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もっとも勇者らしい武器

 定期戦闘会は四日目に突入した。


 すでに決闘を終えた大半の生徒たちは、有力な生徒の試合観戦に精を出している。ちなみにレナもマリーもクラスメートや同じ学科の生徒相手に一勝をあげてノルマクリアだ。


 ともに男子で、彼女らのファンだった。手合わせできるだけでも幸せという連中だけに、二人は苦も無く試験をパスした格好だ。正直、うらやましい。


 かといって、俺に期待を寄せてくれた女子たちの誰かと戦うなんてことはできなかった。彼女たちは俺にギムを倒して欲しいと期待しているのだ。


 残された時間は目減りするばかりで、肉体の魔王化対策も万全とはほど遠い。


 改めて、俺はレナとともに学園の武器庫を訪れた。


 庫内に入るなり、薄暗い部屋の入り口付近でレナが息を吐く。


「本当にごめんなさい。巻き込みたく無かったのだけど……こんなことになってしまって」


 二人きりになった途端に、彼女は本音を漏らした。そういえば夜中に寮を抜け出しての剣術特訓は、ここ数日マリーとのそれに置き換わっていたので、レナとの二人だけの時間はなんだか久しぶりだ。


 もちろん森で魔族化して組み手をするとは、レナには言っていないし、言えるわけもない。


「こっちこそバタバタしっぱなしで、俺の世界の話の続きがずっと出来なくてごめんな」


「い、いいわよ! 気にしてない……というか、今は貴方の命がかかっているのよ? なんとかしないと。続きはこの試練を乗り越えた後のお楽しみにとっておきましょう」


 ピンチには違いないがレナは前向きになってくれた。


「そのためにも、なんとかしなきゃだな」


 魔王の力を遠慮無く使えばギムを退けることは簡単だ。が、その代償は計り知れない。最悪の場合、人間と魔族、双方から追われる身になるかもしれない。


 レナにはマリーの正体を未だに秘密にしている。彼女が高位魔族と知れば、レナもマリーを相手に聖剣を抜かざるを得ないだろう。


 レナは小さくほっぺたを膨らませた。


「なによ……心配してるのに他人事みたいな言い方して……」


「ごめんごめん。俺自身の命運を賭けた戦いだと肝に銘じるよ。それに、今日は最悪の事態に陥らないようにするために、ここに来たんだ」


 レナは不思議そうに首を傾げた。


「ええと……率直な意見を言わせてもらうけど、ここにある武器類じゃギムの聖斧イルメナイトには対抗できないわ」


 腰に提げた聖剣アレキサンドライトに視線を落とすと、レナは眉尻を下げながら続けた。


「武器の格としては同じだから、これを貸してあげられればいいのだけれど……」


「無理しないでくれ。聖剣はレナにとってもブルーラグーン家にとっても、大切なものなんだろ?」


 レナの頬がかすかに赤らんだ。


「う、うん。本当にしがらみが多すぎるわね……英雄の子孫っていうのも」


「気にするなって。もし俺が聖剣を手にしても、勇者のように使いこなせるわけないんだし」


 学園の武器庫にあった長剣でもやっとである。そもそも聖剣なんて手にしたら、魔王の肉体がどんな拒絶反応を起こすかもわからない。


 なにせ二百年前に自身を滅ぼした刃なのだから。


 レナは真面目な顔つきで改めて俺に訊く。


「それで、武器庫で何をするの?」


「こいつを借りようと思ってさ」


 部屋の隅に追いやられ、埃をかぶった巨大な装備品に俺は手を伸ばした。レナが素っ頓狂な声を上げる。


「え、ええ!? なんでこんなものを?」


「今の俺にはどうしても必要なんだ。それにレナも言っただろ? もっとも勇者らしい武器かもしれないって」


 双盾――巨大な二枚の盾がお目当てだ。左右の手に一枚ずつ構える壁のような大盾は、手にすると予想外にも……しっくりくる。俺の魔法力の波形と合致しているのかもしれない。普段持ち歩くには大きすぎるが、今はこの身を包むような大きさが必要なんだ。


「おっ! なんかいいぞ。今までで一番好感触な武器かもしれない」


 軽く振り回してみる。うん。良いな。大きくて取り回しに難こそあるが、見た目ほど重さを感じなかった。特別魔王の力を借りなくても、素のままでいけそうだ。


 レナがごくりとつばを呑み込む。


「まさか……タイガが盾使いだったなんて……」


「前に来た時は試して無かったからな。可能性は低いけど、もしかしたらって思ってさ」


「けど、盾術の先生はいないのよ? 今から技術を学ぶには時間もほとんど無いし……」


「そこは我流になるけど、今日からこいつを使ってレナに稽古を付けてほしいんだ」


 盾を壁に立てかけると、俺はそっと手を差し出した。レナは少しだけ考えるような素振りを見せながらも「どこまで聖斧に対抗できるかわからないけど、やるしか無いみたいね」と、頷きながら俺の手をとる。


 固い握手が交わされた。すぐに特訓開始だ。


 実は盾で腕を隠して、魔王の力を使う……というのも想定内だが、この案ばかりはレナに正直に相談できなかった。


 結局、ギムの一撃を双盾で防ぐも吹っ飛ばされて場外負け……という結末もあり得る話だが、それじゃあレナを守れない。


 俺がこの手と双盾でギム・ラムレットを止めるんだ。




 マリーには「しばらく暇をくれてやろう」と、休みを言い渡し、夜間の特訓もレナとのものに切り替えた。


 レナはわざわざ図書館で双盾の指南書を見つけてきてくれて、それに沿う形で彼女のコーチの元、基本の動きのレクチャーを受ける。


 基本的に盾は腕にベルトで巻き付けるように、固定して使うらしい。


 主に強力な一撃に対応するための防御法を中心に訓練した。とはいえ、スピード重視のレナが相手なので、実際に重たい攻撃を受けて試すことができなかったのは痛いところだ。


 攻撃方法は一つだけに絞った。盾を前に構えての突進(チヤージ)である。


 俺に勝ち目があるとすれば、場外にギムを落とすこの方法くらいしかない。盾の巨大さを利用する方法で、相手は目の前に壁が迫ってくるように錯覚するらしい。


 心理的な効果も含めての、突撃技だった。


 正直、レナのサポートがあるとはいえ本の知識だけでは心許ない。が、それでもやるしかない。


 勇者の末裔との実戦形式の特訓によって、俺の双盾はひとまず形にはなった……と、思いたいな。

次回も24:00に~

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