席決め
とうとう、高校の入学式の日がやってきた。
色々とこっちの常識みたいなのをかなちゃんとかにも色々聞いたりしたし、だいぶ馴染んだと思う。でも、女の子を対面すると思わずびくつきそうになるのは変わらない。
男が少ないとかなり危ないのかなって思っていたけど、なんか政府がめちゃくちゃ頑張って、街中でもほとんどの大通りにカメラつけているし、男性が訴えたら証拠がなくても助けてくれるシステムで、全男子に全地球自動測位システムの端末とか言う、要するにGPSが埋め込まれていて、誘拐しても必ずその日中に助けられるらしい。
正直引いたし犯罪者でもGPSつけるってなかったのに、と思ったけど、他国では男の人身売買とかも少なからずあるらしいので、GPSあることで抑止効果にもなるなら仕方ないかなと思う。家族とそれにあたる人物の要請がなければ現在地を確認できないみたいだし。それでも捕まる前提でいいからって扱いやすい子供を誘拐するってことがあったので、義務教育中は政府から護衛が出るまでになっているらしい。
すごいな、この世界。でも、少なくとも、大通りを歩いているなら一人で少しくらい歩いていても、即犯罪に巻き込まれる可能性はほぼないと思っていいみたいだ。そのあたりは安心できる。
なのに家族もかなちゃんも、そうだけど心配だから一人では外出禁止って言うんだから、本当過保護だなぁと思う。ま、僕も慣れるまでは言う通りにしておくけどね。
学校について、まずかなちゃんと同じクラスでほっとした。クラスが同じなら、小林と酒井の僕らは自然と席が並びになる。と思いながらクラスと出席番号で割り振られた靴箱で靴を履き替えて教室に入ったら、好きな席につくよう黒板にでかでか書いてあった。
「どこに座る? 窓際がいい?」
「そうだね。できれば一番後ろの窓際とかいいけど、さすがに空いてないよね?」
一番乗りってわけじゃなくてパッと見10人くらいいるから、いい席は空いてないだろうと思いながら教室の後ろを振り向く。がたたっと音をたてて女の子が慌てて席をたって、隣の席に移動していた。
「窓際の一番後ろ、空いてますよ! あ、その前の席も空いてますんで!」
「えっ、か、かなちゃん、どうしたらいい?」
移動した女子が挙手して明らかに僕らに向かってそう言ったけど、そんな、どかせるつもりじゃなかったのに。これ、うかつなこと言ってしまったから、気を使わせたんだよね? 男が優遇されているからって、これはちょっと違う。こう言う暴君は卒業したいんだから。
でも、もう空けたのに戻ってって言うのもあれだし。電車の中で席を譲ったのにいいですって言われたら気まずいし、それと同じ状況になってる。
って言うか、なんか教室しーんって静かになってる。こそこそって小さい話声はするけど、さっきまで騒がしかったのに。そんなに男って珍しいのか。うう。見られている気がする。
困ってかなちゃんの袖をひいて尋ねると、かなちゃんは振り向いて苦笑する。
「まぁ、ありがたく受け取ってもいいと思うけど」
「そ、そうかな」
「うん。なんか、私の席まで用意してくれているみたいだし」
「そ、そうだね。じゃあ、行こうか」
と言いながら、教室中の視線が集まっている気がして緊張するので、悪いけどかなちゃんを盾にするようにして背中をそっと押して、先に進んでもらう。
声に出してお願いしなくても、すぐに対応してくれるかなちゃんは、さすが僕の犬を長くしてくれただけあって、息ピッタリである。ほ、本当はあんまりよくないけど、最初だから。最初だけだから!
「ごめんね、ありがとう。私の席まで空けてもらって」
「いいよいいよ。男の子が一人だけで学校来るわけないんだし、むしろ連れてきてくれてありがとうって感じ」
「そうですよ。一列ずれても大したことありませんし」
先に座っていたのは、二人組の女の子で、ちょうど僕が脳内で座りたいと思っていた窓際一番後ろと、その前に座っていたのを、その一つ入り口側にズレて座ってくれた。
かなちゃんがお礼を言うと気さくにそう答えてくれた。優しい。もしかして、こっちでいうレディファースト的な感じで、このくらいなら気にしすぎないで受け取ったほうがいいのかな。
あ、僕もお礼言わなきゃ。ん、んん。声出せー。第一印象大事だぞ。隣だし、友達候補だ!
「あ、あの、ありがとう。と、隣、と、その前だし、よ、よろしく、お願いします」
「! あ、ああっ、こちらこそ、よろしく!」
「わ、私、高崎歩です! 彼氏募集中です!」
「あずるい! 私は木野山市子! 同じく募集中です!」
「あ、そ、そうなんだ……」
としか言えない。募集中って、それは僕に立候補しろってことなの? ナンパ? いやさすがに学校でそれはないし。と言うか断るけど、断って気まずくなっても嫌だし。
返答に困ってとりあえず相槌をうつ僕に、二人はしばしの沈黙にテンション高くしてくれた挨拶から、ゆっくり眉尻をさげた。
「……なんか、すべって、ごめんなさい」
「同じく」
あ、もしかして笑うとこだった? あー、こういうとこだよ、人との会話経験が出るの! えっと、何とかフォローしなきゃ。
「お、面白かった、よ?」
「ごめんなさい。普通に、これからお隣として、よろしくお願いします」
「私も、斜め前として、よろしく。あ、もちろんそっちの彼女も」
「う、うん」
ちらっとかなちゃんを見ると、かなちゃんは察したようで頷いて自己紹介してくれた。
「こちらこそ、よろしく。私は小林加南子で、こっちは幼馴染の酒井卓也だよ。たくちゃんはあんまり女の子に慣れてないから、ほどほどの距離感で仲良くしてもらえると嬉しい。ね?」
「う、うん。その、あんまりうまく話せないかも知れないけど、その、よろしく、お願いします」
「おー、そうなんだ。でもそんな気にしなくていいよ」
「私たちも、男友達は初めてなので、失礼なことあったらがんがん言ってください」
「そうそう。そういう感じで」
ほっ。いい人そうだ。最初はびっくりしたけど、そんなにこの間一回ナンパしてきた人みたいに男にがつがつしてる感じでもないし、普通に友達になれそう。ハードル低くてよかった!
これで、明日からのお昼にもしかなちゃんに用事ができていなくても困らないし、かなちゃんにも友達できたし、何もかも順調だ。
隣の席のさっきから敬語で話しているのが、おさげ髪の高崎さんで、かなちゃんの隣のボブカット? が木野山さん。うん、後でメモしておこう。
「あのー、ところで、連絡先の交換とか、どうすか?」
「せっかく何で4人でグループしません?」
「あー……はい」
グループ。知ってる。僕も使っている連絡用アプリで、何人も同時に会話するためのやつだ。したことないけど! こ、これが友達が増えると言うことか。何だかドキドキする。と言うか、どうやってやるの?
携帯を取り出しつつ、やり方がわからなくて途方に暮れてかなちゃんを見る。
「気が進まないなら、無理しなくても、私が入ってたくちゃんに連絡するけど?」
「あ、ううん、そうじゃなくて……やり方がわからなくて」
「あ、しますよ。見せてください」
「う、うん。お願い」
高崎さんに画面を見せて、言われるまま操作していくと、よくわかんないけどグループができていた。
ほ、ほおお。これが、グループ。なんか、凄い。
感動していると、ベルがなって担任の先生が入ってきた。いつの間にか、他の席も埋まっていた。結構静かなままだから気づかなかった。こういうところが、気が回らないって言うんだよね。気を付けよう。
でも何だか、とてもうまくいっている。僕の高校生活は最高の滑り出しだ。何だかうまくいきすぎて、恐い気もするけど、大丈夫、だよね?