師匠の悩み
俺は師匠から一週間逃げ続けた。
かなり成長したと思う。
日没が特訓終了の合図だが、一日中捕まらない日も結構あった。
日に日にステージを変え、いろんな場所で逃げ続けた。
俺の「ステルス」の熟練度もかなり上がった。
MAXで効果が30秒ほど持続する。
そして、「ステルス」を発動するときの呪文の詠唱もいらなくなった。
さらに、「ステルス」の効果が途中で解除できるようになった。
MAXまで「ステルス」を使い続けるとインターバルが三秒ほど必要なのだが、途中で解除すると秒数に応じて、インターバルも短くなる。
「そろそろ次の段階へ進もうか。」
「次は何をするんですか?」
「お待ちかねのモンスターとの戦闘さ。」
俺はまだ、モンスターとの戦闘を経験したことがない。
この前うっかりでかめのゴブリンを倒してしまったが、あれはノーカンだ。
俺は師匠に連れられ、ステラの南に位置する山をのぼった。
山の中腹辺りの開けた場所についた。奥には洞窟のようなものも見える。
師匠は荷物を置くと、俺に近づき、腕輪を付けた。
「師匠、なんですかこれは?」
「それはスキル封じの腕輪だ。弟子よ、君には『ステルス』無しでモンスターと闘ってもらう。」
「でも、モンスターなんて何処にも......」
すると、洞窟からタイミングを計ったかのように一匹のオークが現れた。
「あれはサムライオーク。普通のオークとさほど変わりはないが、彼らは剣を使う。そして基本的に一騎打ちしか行わない。君はあいつと闘ってもらう。」
「でも俺、モンスターとの戦い方なんてわかりませんよ。」
「考えるな。感じろ。」
師匠は、無責任な言葉を放ち、あぐらを組む。
「え?師匠は闘わないんですか?」
「言っただろう。彼らは一騎打ちしか行わないと。ほら、早く準備しないと、彼が待ちくたびれてるよ。」
俺は少し困惑しながら戦闘の準備をする。といっても、短剣くらいしか準備するものもないのですぐに終わり、右手に短剣を構える。
そして、サムライオークも剣を構え、こちらに向かって走りだした。
戦闘が始まった――――――
まずはオークが大きく一振り。俺はそれを受け止め......ない。
とっさによける。そしていったん距離をとる。姿勢を低くし、左手を地に付ける。そして拳を握りしめ、走り出す。俺は勢いよく、オークに向かっていく。そして...
「――――目潰し!!―――――」
「なっ...!」
俺は左手にもっていた砂をオークの顔面に向かって投げつける。
俺の攻撃になぜか師匠が声を上げ、オークは混乱している。
俺はすかさず後ろをとり、グサリ。
オークは急所を突かれたのか、ばたりと倒れる。
こうして俺は初めての戦闘に勝利した。
「師匠、やりました!」
「弟子よ。まだ終わっとらんぞ。」
初勝利の余韻に浸る間もなく、洞窟からまた一匹サムライオークが現れた。
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私の初めての弟子が今、サムライオークと闘っています。
最初は苦戦すると思っていました。なんせ初めての戦闘。
そして彼の最大の武器である「ステルス」も封じているので。
しかし、彼は先程から何度も何度もオークを倒しています。
彼は世間一般的に、卑怯だとか、姑息と呼ばれる手を使って勝利しています。
私は今、迷っています。彼には、この特訓で基礎的な剣術と体術を身に着けて欲しかったのですが、何か違うものを感じ取ってしまったようです。
まだ、初日なので卑怯な手は無し、と言ってしまえばまだ間に合うのですが...。
あの笑顔。オークを倒すたびにこちらに向けてくるあの、高校球児のようなさわやかな笑顔。
どうやら彼は、無意識のうちに卑怯な手を使っているようです。
私はいったいどうすればよいのでしょうか......。
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俺のオークとの修行は十日ほど続いた。
どうやら、洞窟のなかのオークをせん滅してしまったようだ。
最初こそは緊張したが、やってみればなんとかなるものだった。
師匠は、なんだか困ったような顔をしていたが、まあ俺の想定外の強さに困惑していたのだろう。
俺と師匠は、オークとの修行の間、ずっと野宿をしていた。
俺は初めての野宿に最初のうちはワクワクしていたものの、四日を過ぎたあたりから飽きていた。ていうか辛かった。
今日はようやく宿に帰ることができる。
ふかふかのベッドが待っている。
期待に心を躍らせながらステラの街に帰ってきた。
少しの間とはいえ、ここに帰ってくると何かこみあげてくるものが......ない。
俺たちは足早に宿へと向かった。
俺たちが宿に帰ってくると、アリアと見知らぬ少女がいた。
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