会話って難しい
番外編挿入でずれた分、土曜日だけど更新します。
学校二日目。昨日より少し緊張もなく、落ち着いて登校できた。
「二人とも、おはよう」
「! お、おはよう」
「おはよう」
知らない人にすれ違いざま挨拶された。慌てて返した僕に対して、かなちゃんは普通に返事をしている。靴箱が近いから、同じクラスの人だ。
やば、全然覚えてない。しまった。そう言うの、予習しておくべきだった!?
「か、かなちゃん、今の人」
「ん? 多分クラスメイトだよ」
「あれ、多分? かなちゃんも名前わかってないの?」
「1日で全員覚えられるわけないでしょ? 向こうも、たくちゃんはともかく、私の名前は覚えてないと思うよ?」
「え……」
覚えてない人に挨拶したの? え、そんなのありなの? 知らないけどクラスメイトってだけで挨拶しちゃうの?
ど、どうなってるの、そのコミュ力! え? 無視されたらとか、変に思われないかなとか、自分が思ってる人と違ってクラスメイトですらなかったらとか、考えないの!? そう言うものなのか? 普通の人ってそう言うものなの?
ええ……僕って、自分で思ってる以上にコミュ障だった? そんな、馬鹿な。ちょっと引っ込み思案の人見知りなだけだと思ってた。
「……」
「たくちゃん? どうしたの?」
「……僕の引っ込み思案っぷりに、不安になってきた」
「大丈夫だって。わ、私がついてるよっ」
「かなちゃん……」
嬉しいけど、それが余計に僕のコミュ力を奪ってるような。だってかなちゃん、レスポンス早いし、僕の気持ち察して全部話すから、僕が口を開く間がないんだもん。
い、いや、かなちゃんのせいにしてはいけない。これは僕自身の問題だ。頑張らないと。
そうだ。教室に入ったら、挨拶をしよう。教室内なら間違いなく同じクラスだし、中にいる人みんなにまとめて挨拶できる。
これで一気に、僕がみんなと仲良くしたい、明るい人だってアピールができる!
内心テンションをあげて、どきどきしながら教室へ向かい、ドアを、開ける!
「……」
「たくちゃん? 入らないの?」
「……お、おは、よう」
「? おはよう」
んあああ! なんで僕は振り向いて小さい声で言ってるんだー!? これじゃ普通にかなちゃんに改めて挨拶しただけだ!
でも、でもだってドア開けた瞬間めっちゃ近くの方のクラスの人振り向いて目があったし! 恐いじゃん! びびるじゃん!
なんだよー! あぁ……あれ、いやでも、考えたら挨拶して誰も反応しなかったら困るし、せっかくこっち見てくれた人がいたんだし、そのまま挨拶したら返事がもらえたのでは?
「……はぁぁ」
落ち込みながら席に向かう。と、そこですでに隣の高崎さん木野山さんが席についていることに気がつく。
は。ここだ。せめてこの二人には、かなちゃんより先に挨拶しよう。僕の方が前を歩いてるんだし。楽勝だ。
まだこっちに気づいてないから、近づいて振り向いたタイミングで声をかけよう。
「あ、酒井くん、おはよう、小林さんも」
「おはようございまーす」
「お、おはよう」
「二人ともおはよう」
……考えたら、気づかれた時点で向こうが先に挨拶してくるのは当たり前か。でもかなちゃんより先に返事できたし、セーフだよね?
席につきながら、今度こそこっちから話しかけようと、話題を探す。
えっと、昨日もだけど、僕らが来るより早いし、早いね。家近いの? とかが自然かな。あ、でもなんか住所特定しようとしてるみたいでキモいかも。えーっと早起きだねとか? あー、でもそれ、なんか上からって言うか、意外感でてない?
「二人とも、朝は早いの?」
「うん。中学の時朝練してたし、その感覚で」
「せっかくの習慣なので、崩れないようにしてるんですよ」
……かなちゃん! いやかなちゃん悪くないけど。
と言うか、吹奏楽も朝練ってあるんだ。意外だなぁ。朝練って体育会系のイメージだった。あれ、吹奏楽って文系だよね?
と、とにかく発言しなきゃ!
「あ、あのっ」
……何を言えばいいんだ?
と、何も考えてないのに焦って声を出してしまった。突然声を出した僕を、三人がきょとんとした顔で見ている。三人の、三対の目が僕を……あ、あわわわ、見られてるっ!
「その、えと、あのっ、お、おはよう!」
「え? お、おはよう?」
「おはよう、ございます?」
「たくちゃん、どうしたの?」
ぐ、う、ううぅ。僕は、何を言っているんだ。もう挨拶したのに。テンパりすぎて、さっきの挨拶しなきゃ! を今さら実行してしまった。
あぁ、穴があったら入りたい。
「ち、ちがくて、あの、えっと」
「落ち着いて、たくちゃん。誰も急かしてないから、ゆっくり話して? ちゃんと待つから」
「う、うん。あの、その……」
お、落ち着いて。落ち着いて、何を話すんだ? そもそも話す内容もないのに話したいって気持ちだけ先走ってしまうのがおかしい。本末転倒と言うか。
「ぼ、僕も、会話に入りたくて……ご、ごめん」
「たくちゃん……ごめんね、こっちこそ。もっとこう、たくちゃんが話せるようフォローするよ」
「ごめん、そう言うのは、逆効果って言うか、ますます僕、かなちゃんなしで話せなくなるから。かなちゃんは普通でお願い」
「え、あ、そ、そっか。ごめん。やりすぎは逆に、迷惑だよね」
僕としては普通に言ったのだけど、かなちゃんははっとしたように目を見開くと、こっちが申し訳なくなるくらいしょぼんと肩を落として謝罪する。
いやそんな、急にかなちゃんなしで困るのは僕だし、そんな、迷惑とか、余計なお世話なだけで、ああ、余計なお世話ってのはまた言い方が悪すぎる! なんで僕はこう、言葉がうまく選べないんだ!
「う、ううん。こっちこそ、ごめん。そう言うつもりじゃなくて、えっと」
「あのさ、私たちもちょっと男子だって遠慮してた部分もあるんだけど、なら、もうそう言うのなしでガンガン話しかけてOKって感じなのかな?」
「そうですね。正直、こっちから話しかけてもいいのかなー、小林さん経由の方がいいのかなって思ってましたし」
言葉に迷っていると、僕とかなちゃんの微妙な空気を誤魔化すように右から二人がそう言ってくれた。
ほっとしつつ、遠慮されてたのか、と驚く。二人とも特に、僕が男だからって特別扱いしてるようにも感じなかったし、普通に同性の方が話しやすいんだと思ってた。
でもそうじゃなくて、僕に話そうと思ってるけど遠慮してたって言うなら、どんどん話しかけてほしい。人頼みで申し訳ないけど、それなら僕だって、話くらいできる!
「あ、あの、その、え、遠慮しないで、ほしい。その、僕、友達、いないから、すぐ、うまく返せないかもしれないけど、その」
「大丈夫です。酒井くんが恥ずかしがりやなのは十分わかりました。別にそのくらいで、変に思ったりしませんよ」
「そうそう。むしろ可愛いって言うか」
んぐ。フォローされてて、こんな状態でも普通に受け入れてくれてるのはありがたいし嬉しいけど、でも、可愛いとか。ここでは男子に対する誉め言葉なのかも知れないけど、複雑だ。
「か、可愛くなんか、ないよ」
う、これだけだと、誉められてるのに無愛想かも。えっと。
「で、でも、ありがとう」
これでよし、と。ああ、疲れる。普通の人って、みんなこんなことを、瞬時に考えて判断した上でタイミングよく話してるの?
……いや? でも、僕はかなちゃんや家族にはここまで考えてない。と言うことは、単に僕が、緊張しすぎの考えすぎなだけ?
うーん、でも、家族もかなちゃんも、僕が多少何を言っても許してくれる、簡単に嫌いになったりしないって言う信頼感があるから、考えなくても話せるんじゃないかな?
と言うことは、やっぱりみんなも、新しい友達を作るときは同じように緊張したり考えるはずだ。となると、やっぱり、僕が頭悪すぎるだけ?
「あの、こう言うこと、質問するのって、あんまりないって言うか、変なことを聞きたいんだけど、いいかな?」
「ん? なになに?」
「さっきも言いましたけど、変に思ったりしませんから、気軽に話してくださいよ」
「あの、あ」
言おうとしたところで、ベルがなって、殆ど同時にドアが開いて先生が入ってきた。
「お、後で、またお願い」
慌てて話を中断して、僕は鞄から筆記具を出して、鞄を机からどけた。