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ここにこうしていられるのもレナのおかげだ

 一瞬、魔王モードに突入しそうになったのを自制して、俺はマリーに頭を下げる。


「助かったよ。マリー」


「そ、そそそ、そんな! これくらい当然ですわタイガ様!」


 マリーの慌て振りにレナが小さく吹き出した。


「ふふッ……あっ……ごめんなさい」


「かまいませんわ。それよりもお加減はいかがかしら?」


「とても楽になったわ。本当に……ありがとう」


 呟きながらレナの瞳からするりと一粒の雫がこぼれ落ちる。


「ど、どうしたレナ!?」


「あのねタイガ……私もギムと同じ人間なのよ。結局、力での解決方法しか知らない。こうなったのも自業自得だから……」


 俺はレナの手をとってじっと顔をのぞき込むようにしながら告げる。


「同じなわけあるか」


 彼女の優しさが無ければ今頃俺は野垂れ死にだ。もしくはなにかやらかして討伐部隊を編成されていたか、マリーによって魔王城に強制送還されていたに違いない。


「レナは俺が困っている時に助けてくれた。決して見捨てずに……ここにこうしていられるのもレナのおかげだ。レナが俺の話をきちんと聞いてくれたからだ。だから……あんな奴とは違う。レナは俺の命の恩人だよ」


「タイガ……」


 レナが少しだけ熱の籠もった吐息混じりの声色で俺の名を呼んだ……ところで、マリーが治療の手を止めて、目を細める。


「あらあら、お二人ともなんだかとっても親密ですのね? わたくしという者がありながら、タイガ様あんまりですわ」


「あ、ああ。誤解するなって。レナは俺の……大切な人には変わらないけど、恩人であってだな……そのなんというか……」


 しどろもどろになる俺に、マリーは「ええ、存じ上げておりましてよ。ご友人ですものね」と、淡々とした口振りだ。感情を抑えているのが見え見えで逆に怖いぞ。


 それからそっと、俺の耳元に桜色の唇を寄せてマリーは囁いた。


「先ほどは危うく本性をさらしかけましたが、次はこらえきれるかわかりませんわよ。今も限界ギリギリですもの」


 高位魔族の忠告――もとい脅迫に背筋がブルッと震える。それを悟られないように俺は「わかったから安心しろって」と、平然を装ってマリーに返した。


 明日から定期戦闘会期間だ。どう転がるかは予想も付かないが、もし俺がギムから決闘を挑まれたら回避する術はあるのだろうか? 拒否すれば卑怯者の烙印を押されるが、それでも戦うよりは幾分マシかもしれない。


 つまるところ、これだけは確実だ。


 もし俺がギムと戦い、命に関わるような敗北を喫すれば、俺の隣に控える黒髪の少女が、その正体をさらけ出して学園中で破壊と殺戮を繰り広げる。


 それだけはどうにか阻止しなければならなかった。


 かといって決闘をしなければ成績が危険水位になりそうだ。


 ああ、明日なんて来なきゃいいのに。







 日程通り定期戦闘会が開催の運びとなり、合わせて生徒同士の決闘も解禁された。


 期間は今週いっぱいだ。土日も学園の闘技場などが自由に利用出来るようになり、生徒たちは各々が戦いに挑むこととなった。


 といっても、平日午前中の座学の授業は変わらない。学園は半休状態で午後からの自由時間に決闘が行われる。


 細かいルールはあるらしいのだが、レナ曰く「基本は決闘状などでの申し込みから、双方の同意を得て、闘技場で決闘という流れ」とのことである。


 開始に先立ち、朝礼で生徒全員に宝石のはめ込まれた星形のバッチが配られた。それには魔法で持ち主の名前が刻まれている。


 決闘の結果、勝てば戦利品として相手のバッチを手に入れることができ、バッチを奪われた者は、この期間中の決闘する権利を失うのだ。


 ほとんどの生徒が一回の決闘で済ませるのだが、腕に自信のある生徒は星をかけて何度も戦うらしい。決着すると相手の星を総取りとなるため、自然と同数の星持ち同士が決闘をする傾向にあるのだとか。注目度の高い決闘にはギャラリーが集まり、大いに会場が賑わうそうだ。試験には違いないが半分はお祭りの様相である。


 最終的な評価は勝ち星の数で決まった。参加者の半分は初戦敗退でバッチを失うことになる。が、無論、勝者に劣れども戦った人間はきちんと評価はされるという。


 問題は、期間終了まで自分の星だけを持ち続けた人間だ。


 戦わなければマイナスの評価が下される。このペナルティは想像していた以上に、かなり大きなものだった


 今の俺の座学と実技の総合成績に、このマイナスが加わると赤点……学園からの退学もあり得るらしい。


 ちなみに生産系がメインの生徒の場合は、試験期間中が作品の展示会になるという。こちらは最悪、どんな出来映えだろうと出展さえすればセーフだ。ああ……試験前だけ生産系に転科できればいいのに。


 とはいえ、俺も今日までただ手をこまねいていたわけじゃない。


 相変わらず剣術実技の成績は下から数える方が圧倒的に早いのだが、だからこそ「タイガとかいう雑魚なら勝てる」と、思っている連中も多いに違いない。


 そこでなんとか一勝すれば今回の試験をパスできる……はずだった。


短くてゴメンね(切りどころ間違えた)

次回も24:00に更新! 急に賑やかになるとかなんとか

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