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誰にだって友人を自分の意志で選ぶ権利はあるはずだ!

 生徒たちが利用する訓練所や図書館などの公共施設とは別に、学園内の一角にはクラン棟の並び立つエリアがあった。


 クランを結成すると専用の部屋がもらえるというあたりも、部活に似ている気がする。


 そんなクラン棟エリアの奥に、集合住宅のようなクラン棟とは別に、庭付きの屋敷が建っていた。


 俺とレナが案内されたのは、その屋敷の庭園だ。


 コの字型に屋敷の建物に囲まれた中庭には、色とりどりの花が咲き乱れていた。


 手入れの行き届いた花園と、その中央に勇気の泉のレプリカらしき噴水まである。


 豪奢な建物にしろ立派な中庭にしろ、クラン棟にいくつもある個室とは比べものにならない。


 他のクランとは別格にして破格の待遇だ。


 俺とレナを待っていたのは金髪碧眼の、一見すると細身ながらもがっちりと筋肉密度の高そうな体躯の少年と、その取り巻きの一団だった。一応少年とはしたが、同じ年齢には思えないぞ。身長も並くらいの俺より頭一つ抜けている。


 総勢八人ほどだ。制服の差し色から、見れば一年生よりも二~三年生が多い。学園の制服自体は代わり映えないものの、八人とも整った身なりをしており、剣にせよ槍にせよマジックロッドにせよ、彼らの得物はどれも高価な代物に見えた。


 中央に陣取る首魁とおぼしき少年には、身にまとった精強な雰囲気から“強者”という言葉がぴったりと当てはまった。訓練などせずとも、生まれながらに強い獅子のようだ。


 目鼻立ちの整った美形だが、その眼差しは冷たい。見覚えのある長い柄の戦斧を背負った彼こそが、ギム・ラムレットその人だろう。


 幼なじみのレナを見る目も、変わらず冷たいままだ。久しぶりの再会を喜ぶような素振りも無い。


 一方レナはといえば、その視線に折れるようにうつむいてしまった。


「ギムの旦那! お連れしましたぜ」


 ロディがギムの陣営に溶け込むように加わった。


 ギムはゆっくりと口を開く。第一声は俺の隣に立つ少女に向けられた。


「久しいな。レナ」


 低く、それでいてくっきりとした声だ。


「……ええ。貴方のお祖父様が亡くなられた時以来かしら」


 下を向いたままレナは返した。


 意に介さずギムは俺に視線を向け直す。


「あと一人足りないようだが?」


 確認するようにギムは呟いた。すぐさまロディが耳打ちする。足りないというのは恐らくマリーの事だ。


 報告を聞き終えると「まあ良い……」と、ギムは淡々とした口振りで呟いた。


 レナが覚悟を決めたようにキュッと口を結び直すと、ゆっくり顔を上げてギムを睨み返す。


「それで、どういった用件かしら?」


「単刀直入に命じる。俺様のクランに入れ」


 担いだ戦斧を地面に突き刺し立てると、腕組みをしてギムは胸を張った。自分には「その権利がある」と言わんばかりの傲慢が匂い立つ。


 レナは小さく息を吐いた。


「入学に際し互いに干渉はしないと言ったはずよ?」


「貴様が誰にも加担せず独りを選ぶ……そういう条件だったはずだ。だが、蓋を開けてみれば孤高を貫くどころか、この有様では無いか」


 痛いところを突かれたようで、レナは口をつぐんだ。もしかして……彼女が責められてるのって俺のせいなのか?


 つい言葉が漏れる。


「いや、俺はレナのクランメンバーってわけじゃないし。世話になってるから、つるんでるように見えるけど……」


 ギムの眼差しが俺を射貫くように見据える。


「そもそも、なんだ貴様は?」


 レナの表情が凍り付いた。が、俺は臆せず返答する。


「なんだと問われても……俺はただの田舎者だよ」


 学園での俺は“そういう設定”だ。ギムは再び、レナに視線の矛先を向けた。


「勇者の末裔として慈悲を与えたとでもいうつもりか? 田舎者への施しなら充分だろう。その田舎者にも、そろそろ学園のルールが理解できたはずだ。レナよ……貴様がこれ以上、野良犬の面倒を看る必要は無い」


 言うに事欠いて犬扱いかよ!? ここにマリーがいなかったことだけが救いだな。


 太鼓持ちのようにロディが声を上げた。


「ひゃっひゃっひゃ! 流石でさぁ旦那! あの薄汚いド田舎野良犬野郎をこれ以上、勇者の末裔たるレナ様に近づけちゃなんねーですよ! 旦那のクランにこそレナ様は相応しいですって!」


 腹を抱えて笑う素振りを見せるロディに呼応して、他の取り巻き連中も俺を嘲笑する。


「や、やめなさい。タイガは私の大切な……友人よ」


 レナも弱気だ。ここで俺が身を引けばこれ以上迷惑を掛けずに済む。丸く収まるのかもしれない……って、俺まで弱気になってどうするんだ。


 俺はギムの顔を指さした。


「だ、誰にだって友人を自分の意志で選ぶ権利はあるはずだ!」


 緊張で声が震える。それでも言わずにはいられなかった。


 ギムは眉一つ動かさない。


「黙れ。レナは俺様とともに、学園を導く器なのだ。貴様ごときが関わり合いになること自体、おこがましい」


 レナは「勝手に……決めないでよ」と、蚊の鳴くような声で呟いた。


 俺は今一度深呼吸を挟んで、傲慢を絵に描いたような大戦士の末裔に、胸を張って告げる。


「レナが言えないみたいだから代わりに言ってやるよ。レナは誰の言いなりにもならない! 彼女の心は自由だ!」


 しがらみが無い。それが俺の数少ない取り柄だ。そんな俺だから言えることもある……と、思う。


 ずっと鉄面皮をかぶっていたギムの眉尻がピクリと反応した。


「貴様にレナの何がわかる?」


「少なくとも、俺はお前みたいに押しつけたりしない。俺には力も権力も無いし、出自だって誇れるものじゃない……けどな、そんな俺でも……たとえ全部を理解できなくても、レナの気持ちをちゃんと聞く耳と、彼女の言葉に真摯に向き合う気持ちくらいは持ってるんだ」


 柄にも無く大見得を切ると、俺はレナの手をとった。


「行こうレナ」


 彼女の腕を引くと……その足はまるで地面に打ち込まれた杭のように、ぴたりと動かなかった。


「タイガ……今がどういう時期か……わかってるの?」


 え、ええと……明日から定期戦闘会だ。


 ギムの脇でロディがニンマリと口元を緩ませた。


「あーらら。言ってくれるじゃねーの。おめぇ……そこまで言うんだったら逃げねぇよな?」


「逃げるって……あっ」


 思わず間抜けな声が出た


 ロディが愉快そうに続ける。


「おめぇギムの旦那に完全に売ってるよなぁ? だったら決闘で白黒ハッキリってのが筋じゃねぇか?」


「それは……その……だな」


 まずい。またやってしまった。勢いで選択を誤った。ギムだけは絶対に戦ってはいけない相手なんだ。


 俺の顔を指さしてロディが声を上げる。


「この身の程知らずが! 謝罪だ謝罪! 誠心誠意謝罪しろよ? そして二度とレナ様に近づかねぇって誓約しやがれ。そうしてから尻尾を巻いて逃げだせよ! ギムの旦那も逃げる痩せ犬までは追いかけて……」


 瞬間――


 ボゴッ……と、鈍い音を立てて、ロディの鼻がへしゃげる。顔面が陥没するように潰れた。

次回も24:00ジャストに~!

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