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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
友達編
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自己紹介

「第二中学から来た、小林加奈子です。趣味は漫画とゲームです。後ろの席の酒井くんとは、幼稚園からの付き合いで、親御さんからも頼まれてますので、その、わかってもらえると嬉しいです」


 ついに自己紹介だ。どんなことを言おうと色々考えていると、いつの間にか前の席のかなちゃんが立ち上がっていた。

 しまった。他の人のを参考にすればよかった! と慌ててかなちゃんのは聞いたけど、あんまり参考にならない。と言うか、そう言うのは言っておくんだ。


 なんか、保護者同伴で学校に来てるみたいで、恥ずかしい。でも実際、そうじゃないとこう、変な関係みたいに見られるだろうし、まだかなちゃんと離されると困るし、仕方ないか。それにそう言うのも、珍しくないって話だし。


「よろしくお願いします」

「はい、じゃあ、次、酒井卓也君、お願いします」

「は、はい」


 ついに回ってきた!

 固くなったまま、何とか立ち上がる。う、ちょっとぎこちなかったかな。い、いや、それより挨拶だ。

 って、なんか、すごい見られてる。いやそりゃ、一人ずつの自己紹介だし当たり前なんだけど。えっと、何を言うんだっけ。えー、そう、中学からだ。


「だ、第二、中学から、きました。酒井、卓也です」


 えっと、あと、あと、え、なに? なに言う? 趣味は、えっと、ああでももう、なんか変な間が空いたしもう駄目だ!


「よろしく、お願いします」


 席についた。

 う、うわぁぁぁ、なんだよもう、素っ気なさすぎる! さっきまで、趣味について話そうとか、得意科目とか、友達募集中ですとかいっそ言おうかなとか、色々考えてたのに!

 なんでいざとなると何も出でこないんだよ! ああぁぁ、駄目だ、僕もう駄目だ。みんなに見られてると思うと、頭の中真っ白になって、自己紹介すらまともにできない。駄目だ。


 これじゃあ、友達をつくるなんて……い、いや、でも、もう隣の席の……た、高崎さん。うん。高崎さんと、その前の、えー、き、木野山さんも、連絡先交換したし、半分友達みたいなものだ。大丈夫。まだ挽回は可能だ。


 俯いて、なんとか自分の気持ちを持ち直していると、急に教室が騒がしくなった。顔をあげるとかなちゃんが振り向いている。


「あれ?」

「ぼーっとしてる? 入学式行くよ?」

「あ、うん」


 入学式か。まぁ、これは普通に並ぶだけだし、変なことないか。とりあえず、今日は、二人友達候補になったってことで、もう十分でしょ。あー、疲れた。


 教室の前で出席番号順に並ぶ。クラスに僕だけ男子なので、男女別にはならない。かなちゃんの背中を見ながらなので、特に緊張することなく行けた。緊張することなんかないけど、こう、若干見られている気がするし。


 体育館に入る。席が並んでいて、すでにいっぱい人がいる。舞台に対して後ろから入るので、いっぱい保護者の人が見えて、ちょっと緊張する。

 別に何をするってこともないし、制服だってこの間家に届いたときに写真撮ったりしたんだから、来なくていいって言ったけど、お母さん絶対来るって言ってたし、いるんだろうなぁ。なんか嫌だ。恥ずかしい。

 極力、保護者席を見ないようにして、列を乱さないよう移動して、新入生の席に座っていく。


 そして入学式が始まる。国歌斉唱して、校長先生が代表の生徒を壇上に挙げたり、校長先生とか、その代表の生徒とか、在校生とか、保護者代表とか、順番に色々話をするけど、聞き流しておけばすぐ終わる。

 最後に校歌が流れて、入学式終わり、ってなって教室へ戻る。


 途中、体育館から出たところで、先に出ていた保護者の群れにちらっと目をやると、お母さんと目があってしまった。ぶんぶん手を振られた。

 恥ずかしいから目をそらしたけど、ちらっと回りから見られた。


 もう! お母さんの馬鹿! あー、もう、来なくていいっていったのに。


「たくちゃん、おばさん手ぇ振ってるよ?」

「う、うるさいなぁ。わかってるよ。かなちゃん、無視して」

「あ、う、うん」

「もー、かなちゃんとこのおばさんは来てないの?」

「来てないよ。平日だしね」

「いいなぁ。うちも、来なくていいって言ったのに」

「まあまあ、たくちゃんが可愛くて仕方ないんだよ」

「……嬉しくない」


 心配かけてるし、過保護になるのはわかる。申し訳ないなぁとか、有り難いなぁって思うけど、それとこれとは別だ。変に目立ったりしたくないのに、手なんか振らないでほしい。


 教室に戻って、明日からの予定表を渡される。教科書とかは制服と一緒に届いているから、他に受けとるものもない。

 このあと、体育館で部活紹介があるけど自由参加で、これで今日は解散となる。


「ふー、終わったー」

「部活紹介行く?」

「うん。行こうかな」


 振り向いたかなちゃんに答えてから、ちらっと隣を見る。隣の高崎さんもこっちを見ていて目が合う。

 慌ててそらしてから、そっと改めて右を見る。高崎さんも木野山さんも、僕に気づいたようでこっちを見ている。う。待たれている!


「……」


 二人は部活決めてるの? 部活紹介行く? とかるーく聞こうと思ったのに、予想外に目があったから調子がくるってしまう。

 でも、待ってもらってるんだし、やっぱやめたはなしだ。声をかけよう。3、2、1、0……の、0でかけよう。次が本番だ。3、2、


「二人は部活決めてるの? 私たち体育館行くけど」


 うっ。かなちゃんに先を越された!


「行くよー」

「候補はありますけど。二人はあります?」

「ま、まだないよ」

「私も同じく。二人とも中学で帰宅部だったから。二人は何か入ってたの?」

「私ら、二人とも吹奏楽だったんだ」


 へぇ。それもいいなぁ。部活もいいけど、あんまり体育会系とか、体力面には不安だから、文系がいいし。


「そうなんだ。楽器は?」

「私ホルン」

「私はフルートです」

「へー。自分で楽器持ってるの?」

「まさか。学校のだよ」

「欲しかったですけど、高いですからねー」


 そっか。ホルンってどんなのだろ?


「私、よく知らないんだけど、ホルンって長細いやつ?」

「あー、それってアルプスホルンでしょ。ちがくて、もっと丸いやつ。カタツムリみたいな形」

「へー。そうなんだ」


 アルプスホルンってのも知らない。かなちゃん意外と物知りだなぁ。……あ、僕会話に入ってない! えっと、何か、何か言わなきゃ!


「あの」

「そろそろ、あ、ごめん、たくちゃん。今何か言いかけた?」

「あ、う、ううん。なんでもない」

「そう? そろそろ体育館行こうかと思うんだけど」

「そ、そうだね。行こうか」

「前の方行こうよ」

「見えやすいですもんね」


 う、うう。なにこれ。多人数で会話するの、ムズすぎ。どのタイミングで口を開けばいいの?

 むむむ。難しい。家族とかは、ずっと喋ってるわけじゃないし、この間委員長とかなちゃんと一緒だったときも、委員長が僕に話しかけてくれてたから、会話しやすかったけど。


 僕、気を使われないと、会話どころか発言もうまくできないのか!


 女の子同士だから、普通にかなちゃんとかの方が会話しやすいもんね。僕は頑張らないと。うーん。でもすでに、かなちゃんが友達で僕がオマケみたいになってるかも。

 難しいなぁ。しょんぼりしながら、僕は体育館へ向かった。



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