会話って難しい 2
一時間目が終わった。と言っても先生が自己紹介して、簡単なテストしたりと大したことはなかった。
終わってすぐに、三人が僕の机に椅子を寄せて話しやすくしてくれた。かなちゃんは当たり前として、二人とも会ったばかりの僕に優しいなぁ。きっとたくさん友達がいるんだろうなぁ。羨ましい。
まあ、そんな二人だからこそ、いいアドバイスがきけそうだ。うまくいけば、僕も二人みたいになれるかも知れない。
さっきは勢いで尋ねかけたけど、正直こう言う風に、自分の駄目なところを人に相談するのは恥ずかしい。でも自分一人で考えてもどうしようもない。思いきって、聞いてみる。
「あのさ、話す内容とかって、どうやって決めてるの?」
「んん? 内容?」
「話題選びをどうするかってことですか?」
「んー、と言うか、言い回しとかもなんだけど、その、こう言うことを、こう言う言い方で言ったりしたら、変に思われないかなとか考えたら、とっさに言葉がでなくて、会話が流れちゃうって言うか」
どう聞けばいいのか、まとまらないまま質問すると、だけどちゃんと伝わったみたいだ。三人とも考え込むように顎に手をあてたり、首を傾げたり視線を泳がせたりした。
「うーん。確かに、こう、嫌われるかもって、発言を控えること、なくはないよね」
「そうですね。相手によって、やばいかもって思ったら、そりゃそうです。酒井君は、誰が相手でも、そういう風に考えて迷うんですか?」
「えっと、家族とかなちゃんは別だよ。だけど、それ以外の人だと、その、今みたいに、話すこと決まってて、僕の話す順番が決まっているなら、話せるんだけど」
「順番って……まぁ、確かにそう言えるけど」
かなちゃんは何だか呆れたような顔をしている。くそっ、なんなんですか、かなさん。僕と同じように友達いなかったくせに上から目線ですか? って、駄目だ駄目だ。かなちゃんに嫉妬するのは違う。むしろ同じようにお互いしか相手がいなかったのに、コミュ力のあるかなちゃんこそ、見習わなくちゃ!
「うーん。ようは話す言葉を、話して問題ないか頭の中で確認しているうちに、話すタイミングを逃してしまって、会話において行かれてしまうということですよね。でもそれって、酒井君の問題と言うより、私と市子が信頼されてないからってことが問題な気がします」
「え?」
「まぁそうだよね。私らに嫌われたくないからって考えているってのは、結構嬉しいけど。嫌いになんかならないけど、まぁまだ会ったばっかだし、繊細な酒井君が委縮してるってだけだよね」
え、いや、問題っていうか、そう言うんじゃないよね。えー? なんか、そんなフォローされるのも違うって言うか。だって、それじゃ、新しく友達つくろうとしたって、できないままだ。
「あ、あの、二人みたいに、すらすら話したいんだ。そうじゃなきゃ、その、新しい友達、できないし、どうすればいい? あ、かなちゃんも」
「私に対するついで感半端ないよね?」
「う、だってかなちゃん、僕と同じくらい友達いないでしょ?」
「い、いないってことはないけど、まぁ、言わんとすることはわかったよ」
納得してもらえたみたいでよかった。よかったけど、あれ? いるの? 一人でも僕以外にいるの? ……なんか、複雑だ。
ま、まあいい。今は、僕を改善することだけを考えよう。二人の様子を伺うと、顔を見合わせてから、木野山さんが僕から視線をそらして頭を書いてから、僕を見て口を開いた。
「うーん、別に酒井君は、こう言っちゃあれだけど、私たちと絶対友達として仲良くならなきゃいけない訳じゃないでしょ?」
「え?」
「あ。もちろん私としては仲良くなりたいよ? あわよくばもっと親密になりたいよ?」
「あ、はぁ」
思ってもなかった距離のある言葉にきょとんとしてしまった僕に、慌てたように木野山さんはそうフォローしたけど、それはフォローなのか?
「ひかないで。でもさ、酒井君からしたら、別に私たちってたまたま隣だから話してとりあえず友達ってなっただけじゃん? だからそんなに気負わなくてもいいんだよ?」
「言い方はあれですけど、そうですね。酒井君は、もし自分が言おうと思ったことが、失礼な言い回しだだったり突飛なことで、変に思われたり嫌われたらいやだから、慎重になり過ぎて、会話にうまく入れないってことですけど、別に嫌われてもいいやって開き直ったらどうですか?」
「ひ、開き直るって、でも僕、二人に嫌われたくないよ?」
簡単に言うけど、嫌われてもいい何てどうやって考えるんだ? だって友達として仲良くなって行きたいって思うから頑張っているのに、嫌われたら本末転倒じゃないか。
首を傾げると、二人とも何故か僕から顔ごとずらして視線をそらした。え? 僕そんな引くほど変なこと言った? 見当違いなこと言った?
「え、えーっと、ですね、その、でもあの、私たちはたまたま隣になっただけですから、やっぱりこう、人間には相性ってありますし、合わないってこともあるわけですから。ありのまま接して、合わないなら無理に友達でいることはないと思います」
「そ、そうそう。だから、変に遠慮して我慢して仲良い素振りだけされても、こっちも、困るし。万が一お互いに嫌いだってなっても、次に友達になれる人を他に探せばいいんだから、もっと、軽い気持ちで人と接するようにしたらいいと思うよ」
目をそらされたままだけど、言っている内容は、なるほど、と思った。確かに、世界で僕らしかいない訳じゃないし、この二人に嫌われたらもう友達ができないってわけじゃない。人を変えればやり直せるって思えば、気楽にできるのか。
……いや、そうは言っても、ねぇ? 理屈的にはわかるけど、そんな簡単に割り切れたら苦労しないって言うか。合わないとしても、やっぱり嫌われたくはないって言うか。
あー、でもそう思う僕って、八方美人なだけなのかな。臆病って言うか、逆に人に好かれたがっている、ナルシスト系な悩みなのかな。
うーん。でも、そうだよね。僕がしっくりこないとか、えーとか思うのが間違っているよね。実際そう思ってしてる二人みたいになりたいんだから、とりあえずそれを受け入れて、そう考えられるようにしなきゃ。自分で、意識して変えていかなきゃいけないんだから。
「わかった。ありがとう、頑張ってみる」
「はい、私たちでよければ、練習台になりますから」
「そうそう。どんどん話しかけてよ」
「ありがとう」
頼りになる人が隣でよかったー。あ、こう言うことも、言った方がいいのかな。なんか頼りないって思われるかもだけど、そういう格好つけたり言い方とか気にしすぎるのが駄目ってことだもんね。自分をよく見せよう、好かれようって思うから、言葉に迷うんだ。思いついたことは言おう。
最低、この二人には言おう。それなら嫌われても、まだこのクラスには友達候補が30人近くいるから、大丈夫! たぶん。
「頼りになる二人が隣で、本当によかったよ。よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「う、うん。よろしく」
あれ? なんか、ちょっと二人もぎこちないような。やっぱりちょっと、内容が恥ずかしい感じだったかな。ま、まぁ。いいか。思ってしまった以上、それが僕なんだから。
そしてすぐに、次の授業が始まった。次の休み時間は何を話そう、と考えながら、それぞれ席も戻して、机に向かった。