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あべこべ世界も大変です  作者: 川木
友達編
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番外編 理容師視点

希望を受け、思いのほか書けたので、急遽時系列無視して投稿します。

前髪切った時の、理容師視点です。


 そうだ、理容師になろう、と決めたのは中学生の時だ。好きだった男の子が、お気に入りの理髪店があって通っている、と言う会話をしているのを盗み聞いて、心を決めた。その後その男の子と離れてからも、男性と出会えるかもとの希望を胸に資格を取った。

 とはいえ、理髪店一本でやって、男性とゴールインするなんて現実的ではない。髪を切ると一口に言っても、理髪師と美容師では資格が異なる。旧時代的だとの指摘もある中、どうせ男性が女性のところへ髪を切りに行くなんてないんだからいいじゃん、みたいな感じでずっと法改正はされていない。

 別に男女の区別がある資格ではないけど、できる作業にやや違いがあり、理髪師の資格だけではパーマをかけたりできないので女性客を相手にするには足りない。仕方ないので美容師の資格もとって、兼業として看板を出している。


 そして思っていた以上に、男性の髪を切る機会には恵まれた。と言うか、幼い子供は親に連れられて行くので、どちらも相手できるのは効率がいいようで、ちょこちょこ出会える。出会えると言っても、本人が自意識に芽生えて女に切られたくないと思うまでなので、成長しても精々小学生低学年くらいまでなので、理想とは違うけれど。

 まぁとりあえず、そんな感じで、男性とのゴールインは諦めてショタにはぁはぁするだけで我慢し、それなりに経営も順調な日々に満足していた。


 そんなある春の日、定期的に通ってくれている常連客の女の子がやってきた。


「すみません」

「あ、いらっしゃい、詩織ちゃん」


 親子そろって通ってくれている、ありがたい常連客だ。だけど詩織ちゃんはつい一週間前くらいに来てくれたばかりだ。誰か連れてきているみたいだけど、友達を紹介してくれるのだろうか。

 もしそうなら嬉しい。女子高生がいっぱい来てくれて、高校生のカリスマとかになれたら、男子高校生も来て恋に落ちてゴールインとか、そう言う妄想ができる。うん。現実では無理でも、妄想できる余地位ほしい。


 首を傾げる私に、詩織ちゃんは後ろの二人を紹介してくれた。


「弟の卓也と、まぁ、幼馴染の加南子です。卓也の髪をお願いしようと思ってきたんですけど、いいですか?」

「えっ」


 お、男の子? 幼児じゃない、男の子、だと!?

 う、うおお! 聞いたことある、確か中三? あ、もう高校生かな? 男子高校生! DK! やっべ、前髪伸ばしてて顔よく見えないけど、ほっぺたつやつやじゃん。なめてぇぇ。ショタの時も思ったけど、DKはさらにエロティックにすら感じる。長い前髪を払って照れさせたい!


 ……ふー、落ち着け私。


「ああ、もちろん大丈夫よ。ちゃんと私が相手をするから、安心してね」


 うちの従業員は私以外に2人いる。一人は見習いなので論外として、一人はちゃんと両方の資格をとって私と同様の働きができるけど、男の子は万が一があっては困るので、必ず私が対応している。

 私は劣情の一切を表に出さない完ぺきなポーカーフェイスができるので、信用を得て最近ではショタ客もそれなりに多いくらいだ。


「ありがとうございます。前髪を、目が見える程度に切って、全体的に少しすかして、清潔感があって手入れのしやすいようにしてください」

「なるほどね。なにか、こういう人みたいに、って言う希望はある?」


 ちら、と男の子、卓也キュンを見ると、びくっとしてから詩織ちゃんの右肘の引っ張ってから首を横に振った。

 か、可愛い。顔は前髪でよく見えないけど、鼻から下の感じでは、鼻筋も通ってるし、口元も不安げだけど上唇が少し薄めな分下唇がちょっとぷっくりした感じで赤みががっててしゃぶりつきたい魅力があるし、目元も詩織ちゃんに似てたら絶対美少年だし、それでこんな小動物オーラとか、すでに可愛い。確信した。この子美少年に違いない。


 そんな子の前髪を切って、新しい世界を見せてあげるとか、興奮する。はあぁ、理髪師になってよかった! 生まれてきてよかった!


「すみません、人見知りで。今言ったみたいに、無難にしてくれたら大丈夫です。曖昧で申し訳ないですけど、お願いできますか?」

「もちろん、年頃の男の子の髪を切るなんて貴重な機会だし、腕をふるわせてもらうわ」


 よし。あえて冗談っぽく言うことで、詩織ちゃんも警戒心ないわね。うんうん。日頃の行いのお陰だ。


 後々髪の毛を回収して楽しみたいので、念入りに床を掃除してから席につかせる。

 他にお客は一人いるけど、ちょうど店員の清美ちゃんがしてくれてる。こっちを気にしてる気配はわかるけど、スルーする。

 普段から男の子の対応はさせないから、口を挟んではこないけど、やっぱり男子高校生となると気になるようだ。お客様もちらちらしてるけどスルーする。あ、見習い、あんたは掃除の手を動かせっての。


 まずは首元を覆うようにタオルを置いてから、カットケープをつける。お店で切るのが初めてと言うわけでもないらしく、普通に装着できた。

 そして一旦洗髪台に移動してもらい、髪を洗う。うちは上向きしかないのだけど、どことなく戸惑ったように座った。


 前髪が半端にめくれて、その顔がようやく露になる。おっ! やっぱり、美少年! かーっ! たまんねぇな!


 顔に水がかからないよう、使い捨ての布を顔にかける。かける瞬間、戸惑いつつも目を閉じたキス顔がちらっと見えて、手が震えかけたけど気合いでカバー。

 私は職人。職人なのだ。職人に徹して気に入られれば常連になってくれてゴールインの夢が手の届くところにあるのだ!


 前髪をそっと布の下からだす。その時かすかに震える卓人キュンに私の下腹部も震えた。


 はあぁぁぁ、髪の毛の手触り最高だよおおお。

 今までにも手触りのいい人はたくさんいたけど、男子高校生と思うと全然違う。もはや性的な気持ちよさだ。


 感動しつつも、何でもない風を装い髪を洗い終え、軽く拭いてまた席へ移動。この際に、使い捨ての顔に乗せた布は間違いのないよう、しっかりポケットにいれて確保することは忘れない。

 さて、いよいよ散髪だ。ここでびびってはいけない。


 男子高校生でなくても、絶対に失敗できないのは同じだ。ここは本気で職人としてのプライドとして、ちゃんとする。

 緊張はしたけど、カット中はボーイッシュな女の子をやっていると自己暗示することで問題なくできた。


 完璧だ。そして終わってみたら、まじで可愛い顔してる! はー、運命の相手だわ。


 最後にまた髪を洗い、乾かして、完成させる。くるっと回して鏡で後ろ頭を見せて確認してもらう。


「こんな感じでどうかな?」

「は、はい。だ、大、丈夫、です」


 ありがとござます、と小さな声でだけどお礼を言われた。

 この子、大人しい系の美少年とは思ってたけど、声も可愛いし、頭に天使の輪があるし、天使だったのか。


 目元を隠していても、ちゃんと見れば顔が整っているのは普通にわかる。でもぱっと見ただけでは、暗いようなマイナスな雰囲気が先行する。

 でもどうだ。こうして私が仕上げた髪形では、目が見える。すると同じような動作でも、可愛さ100倍マシである。あああ、こんなの笑顔向けられたら惚れるに決まってる。やばい。とんでもない美少年をこの世に生み出してしまった。

 ごめんね、みんな。この美少年、私の夫(予定)だから。惚れても無駄だ。


 詩織ちゃんにもオッケーをもらい、何の問題もないまま帰ってもらった。


「店長、さっきの男の子、めっちゃ可愛かったですね!」

「清美ちゃん、ちらちら見てたでしょ。駄目よ。お客様にあんなことしちゃ。あと、いくらお客様がいなくても、声が大きいわ」

「あ、す、すみません。つい……。店長はすごいですね。あんな美少年でも、いつも通り仕事できて」


 専門学校時代からの後輩である店員の清美ちゃんは、相変わらず私のポーカーフェイスを見抜けないようだ。わざわざ言うことでもないからいいけど。


「まじそんけーするっす。あっしだったら、ぜってーコーフンして、匂い嗅いだり、触ったりするっすわー」

「綾子ちゃん、犯罪だからね」


 見習い、お前ほんと、いい加減にしろ。親戚のごり押しで見習いにしてるけど、首にするぞ。私の天使によこしまな目を向けるんじゃない。


「あと綾子ちゃん、掃除の手止まってたよね? 真面目にやらないと、妙子おばさんに言って引き取ってもらうわよ?」

「すみませんっす。でもはんせーしました。あんな美少年と出会えるなら、あっし、まじ気合入れて資格とるっす! まじ、改めてよろしくお願いしますっす!」


 ……まぁ、やる気が出たなら、結果オーライとして、いいか。今までは一応、言われたことはする程度だったし、やる気ないのが明らかだったからお試しの三か月ですぐ辞めてもらう予定だったけど、本気で目指してやる気があるなら、話は変わる。もう少しだけ、見ていてあげるか。


「はいはい、よろしくね。じゃ、まずは掃除から、ちゃんとしてね」

「はいっす!」


 はぁ。こんな駄目人間の目まで覚まさせるなんて、卓也キュン、天使どころか、神じゃない?

 とりあえず私も、次来るまでにもっと腕磨いて、若い男の子の好みの雑誌とか用意しなきゃ。女性向けと絵本くらいしかなかったし、一応置いてたけど見てなかったしね。

 あー、楽しみ! 生きててよかった!


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