お昼休み
「たくちゃん、お昼何食べる?」
お昼休みになり、かなちゃんがそう言いながら振り向いた。しかし妙なことを言う。何食べる、なんて。中学までは給食があったけど、高校ではそれがない。なのでお弁当をつくってきたけど?
「普通にお弁当だけど、もしかしてかなちゃん、お弁当持ってきてないの?」
「えっ、だ、だって、学食とか、購買あるし」
「あー……その発想なかった。う、じゃあ、学食に行っちゃうの?」
お昼の学食とか、絶対混むだろうし、お弁当持ちがスペース取るわけにはいかない。でもだからって、かなちゃんなしか……ふ、二人はどっちか残るよね?
「い、行かないって、すぐ売店でパン買ってくるから! えっと、二人は?」
「私たちも持ってきてませんから、売店ですねー」
「そだね。さ、酒井君も、行く?」
「う、うん。行くっ」
誘われた! かなちゃんからじゃなくて、えっと、木野山さんからだ。これは大きな一歩だ。木野山さんも今、僕の名前呼ぶのちょっとどもってたし、なんか親近感感じるかも。
鞄から財布を出して立ち上がる。出しかけたお弁当は中に入れて、と。お、思い切って、木野山さんに話しかけてみようかな?
「酒井君も、何か、つまむようなもの買うんですよね?」
「あ、え、う、うん。お菓子とか、あるかなって」
立ち上がって木野山さんに向く前に、高崎さんから話しかけられた。ちょっと慌てつつも、何とか返事をする。
「酒井君って、どんな系が好きなんですか? チョコ系? クッキー系とか?」
高崎さんが歩き出しながら僕を振り向いてそう尋ねてくるので、僕はその隣に行って合わせて歩きながら考える。行くなら財布持った方がいいかなって思っただけで、別に食べたいものがあるわけじゃない。
好きなものって言ったら、ポテチだけど、今はいいし、あ、みんなで分けられるようなものがいいかな? って、この考え、リア充っぽいかも!
「あ、あの、高崎さんは何が好き?」
「え? 私? そ、そっすね、チョコとか好きですよー」
「そうなんだ、じゃあ、そういうのにしたら、みんな食べれるかな」
「あ、みんなね。はい。そうですね。市子も私も、基本何でも美味しく食べれますので、おすそ分けいただけるんならもう、泣いて喜んじゃいますよ」
「あ、あはは」
泣いて喜ぶとか、友達の木野山さんにも敬語で丁寧な感じだって思ってたけど、結構軽いノリの明るい感じなんだな。面白い人かも。
「お昼、何買おうとかって、決めてるの?」
「そうですね、パンですかね、値段の割に食べ応えありますし。私あれ好きなんですよー、あの、ウインナー入ってるやつ。パッケージにもウインナーのキャラクター書いてるやつ、知りません?」
「あ、知ってるよ。あれ、僕も好きだよ」
「! へへへ、おんなじですね」
お、おおお! 会話できてる! やっぱり僕はコミュ障なんかじゃなかったんだ! ただ多人数での会話に慣れていないだけなんだ。女の子とこんなに簡単に会話できるんだから。
あ、ってか今更だけど女の子と話してるんだ。そう思ったら、なんか改めて緊張しちゃうかも。よく見たら高崎さんって、ちっちゃくて結構可愛いし。
「わ、私もそれ好きだよっ」
「おわっ」
木野山さんが高崎さんに覆いかぶさるようにして、会話に入ってきた。
「私はカレーパンにしようかな」
なるほど、こういう入り方もあるのか。と感心していると、かなちゃんも僕のすぐ後ろにきていて、会話にさりげなく入ってくる。こやつ、できるな。かなちゃんだと正直ちょっとむっとするっているか、ちょっと嫉妬する不思議。
「かなちゃんは辛いのが好きじゃないくせに、カレーパンが好きなの?」
「甘口のカレーは好きだよ」
でもちょっと、中休みで練習したからか、うまく二人とも話せているぞ!
たわいない話をしていると、すぐに購買についた。購買は食堂の隣にある。結構混んでるなぁ。すぐだと混むかと思って、気持ちゆっくり来たんだけど、押し合いへし合いだよ、これ。何があるのか全然わからない。
こんなの、漫画じゃん。まじか。列つくって並べよ。この中にはちょっと、入れない。だって女子ばっかだし、そんな、入っていって変なとこ触ったとか言いがかりつけられたら困る。痴漢冤罪対策は、予防が大事なのだ。
「僕、待ってるから、三人は買ってきてよ」
別にお菓子は必須じゃないし、無理に買う必要はない。パン買ってくるのを、壁際で待っておこう。
購買が見えるけど、喧騒からは離れている廊下の窓際側にもたれてそう言うと、三人は顔を合わせてすぐじゃんけんした。そして1人勝った木野山さんが僕の隣に来て、二人が買いに行った。
お、おお。そんなに気をつかってくれなくても、ちょっと暇くらいでも、そんな。そういう発想0な時点でなんか、僕の気遣いのなさってわかってしまうよね。こういうところにコミュ力の差が出るのかな。
「さ、酒井君、今日部活放課後見に行くじゃん?」
「う、うん。木野山さんも興味あるとこ、ある?」
「うん、まあ。まず吹奏楽は行きたいな。あと、文系も結構気になるっていうか、全然違うのも、この機会に始めたいなって気持ちはあるんだけど、具体的には決めてないよ」
「そうなんだ。色んな事に意欲があって、すごいなぁ。僕も、なにか、やりたいな」
「中学ではなんもやってなかったんでしょ? なら文系とか、緩い系がいいんじゃない? 一緒にまわってさがせばいいし」
「そうだね。あ、そうそう。ボランティア部とか、気になってるんだ」
「あ、あれね! 見ていい感じだったら、あれ兼部いいみたいだし、みんなで入らない?」
「! いいね、一緒の方が、楽しそうだもんね」
これ、もうこれ、友達じゃない! 完璧友達だよね! はー……めっちゃ順調だな、僕の高校生活。この調子で、部活でも友達増やして、携帯電話のメモリで検索機能使うくらい、連絡先増えるかも。や、やばい。ちょっと興奮する。
新しい友達と話して、会話弾むのってなんか、すごいぞ!
「だよね。教室戻ったら、帰りに行くとこ考えようよ。あ、てかついでに、学校探索もついでにしよっか」
「いいね。図書室とかも行ってないし、全体的に回ろうか」
「本好きなんだ?」
「うん、まぁ。木野山さんは?」
「私は漫画専門かな、あ、でもおすすめとかあるなら、読んじゃおうかな」
おお! これは、本のおすすめとか、貸し借りしちゃう感じ? めっちゃ友達っぽいイベントだぞ!
うーんでも、何をすすめればいいんだ? こっちの記憶はあるから、普通にお気に入りはある。あるけど、それが好きかわからない。最初の一歩で、ハズレだって思われたら、もうこの企画なくなってしまう。ここが大事だぞ。
「木野山さんって、漫画だとどんなのが好きなの? 熱血系?」
「え? あ、そうだねー、何だかんだ、少女ジャンプとか、やっぱ好きなんだよね」
じゃあやっぱり、冒険活劇みたいなのとかがいいかな。でも手持ちにはあんまりそう言う小説ってないんだよねー。あ、無意識に、ハードカバーしか考えてなかったけど、ラノベがあるじゃん!
……いや、図書室からの話題派生なんだから、そこにあるような系を木野山さんも考えているはず。ここでラノベ出すのは違う気がする。
「あ、あの、酒井君? 私、なんか変なこといった?」
「え? あ、ご、ごめん。ちょっと考え込んでた。えっと、あの、ちがくて、その、木野山さんに、貸す本について、考えてて」
しまった! 考え込んで、つい無言になってた! しかも考え込んでたとかそのまま言ったら、何で会話してるのに、目の前にいるのに無視するのって感じでめっちゃ感じ悪いじゃん!
フォローしたけど、誤魔化したって思われてないかな? 嘘じゃないんだけど。
「そ、そんなに本気で考えてくれてるんだ。その、ありがとう。軽い気持ちで言って、なんか、逆にごめんね」
「う、ううん! 嬉しいよ。えっと嬉しいから、ちょっと、考えてたんだ。その、変なのすすめられないなって、思って」
「そんな、気にせず、好きなのでいいんだよ?」
「うーん」
「お待たせー」
でも、と悩んでいるうちに、二人が戻ってきた。
「時間かかってごめんね」
「早く教室戻って食べましょー」
「ん。そうだね」
「う、うん」
あ、時間切れだ。うーん。これ、貸す用の本とか用意してもいいのかな? それか、え、済んだ話なのに本気にしたとか思われないよね? ……あ、後でかなちゃんに相談しよう。