15の夜
今回は、すこしまじめな展開です。あと、ちょっと長いです。
...ここは、駆け出し冒険者の街ステラの近く森。
決して、凶暴なモンスターが多いとは言えないが、この森のモンスターたちは群れを作って行動することが多い。少し経験を積み、モンスターとの戦闘に慣れ始めた駆け出し冒険者のパーティーが狩場として利用する。
しかし、そんなことつゆ知らず、冒険者になりたてホヤホヤの4人組パーティーが足を踏み入れていた。
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知らない場所に脚を踏み入れ、ワクワクするこの感じ、そしていつモンスターと出くわすかわからないという緊張感。
そう!これよ!私が冒険者に憧れ、そして求めていたもの!
村を飛び出してきた甲斐があったわ。
最初は一人でどうなるかと思ったけどなんとかなるものね!
「何をニヤニヤしているんだいエレン。
もう少し緊張してくれてもいいんだが...。」
「ちょっと色々と思い出していたのよ」
エレンと呼ばれたその少女は、適当な返事をしたあと、実際にここに至るまでの経緯を思い出す。
こちら世界ではかなり珍しいとされる短い白髪に、いかにも冒険者らしい服装、そして腰に短剣を携えた少女、エレンである。
彼女はステラから北東に20キロほど行ったところにあるノノ村という、なんとも記者会見で泣きわめきそうな小さな村で育った。ノノ村は海岸沿いにあり、景色のいい日には魔王城が見えるという。魔王から直接的な攻撃はないのだが、なんせ魔王城だ。それを見ながら過ごすのは心臓に悪い。そんな暮らしに腹をたてたエレンは、いつしか冒険者に憧れ、そして冒険者を目指していた。そして、ついに彼女は昨日、こちらの世界で成人とみなされる15歳の誕生日を迎え、その夜ステラの街へ向かうために村を飛び出した。
彼女は生まれてこのかた村の外へあまり出たことが無かった。
そのため、ステラの街並みには大いに驚いた。
彼女にとって初めてのものばかりで、興味をそそるものはたくさんあったが、そんなものには目もくれず、彼女は一目散に冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの中では最近現れたという、すごいレアなスキルを持ったブロンズランクの冒険者の話で持ち切りだった。
しかし、エレンにとっては至極どうでもいい話だった。
エレンは冒険者登録を行い、職業は剣士をチョイスした。
エレンはノノ村で少しトレーニングを一人でやっていたのでブロンズランクというのは腑に落ちなかったが、まあ仕方ない。
エレンは一秒でも早く冒険に出かけたかった。しかし、流石に一人では少し不安だったのか、何やら冒険者ギルドの前に立ち、悩んでいると、最近冒険者になったという三人組のパーティーを捕まえた。彼らは既にクエストを受注し、狩場へ向かうところだったのだが、私をパーティーに加えて欲しいと頼んだところ、彼らも最初は困惑した表情をみせていたが、結局エレンをパーティーに迎え入れた。
こうして四人組パーティーとなったエレンとその一行は、すぐさま狩場へと出発した。
エレンを除く三人が昨日まで行っていたという狩場へと向かう。
しかし、その道中、ステラを出てすぐのところにある、いかにも冒険者が好みそうな森に、エレンが興味を惹かれ、森に行きたいと言い出した。
エレン以外の三人も、最初こそは反対したものの、いつもの狩場に少し飽きていたのか、エレンに押し切られた。
かくして、現在に至る。
四人は恐る恐る森の奥へと進んでいったがモンスターと出くわすことは無かった。
森へと侵入し一時間ほどたっただろうか。
少し開けた場所に、ギルドが設置したであろう休憩所とも呼べる小屋が見えてきた。
四人はそこで一旦休息をとることにした。
休息をとっている間、軽い自己紹介と陣形の確認が行われた。
エレンが加入してからドタバタとここまでやってきてしまったので、普通一番にすべきことが後回しになってしまっていた。こうした状況でモンスターと遭遇しなかったのは運が良かったのだろう。
まず、このパーティーのリーダーであるロイが口火を切る。
彼は、治癒術師でこのパーティーの精神的主柱でもある。
オーソドックスな茶髪、背も割と高く、意外とがっちりとしていて、顔もそれなりに整っているのだが、真面目で堅苦しい。普通の女にはまあまあモテそうだが、エレンの好みではない。
次に、高身長にかなりがっちりした体系の青年ジャックが立ち上がって話し始めた。
彼は、エレンと同じ剣士だ。綺麗な赤髪がトレードマークだ。
その後、長い黒髪に碧眼、いかにもって感じの杖をもった少女が落ち着きのある声で語り始めた。
彼女はリリ、魔法使いだ。水系の魔法が得意なんだとか。あと双子の妹がいるらしい。
そして最後に、エレンが話す。昨日の夜、村を抜け出してステラにやってきたというと、みんな驚いていた。
自己紹介も終わったところで、ロイを中心に軽く陣形を確認する。
前衛に盾役兼アタッカーのジャック。
中衛にアタッカー兼後衛のサポートのエレン。
後衛にロイとリリ、という布陣だ。
こうして、自己紹介と陣形確認を兼ねた十五分ほどの休息を終えると、森の奥を目指した。
小屋を出てすぐ、一匹のゴブリンと遭遇した。汚れた服に、刃こぼれのひどい短剣。たいしたやつではなさそうだ。そのゴブリンがこちらに気付き、襲い掛かってくる。
エレンにとって初めての戦闘だ。
まず、ジャックがゴブリンの剣を受け止める。そしてすかさず、エレンが勢いよく飛び出し、横から胸を一突き。見事に急所を貫いたようだ。
あっけない幕切れだった。
まさに、拍子抜け。初めての戦闘に気合十分で挑んだ、エレンはおろか、他の三人も、ポカンとした表情で立ち尽くしていた。
「エレン!すごいわね!」
「え、ええ。ありがとう。」
普段は冷静沈着なリリが声をあげる。
エレンとしては、なんだか煮え切らない感じだったが、素直に喜んでおくことにした。
それから、パーティーの雰囲気は明るいものだった。
彼ら曰く、昨日までも戦闘において、さほど苦労してきた訳ではないが、先程の戦闘のようにあっさりと決着がついたことは無かったようだ。
決して、彼らはこの戦闘を経て浮ついた訳ではないが、みな少し自信を持ったようだ。
そしてエレンはというと、今までこんなに褒められたことは無かったのですこぶる気分が良かった。
その後もレッドリザードやオークといったモンスターと出くわしたが、難なくねじ伏せた。
並みの駆け出し冒険者パーティーならばここで調子に乗ってしまうだろうが、そこはロイがしっかりと注意してくれていたので、心配はなかった。
しかし、機嫌がうなぎ上りのエレンが、戦闘中にちょくちょく発する、至極冒険者臭いセリフについては何も言わなかった。
一行は更に奥へと進む。
唐突に出来事は起こった。
ガサガサッと何とも怪しげな音が響く
「警戒しろっ!!」
ロイの引き締まった声が皆に緊張感を持たせる。
どんなモンスターが出てくるのかとエレンがウキウキしていると、音の正体は現れた。
「あれは...人?」
先頭のジャックが不思議そうな声でつぶやく。
そう、音の正体は、人。より詳しく言うのであれば、少女だった。
目に涙を浮かべながら、少女がこちらに駆けてくる。
「こんなところで、どうしたんだ?」
ジャックが片膝をつき、優しげな声で尋ねる。
少女はその問いに、指をさして応えた。
彼女が指をさしたのは、彼女が現れた方向だった。
するとそこにゴブリンの群れが現れた。彼女はゴブリンから逃げてきたのだ。
敵は、先程倒したものと同じサイズのゴブリンが四匹と、この群れのリーダーであろう、二回りほど大きいゴブリンが一匹。明らかにやばそうだ。
ロイの指示がなくとも、陣形を整える。皆がかなり引き締まった表情になる。エレンを除いては。
エレンはというと、「こういう状況待ってました!!」と言わんばかりのワクワクした表情だ。
少女はロイに抱きかかえられる。
そして、戦闘が始まった。
ゴブAが単独で特攻を仕掛ける。しかしこれは、あっさりとジャックが受け止め、エレンが一突き。
まず一匹。
これを見て焦ったのか、ゴブB、C、Dが三匹同時に襲い掛かる。
一方、リーダーゴブは腰を落とし、落ち着いた様子で戦況を見つめている。
ジャックがゴブB、Cを、エレンがゴブDを受け持つ形となった。
エレンはゴブDのでたらめな剣術を冷静で防ぎ、少々浅いものの一太刀浴びせる。
ジャックは二匹を相手どるのは初めてのようで、防戦一方だった。
「―――――水弾!!―――――」
リリが冷静に、魔法でジャックを援護する。
リリが放ったその魔法は、ゴブBに直撃、ゴブCにもかすり傷を負わせた。
ゴブBはそのまま後ろに倒れる。ゴブCは体勢を崩す。
その隙に、ジャックが攻勢に転じ、ゴブCを切り伏せ、倒れて苦しんでいたゴブBにもとどめを刺した。
たまたまその光景がゴブDの視界に入ってしまい、動揺したところをエレンが一突き。
時間はかかったものの、ゴブリンたちを一掃した。
ここで、ようやくリーダーゴブが重い腰を上げる。
それを見たロイが瞬時に指示を出す。
「撤退だ!!!」
彼は、治癒術師としてはまだまだだが、リーダーとしての才能はかなりあるようだ。
あのリーダーゴブが先程のゴブリンとは比べ物にならない強さを持っていることを感知していたのだろう。
他の者たちも薄々察していたのか、ロイの指示を受けるとすぐに撤退をはじめた。
......エレンを除いては。
「何をしているだエレン!!そいつはやばい!!」
「すぐに追いつくわ!先に行って!!」
少女を連れた三人は少し立ち止まり、エレンを連れ戻そうかと考えたが、エレンもそこまで馬鹿ではない、流石に2、3回剣を交えればすぐに後を追ってくるだろうと考え、先に撤退を計った。
しかし、エレンの心境は全く違ったものだった。
『こんな強敵との一騎打ちのチャンス、見過ごせるわけないわ!!
私ったらまだ冒険者になったばかりってのになんだかすごく冒険者してるわ!!
冒険者っぽいセリフも言えたし最高ね!!』
エレンがそんなことを考えているなか、リーダーゴブは余裕の表情を見せていた。
「ここを通りたくば、私を倒して行きなさい!!」
エレンは、またもそんな冒険者?臭いセリフを吐くと、リーダーゴブに向かって駆けだした。
そして一騎打ちが始まった―――――。
――――――結果から言うと、エレンの負けだ。完敗である。
これが、一騎打ちで無かったなら、少しは結果が変わっていたかもしれないが。
最初のうちこそ、エレンが勢いよく攻めていたが、リーダーゴブはこれを完全に防いだ。そして徐々に攻勢に転じ、最終的にエレンの剣を弾き飛ばした。エレンはなすすべもなくとどめを刺されるのを待つだけである。
『くそ、こいつ想像以上に強かったわ。でも不思議と悔いはないわね。
なかなか短い冒険者生活だったけどしょうがないわね。
ここは冒険者らしく、潔く死んでやるわ!』
意外にも、落ち着いた表情で死を覚悟するエレン。
そんなエレンの気持ちを察したのか、リーダーゴブは静かに頷き、剣を振りかざす。
そして、エレンへの敬意を込めて高く掲げた剣を振り下ろす!
その時...!
――――――ズゴォオオオオオオン―――――――
辺りに轟音が響き、リーダーゴブが立っていたところに中心に砂煙をまき散らす。
砂煙の中で黒い炎がボワッと燃え上がったと思うとさらにその中から、黒い髪に黒い目というこの辺りでは珍しい特徴を持った盗賊風の青年がリーダーゴブの死骸と共に現れた...。
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