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状況が良く呑み込めないんだけど

 昼休みに入った途端、女子生徒が数人、俺の元にやってきた。


 いつもの俺とレナとマリーのやりとりに騒いでいる子たちもみられるが、初めて見る顔もちらほらある。他のクラスの生徒だろうか。


 ボーイッシュな雰囲気の、褐色肌にベリーショートの赤毛少女が俺に詰め寄った。


「ねぇねぇ! タイガってあのギム・ラムレットと戦って引き分けたって本当? あ! ウチの名前はベリーニっていうんよ! よろしくねぇ」


「お、おう……よろしく」


「でさーどうなんどうなん? ギムとやった話って? ほらぁ、みんな噂は耳にしてるんだけどさ、引っ込み思案だから訊けなくって」


 だから彼女――ベリーニに白羽の矢が立ったというわけか。初対面ながら良くも悪くもなれなれしいというか、フレンドリーな彼女のノリにうっかり口を滑らせそうになった。


「さ、さあなぁ……どうだったかなぁ……」


 我ながら誤魔化すのが下手くそだ。と、思っていたらベリーニの背後に隠れていた少女がひょっこり顔を出した。


 茶髪のセミロングにふんわり髪の眼鏡の少女だ。おっとりとした垂れ目気味で、確か初級魔法学科でよく見かける女子だった。彼女は背中側に腕を回したまま俺に告げる。


「あ、あのぅ……る、ルシアンって言います。わたしたち平民の出なんですけど、タイガくんってやっぱり英雄の子孫なんですか?」


 レンズの向こう側で、オドオドとした瞳が不安そうにこちらをチラ見してくる。


「い、いや全然。そんなことないから」


 するとルシアンは嬉しそうに顔をほころばせた。


 少女は後ろに回していた腕をサッと前に出す。思わず身構えると……彼女の手にはピンクのリボンでラッピングされた小さな包みが収まっていた。


「あ、あの、今日の料理学の授業でクッキー焼いたので食べてください!」


 お、女の子の手作りクッキーだって!? 何かの罠か?


 俺が固まっていると、ベリーニが「ほらほらぁ受け取ってやんなよ!」と、ルシアンの差し出した紙の小袋を俺に押しつけるように手渡してきた。


「あ、ありがとう」


「おおおお口に合わなかったら捨ててください!」


 ルシアンはさっとベリーニの後ろに隠れてしまった。


 さらに次々に女子たちがやってきて、俺を取り囲む。


 いったいなんだ? なんなんだ!?


「え、ええと……状況が良く呑み込めないんだけど」


 こんな状況は想定外すぎる。


 今度は黒髪におかっぱの、小柄で出るところも引っ込むところも控えめな女の子が、両手をぐっと握って胸元に添えるようにしながら、身を乗り出して俺に言う。


「弓術科のカミカゼと申します。タイガ様の事はもう学園中で噂になってるんですよ! 以前から勇者の末裔のレナ様と懇意にしているから、実はすごい人かもしれないと。それが、大戦士の末裔のギム・ラムレットまで倒すだなんて……あ! ご、ごめんなさい! 引き分けですよね? 噂では限り無く勝ちに近い引き分けとうかがいました」


 そんな噂が昨日の今日でもう広まっていたのか。出所は……ロディ? しかしこの噂だと、ギムには面白くないんじゃないだろうか。


 俺なんかと引き分けだなんて、あの傲慢な男が許すとは思えないんだが、もしかしたらあの斥候の独断かもしれない。


 ギムに顔面を二度潰されてたからな。表向きはこびへつらっていても、恨みを抱くには充分だ。


 そんなことを考えていると、今度は青い髪のツインテール少女がやってきた。制服をラフに着崩して、胸元がはだけ気味だ。


 両手に嵌めた指ぬき革グラブから、おそらく格闘術学科が専攻だろう。


「おいらはリッキー! 先生が止めなきゃタイガ氏が勝ってたんッスよね? すっごいッスなぁ」


 男の子みたいな口振りだが、アスリート体型って感じはするものの、やっぱり出るところが出ている女の子だ。くびれた腰に手を当てて「わははわはは」と、笑うリッキーに俺は困惑しながら返す。


「いや誤解だって。あれはその……途中で先生が来なかったら今頃どうなっていたか」


 白状するとすぐさま赤髪のベリーニが食いついた。


「わああ。やっぱ戦ったのは本当だったんだねぇ? 謙遜しなくてもいいのにぃ」


 褐色肌の少女と並んで、リッキーが子犬みたいなキラキラした瞳で俺に告げる。


「つーかギムみたいな奴に気を遣わなくてもいいんじゃないッスか? あいつ超感じ悪いんスよ。だからマジで決闘がんばって欲しいッス! で、それはそれとして……タイガ氏ってレナさまと付き合ってるんスか?」


 リッキーが俺の手を両手で包むように握って迫った瞬間――


「わたくしのタイガ様になれなれしいですわね!」


「つ、つつつ付き合ってるってどういうことよ!? 放課後に剣で突き合うくらいはしているけど……は、恥ずかしいわ!」


 俺の後ろに控えていた二人が、一斉に声を上げた。


 そんなレナとマリーに羽交い締めにされて、俺は少女たちから引き離されたのである。


 我が世の春は嵐のように去って行った。




 と、思ったのもつかの間、行く先々で似たような女子からの熱い洗礼を受けることとなった。都合三回。まともに昼食を摂る暇も無いくらいだ。


 突然訪れたモテ期だが、タイミング的にあまりに空気を読んでいなさすぎる。


 が、そんな嵐が続いたおかげで、ここにきてようやく、なぜ女子人気が上がったのか解り始めた。


 敵の敵は味方というリバーシ理論である。


 彼女たちは「ギム・ラムレットとその一派は女子の敵」と口々にしていた。レナへの接し方を見れば、ギムは女の子を尊重するタイプとは言いがたい。


 加えてその取り巻き連中は、誰もが有力者の縁者だそうだ。特に平民出に対しては、平気でひどいことをするというのだから、女の子たちの評判も悪くなるのは当然だ。


 本当はもっと情報を集めたかったのだが、俺が女子たちに囲まれる度に、レナとマリーが大騒ぎである。しまいにはマリーが「寄らば斬る」と殺意混じりの空気を醸し出すまでに至ってしまった。


 そんなマリーをレナが諫めてくれたのだが、レナ自身もどうにも落ち着きがない。


 校舎内のどこにいても、代わる代わる女子たちに囲まれ質問攻めを受けるため、俺たちが行き着いたのは……人気の無い校舎の屋上だった。


 半ば追い立てられたような格好だが、さすがに女子たちも遠慮したのか、屋上までは追ってこなかった。

次回も24:00に~

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