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名門だかなんだか知らないけど、やりたい放題だな

「タイガ様へのプレゼントはわたくしが安全かどうか確認いたしますわ」


 差し入れのクッキーを紙袋から鷲づかみにして取り出すと、毒味と称してマリーがすべて食べきる。これで最初にくれたルシアンのも含めて三袋目だ。


 レナが困り顔で呟いた。


「まずいことになったわね。このままだと……タイガは除籍退学かもしれないわ」


 いくら女子に囲まれたって、それは言い過ぎだろ。


「モテて退学ってことにはならないだろ? ないよね? ないですよね?」


 口を尖らせてレナは言う。


「ちょっと鼻の下が伸びててかっこ悪いわよ」


 レナの言葉に呼応するように、マリーの視線も鋭くなった。


「まさかにんげ……他の女子に興味がおありなのですかタイガ様?」


「いやいやいやいや! お、お前が一番に決まってるだろマリー」


 俺はこっそりレナに目配せする。レナは一瞬、ムッと怒ったような表情を浮かべたが、すぐに察して頷いた。


「そ、そうね。許嫁は大切にするべきよ」


 レナは笑顔を作るものの、目が笑っていない。


「あら? レナ様が後押ししてくださるなんて、とっても嬉しいですわ。これからも良いお友達でいましょうね?」


 スカートの裾をつまむようにして、淑女の礼をするマリーにレナはますます苦笑いだ。


 俺はせき払いを挟む。


「コホンッ! ……えー、ところで何がまずいかっていう話なんだけど……」


 レナはこちらに向き直ると表情を引き締めた。


「女子の騒動は関係ないわ。問題は貴方がギムと引き分けたという噂の方ね。おそらく……ギム自身が流させたものよ」


 ロディの私怨を疑ったが、そうじゃないどころかこれがギムの計算のうちだって?


「どうしてこんなことをするんだ? 俺みたいな劣等生と引き分けた噂なんて、あいつのプライドを傷つけるだけじゃないか?」


 レナは小さく息を吐きながら首を左右に振った。


「大戦士の末裔にして最強のギム・ラムレット……それと対等に渡り合った人間と、誰が決闘するというの?」


「あっ……そういうことか!」


 本気を出せばタイガ・シラーズはあのギム・ラムレットとやりあえる。そんな空気が学園内に蔓延しつつあるのだ。


 レナはさらに付け加えた。


「おそらく剣術初級クラスの生徒にも、ギムの手が回っているでしょうね」


 アーダ、イーヂ、ウードのケツから数えた方が早い三兄弟が、俺との決闘を拒否したのも圧力によるものか。


 マリーがニッコリ微笑んだ。


「問題ありませんわ。ここは許嫁のわたくしの星を、タイガ様に奪っていただけば済む話ですし」


 制服の襟につけた星にマリーがそっと手を伸ばす。


 が、レナはもう一度首を左右に振った。


「今まで慣例的に近接戦闘職は近接戦闘職同士、魔法職は魔法職同士で決闘をしてきたけど、昨日、突然それがルール化したみたいなの。決闘期間直前だし、こんな事は異例中の異例ね……」


 レナはそこから先の言葉を濁した。


 そんな暴挙ができるだけの権力をギムは持っている。昨日の小競り合いで判っていたことだが、ギムは教務局にも顔が利き、学園の講師や職員にもラムレット家の威光に逆らえる者は少ないんだ。


 そもそもこのルールは慣例化しているだけに、生徒たちからの反発も無い……どころか、ルール化したことを知らない人間の方が多そうだ。


 マリーの専攻が魔法系とわかった上で、俺が頼れないようピンポイントに弱点を突いてきたってわけだ。


「くそっ! 名門だかなんだか知らないけど、やりたい放題だな」


 レナがしゅんと肩を落とした。しまった彼女はこの世界でも名門中の名門の出身だ。


「ごめんなさい」


「レナはそうじゃないから! こっちこそごめん。俺の言い方が悪かった」


 一方、マリーはというと、取りかけた襟元の星を離して、指先の爪をペロリと舐める。俺をじっと見据えるその眼差しは、魔王に暗殺許可を求めるものだった。


 レナに気づかれないよう、そっと首を左右に振る。マリーは眉尻を下げ、うつむきながら「残念ですわね」と小声で漏らした。


 とにもかくにもどうしたものか。


 と、途方に暮れていると、まるで計っていたかのようなタイミングで、背後側の校舎に続くドアが突然開かれた。


 視線を向けると、小柄な出っ歯の斥候が背中を丸めて俺の前までやってくる。


 レナもマリーも軽蔑の眼差しだが、斥候のロディは動じない。


「いやぁレナ様、そんなに怖い顔しないでくだせぇよ。これからはギムの旦那の元で、一緒に仲良くやっていくことになるんですし」


 レナは「それだけはあり得ないわ」と、言葉で切って捨てる。


「はぁ……レナ様が旦那のクランに入らないのも、結局はそいつが原因なんでしょう? なら、いなくなっちまえば話も違ってくるでしょうに」


 ぎらついた眼差しを俺に向けて近づくと、ロディは一通の封書をこちらに手渡した。


 差出人の名前は無いが、裏には斧を交差させた紋様の赤い封蝋がされている。


「旦那直々に、おめぇをご指名だ。光栄に思えよ? まあ、受ける受けないは自由だがな。返答は今夜にでも訊かせてもらうぜ?」


 言い残すとロディは足音も立てずに、軽い身のこなしで屋上から立ち去った。


 地獄への招待状にレナが青ざめる。


「絶対に受けちゃだめよ。挑発に乗ったらそれこそ向こうの思うつぼだわ。ここはやっぱり……私がタイガと戦って……」


 俺がレナに負ければ戦う権利を失う代わり、マイナス評価を回避できる。


 ただ、問題というか懸念が残るのだ。


「それで俺がレナに星を献上するのは確かに手だ。だけどさ……それじゃあ俺はレナに守られっぱなしだ。俺は……レナを守りたい」


 途端にレナの顔が赤くなった。言ったこっちだって恥ずかしい。取りつくろうように俺は言葉を付け足す。


「べ、べべ別に変な意味はなくてさ、恩返しだよ! それに、きっと俺はレナをおびき寄せるためにダシにされてるんだ。俺を痛めつけてレナが戦うよう促す……とかさ」


「なら余計にタイガを戦わせるわけにはいかないわ」


 気丈に言って見せても、レナの瞳に宿る光は心細そうに揺らいでいる。


 マリーが口元を緩ませた。


「強がらずともよろしいのに。お二人とも決闘なんて受けなければ良いのですわ」


 それで済むならそうしたい。が、誰かがあの男を――ギム・ラムレットを止めなければ、学園はあいつに支配さちまう。


 俺は二人に告げた。


「結局、ギムにとってはどちらでもいいんだ。レナが決闘を受けようと受けまいと、今回の定期戦闘会で『自分がレナより上だ』って、格付けするつもりでいるんだろうな」

次回も24:00に~

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