スパルタ
主観はタロウに戻っております。
―――――3日前――――――
俺は、ギルドで訳も分からぬままもてはやされた後、アリアと共に武器や防具、装飾品、その他いろいろと必要そうなものを、ステラのメインストリートで買いそろえた。
その後、アリアはなにやら用事があるらしく、俺は一人で先に宿へ向かった。
宿につくと早速買ってきた部屋着に着替えて、ベッドに飛び込む。
そして、数回寝返りをうち、仰向けの状態で落ち着く。
首にかかった冒険者カードを手に取る。
今日、ギルドでもらったものだ。
俺は盗賊を選択した。なにせ、俺のファーストスキルは「ステルス」。
盗賊が一番俺に合ってるだろう。
ちなみにアリアは「魔法剣士」だ。
これはゴールドランク以上の冒険者が就くことのできる上級職だ。
俺はそんなことを考えていると、いつの間にか眠ってしまっていた。
―――――翌朝
「ムーー!?ンーー!ンッ!?!?」
激しい痛みと共に朝を迎えた。
しかし、俺は声をあげることができない。
状況が理解できない!
何も理解できないまま俺は拘束された。
「まったく、情けない子だねー」
そこに犯人はいた。短い茶髪にスレンダーなボディ、そして身軽そうな服装をしている女性がそこに立っていた。
寝込みを襲うとはまさにこのこと。
ハッ!まさか!俺の貞操が危ない!
「朝っぱらから何をやってるんですか。」
そこに助け舟とも呼べるアリアがやってきた。
「盗賊としての資質を試したのさ」
「他にもやり方はあるでしょうに」
俺が、子猫のような目をしているとアリアが拘束を解いてくれた。
俺はほっと一息つく。
「紹介します。彼女はメリィ。私が知る限り、この街で一番の盗賊職です。
タロウ様には、メリィの稽古を受けてもらいます。私に盗賊のことはよくわからないので。」
「なぜ、俺がそんなことを?」
「それは、一刻も早く魔王を倒し、神様に会いた...この世界の民を救うためです。」
そういうことか、この人あの神様が好きだったのか。
もう、そこまで言っちゃったなら最後まで言えば良かったのに。
なんか悪いことしたようだがまあいいか。
「ということだ。今日からよろしく!弟子よ。」
「わかりました。よろしくお願いします。メリィさん。」
「師匠と呼びなさい。」
「は、はい。師匠。」
「うん。いい響きだ。」
こうして俺の盗賊としての特訓が始まった。
まずはスキルを使いこなす練習だ。
師匠も「ステルス」のことは知らないらしいのだが、基本的にスキル使い方は同じなので大丈夫とのこと。
最初のうちは実際にスキル名を口に出すと使えるらしい。慣れてくると、スキルをイメージすることで使えるようになるらしい。
「―――――ステルス―――――」
俺がスキルを唱えた瞬間頭からつま先へと黒い炎が俺を包み込み、そして消えた。
なんじゃこりゃ?黒い炎がボオッとしただけで何も起きんぞ。
十秒ほどしたところで再び黒い炎が上がる。
「ほう...。こりゃすごい。」
「何がすごいんですか師匠?」
「なんだ、君はわかんないのかい?
そうだ!いいこと思いついた!」
嫌な予感がする...。まだこの人と会って初日だが、もうそう感じてしまった。
「ヒソヒソヒソ...ゴニョゴニョゴニョ...。」
「そんなことして、何の意味があるんですか師匠。」
「まあ、やってみればわかるさ。」
俺は師匠に指示された通りに「ステルス」を唱える。
そして、近くで装備の手入れをしていたアリアに近づき、頭をなでる。
それと同時に再び黒い炎が上がる。
やっぱり、何もわからんじゃないか。
俺は師匠に文句を言ってやろうと振り向く。
するといきなり、後頭部に衝撃が走る。
そこから俺の記憶はない。
こうして、特訓一日目は終わった。
――――――翌朝
今日は静かに起きることが出来る。
俺は何とか昨日のことを思い出す。
昨日の特訓でいろいろと分かったことがある。
俺の「ステルス」は一定時間完全に気配を消すことが出来るってことだ。
それと、アリアは頭をなでるとキレるってことと、師匠は悪い奴ってことだ。
特訓二日目。
スキルは何度も使用していくうちに熟練度ってのがあがっていくらしい。
熟練度があがると、威力が増えたり、効果の持続時間が増えるらしい。俺の場合は後者だ。
「ってことで、弟子よ。今日は私から逃げ回ってもらいます。」
「何がどうなれば師匠から逃げ回らなきゃいけないんですか。」
「そこは汲み取ってくれよ。君は弟子なんだから。」
「はあ。スキルは使っていいんですか?」
「もちろんさ。範囲はステラの中、それと捕まったらお仕置きだから」
「なっ!ちょっと待ってください。それは――――」
「スタート」
俺が言い切る前にそのデスゲームは始まった。
スキルを使えば何とかなるかと思っていたが、師匠の名は伊達ではないらしい。
俺はその日、キャッチ・お仕置き・リリースを日が沈むまで繰り替えされた。
俺、師匠のこと嫌いかもしれない。
特訓三日目。
今日も昨日に引き続き、師匠から逃げ回る。
だが、今日はステラの近くの森にステージを変更した。
昼下がり。
俺はまだ師匠に捕まっていない。
昨日から成長したのか、それとも、森に移動したのが効いたのか。
なんにせよ、俺は最高に気分が良かった。
はっきり言おう。調子に乗った。それもかなり。
まるでおだてられた豚のように木に登った。
そして、勢いよく飛び移る。「ステルス」を交えながら。
片手に短剣を持ち、気分は忍者。
「うおらあああああ!」
凄まじい雄たけびが響く。師匠だ。
とっさに振り返り、「ステルス」を唱える。
そして再び前を向いて...
「な、ない...」
勝手に足場があると思い込んでいた。
俺は成す術もなく地面に突っ込んだつもりだった。
――――――ズゴォオオオオオオン
轟音があたりに響く。
「痛たたたたた」
丁度「ステルス」の効果が切れる。
俺の目の前には、ポカンとした表情の少女がいた。
状況が飲み込めない。
少女のもとへ踏み出そうとしたとき、足元の感触に違和感を感じる。
なにやら、かなり大きめのゴブリンだ。
頭部に俺の持っていた短剣が刺さっていた。
その刹那、俺はすべてを理解した。
改めて少女のほうに目をやると、目だった傷こそないが、ところどころ汚れた服装。そして何より、俯きながら小刻みに震えている。相当怖かったのだろう。
今の彼女に、俺はどう映っているだろうか。
救世主?命の恩人?白馬の王子様?
まあいい、それは置いといて、
「ほら、もうだいじょ――――」
「何してくれてんのよ!!!」
え...。
何が起きたんだ?
俺が唖然としていると、彼女はどこかへ駆けて行ってしまった。
俺の頭の中で先程彼女が発した言葉が繰り返される。
「また振られた.........」
俺は四つん這いになり、静かにつぶやく。
そこに、いつからいたのか師匠が歩み寄る。
彼女は片膝をつき、俺の肩に手を置いた。
まさか、師匠、俺のことを慰めて...。
なんて良い人なんだ。
師匠、俺はあんたのこと嫌いかもしれないって思ってた。
でも、間違いだった。
俺、一生あんたに付いてい――――――
「捕まえた♡」
こうして特訓三日目が終わった。
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