしまう。うう。男と言うだけで、過剰に期待されている気がする。珍しいってだけで、客寄せパンダにもなるからだろうけど。


 大勢の人から男だ男だってざわざわされると、なんだか自分じゃなくて、自分より一回り大きな着ぐるみでも着て、それを見られているような、自分の存在が浮き上がったような気になる。

 きっとみんな同じはずだ。女子だって、女の子だって言う前提で見られるんだから。でも僕は臆病だから、それを実感すると怖くなる。こういうところが、駄目なんだってわかっているけど、すぐには変えられそうもない。


「あ、ボランティア部、忘れてません?」

「あ、そう言えば。行こうか」

「うん。二人も入るんだよね」


 高崎さんが思い出して、かなちゃんが舵をとる。四人でいるのも少し慣れてきた気がする。僕の問いかけに高崎さんと木野山さんも、僕に慣れてきてくれているのか戸惑わずに頷く。


「そうですね」

「入って損はしなさそうだしね」


 ふむふむ。当日になっても意見の変更はないってことだし、説明聞いてそのまま入部になるのかな? そしたら、どのくらい活動するか未知数だけど、友達四人組で同じ部活に入るってことになる。友達四人組。ふふふ。いいね。


 ボランティア部は、顧問が地学の先生と言うことで、地学教室が部室だった。知らない教室に入るのは、少し気が引ける。腰まで引けそうなのを頑張って中に入ると、教壇の隣の窓際の机に先生らしき人が座っている。そのすぐ近くの席に数人がいて、それ以外には人はいない。


「ん、ボランティア部に入部希望か?」


 ドアを開けた音に反応し顔をあげた先生が、そう聞いてくる。先輩らしき生徒も一気に見てきたので、少しひるみつつも頷く。僕より半身前に出たかなちゃんが口を開く。


「そうです。具体的なことを教えてもらいたいですけど」

「ん。部長、説明してやれ」

「はーい」


 肩までの髪がやたらくるくるしている先輩が部長らしく、今まで座っていた机から一つ手前の机に座って、僕らに対面に座るよう促す。8人掛けなので、ちょうど四人で並んで座れる。右隣にかなちゃん、左側に高崎さんで座ると、ちょうど向かいに部長がいる。

 う。何も考えずに、一番右端に座ったかなちゃんの隣に座ったけど、目の前に部長か。


「えっとね、あ、そうそう私は部長の飯島です。まぁうちはそんな、部活紹介でも言ったけどそんな、堅苦しくないよ。定期的にボランティア活動しているけど、自由参加で、事前予約とかもないし。今やっているのはこんな感じ」


 そう言いながら先輩は、座るときに置いた小さなデスク用カレンダーを僕らに見せつつ、説明してくれた

 今月の予定では、毎週水曜に構内清掃。第一と第三土曜に街での清掃活動、第四日曜に児童館の手伝いだった。


「この清掃活動は定期でやっているんだよ。構内清掃は場所を変えてちょこちょこ掃除して、だいたい三か月で一周する感じ。街での清掃活動は、場所はちゃんとは決まってなくて、まぁ先生の気分かな。駅前とか公園が多いけど。あと月に一回くらいずつ近くの幼稚園とか児童館で色んなボランティアとか、年に4回近くの老人ホームでもイベントするのと、文化祭では老人ホームからのお客さんを案内するくらいかな。あ、これはさすがに打ち合わせもあるから、参加したかったら事前に言ってね」


 他にも先生が手配してやったりもするけど、毎年決まっているのは以上らしい。

 幼稚園とか児童館とか、老人ホームも興味なくはない。でもちょっとハードル高い。高いけど、それ以外の清掃ならできるし、それでほかの人にも慣れたら、そっちのもしたらいいかも。うん。いいな。


 僕はみんなと顔を見合わせて、気持ちを確認してから、部長に声をかける。


「あ、あの、僕らみんな、入部します」

「よっしゃ。貴重な男子ゲット。あ、私部長だからほぼすべてに参加してるし、いつでも何も相談してくれていいからね。もちろん女子もね」


 はいこれにクラスと出席番号、名前を書いてーとシンプルな入部届を渡された。名前を書いて、これで入部は完了だ。

 みんなちょっとテンション上がっていて、早速明日の放課後、清掃活動に参加することにした。


「楽しみだね」

「そうだね。これで、部活見学は終わりかな?」

「もう五時前だし、そろそろ部活も終わるだろうしね」

「そうですねー。見れて一つくらいですけど、酒井君は、他に見たいところありませんか?」

「んー、特には、あ。バスケ部見たい」


 特にないって言おうとして、思い出した。お姉ちゃんがバスケ部何だよね。やったことないし、同じ部活ってなんか恥ずかしいから入る気はないけど、見学くらいしていこうかな。


「へぇ、バスケ好きなんですか?」

「ううん。おね、あ、姉が、バスケ部だから」


 う、恥ずかしい! お姉ちゃんって言いかけてしまった。別に変な呼び方じゃないけど、恥ずかしい。


「そうなんだ。じゃ、行きましょうか」


 高崎さんは気にしていないようで、ニコニコしながらそう言ってくれたので、ほっとしながら頷いた。


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