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お褒めにあずかり光栄だな

結局――俺は武器庫に無数にあった武器種の中から、最も手に馴染んだ長剣を選んだ。何の変哲もないシンプルな剣である。あれこれ試したからこそ、これが一番扱い易いという結論に至ったのだ。


 俺に別の武器の才能があるかと連れて来てくれたレナも、当ては外れたものの納得してくれた。


「長剣なら私も教えてあげられるし、それじゃあ今夜から特訓開始ね」


 武器庫を出るなりレナは俺に告げる。


「え? 今夜!? いきなりだな」


「特別レッスンよ。私が教えるのは蒼月流という、勇者の家系に伝わる独自流派ね。といっても、基本は学園で学ぶ王国規範剣術と同じだから、そんなに身構えなくても大丈夫。より実戦向けになっているから、ちょっと厳しいくらいよ」


 厳しいという言葉すら、愛の鞭だと思えばへっちゃらに思えた。


 レナの手ほどきを受けるということは、直系の子孫から勇者の剣術を学べるということだ。大チャンスに違いない。とはいえ、勇者に近づけるという嬉しさよりも先に、レナの性急さに驚き、心配してしまった。


 返事を待たずにレナは続ける。


「夜に寮にいても退屈でしょ? タイガの場合、他の生徒と同じ努力だけじゃまだまだ追いつけないみたいだし……こっそり抜け出して秘密特訓って、良いんじゃないかしら?」


「たしか夜間の無断外出って禁止じゃなかったか?」


「だからこそよ。マリーの目を盗むにはぴったりだし」


 おいおい勇者の末裔がルール違反をしていいのか? と、思う反面確かにそうだ。


 俺だって定期戦闘会で、勝てなくとも善戦できるくらいにはなりたいし。何よりレナが直々に剣術の稽古を付けてくれるなんて、ありがたいにもほどがある。


「わかった。それじゃあ今夜からさっそく頼む」


 俺が頭を下げるとレナは「良かった。勇者がルールを破っちゃだめだって言われるかもと、内心ドキドキしていたのよ」と、安堵の息を吐きつつ笑顔を浮かべた。




 夕食後にこっそり寮を抜け出して、俺は校舎の中庭にあるイチイの木の前でレナと待ち合わせた。


 お互いに決めた時間より、やや早めの到着だ。レナは急いで来たのか、少しだけ息を切らせていた。


「よかった。ちゃんと来てくれて」


「すっぽかすわけないだろ。ルームメイトもいないし、抜け出すのは楽だったけど……そっちは大丈夫なのか?」


「私もルームメイトがいると遠慮されちゃうから実質一人部屋なの。男女で寮が一緒なら、二人で同じ部屋でも良かったのに。秘密の共有者同士なら遠慮も隠し立てもいらないものね」


 レナははにかむように笑う。って、おいおい、それは色々とまずいって。


「なーんて、冗談よ。もしかして、ちょっぴりだけど本気にした?」


 彼女は悪戯っぽく舌を出す。


「か、からかうなよ。それより剣術の稽古を付けてくれるんだろ」


「ええ。初日だけど、実戦に即した形の訓練をしようと思うの。基礎的な訓練は学園の実技授業でやっているし……まずは自由に打ち込んでみてちょうだい。私は防御するから」


 剣を抜いて構えるレナの姿が、月明かりに照らされて神々しく見えた。


 ああ、なんとも様になっている。素人の俺から観ても達人のたたずまいがあった。


剣を抜き、自分も構える。


 が、打ち込む隙なんてまるで無い。授業で生半可に訓練したこともあってか、どう攻撃しても反撃されるイメージばかりがつきまとう。


「ほらどうしたの? 遠慮しなくていいわよ。私だって貴方に何度も斬りかかったんだし」


 冗談っぽくレナは笑った。ええい、覚悟を決めるしかないか。


「わかった……てやああああああああああああああ!」


 毎日素振りで何百回とやらされている、上段からの振り下ろしだ。


 レナの剣が反応した。流れるような動きで俺の打ち込みをいなす。


 俺の剣はレナの剣の表面を滑るようにして、地面を穿つ。まるで空振りしたような手応えだ。


 威力を地面に逃がす様は、さながら避雷針のようだった。


「うわ! なんだ!?」


「蒼月流、転の構え。剣に込めた魔法力で衝撃を緩和したの。もちろん、構え方とか技術的な修練あっての防御法だけど、これができるようになれば、自分より力の強い相手からの一撃も無効化できるわ」


 なにがどうしてそうなるのか、さっぱりわからない。ともあれ一朝一夕では会得しがたい技術なのだろう。


 俺の手が止まったのを見てレナは声を上げた。


「さあ! もっと打ってきてちょうだい!」


「お、おう!」


 剣を振り上げ、俺は再びレナと対峙した。




 それから二時間――俺はレナにひたすら斬りかかったが、有効打は一つとして無かった。予想されていた結果とはいえ、さすがにこうも実力の違いを見せつけられると凹む。


 レベル1勇者見習いにとって勇者の末裔は遙か高みの存在だ。


「タイガは筋が良いと思うわよ。こちらの予期していない攻撃もいくつかあったし」


 中庭のベンチに並んで座る。俺は荒くなった呼吸を整えるように夜空を仰いだ。


「ハァ……ハァ……ふぅ……お褒めにあずかり光栄だな」


「もう。皮肉っぽく言わないで。筋が良いというのは本当よ。勇者の末裔である私が保証するわ。タイガの場合、まだ技術が追いついていないだけでセンスはあると思うから」


 汗で全身がびしょ濡れだ。一方レナは涼しい顔のまま、汗の一滴もかいていなかった。


「明日からは飲み物とタオルを用意しておいた方が良さそうね。こっちで準備するから、タイガは特訓に集中してちょうだい」


「あ、ああ。何から何までありがとうな……レナ」


 じっと彼女の顔を見つめると、レナは伏し目がちになった。


 しおらしいユリのような清楚さに、彼女が持つそこはかとない気品が香り立つ。つい、見とれてしまった。


「ええと……見つめられると……恥ずかしいわ」


「ご、ごめん。レナが綺麗だから……つい」


「…………そんな風に言われたの……初めてかも」


 しまった。本音が漏れた。


「へ、変な意味じゃなくてそのあの……ごめん! 本当にやましい気持ちなんてないんだ!」


 慌てる俺にレナが「ぷふっ」と吹き出した。


「変な意味じゃないなら余計に嬉しいわ。タイガって不思議な人ね。ねぇ……タイガのいた世界のこと、そろそろ教えてほしいのだけれど」


 休憩がてら、ちょうどいい機会かもしれない。


「お、おう! お安い御用さ」


 剣術を教わったお礼には足りないだろうが、俺は俺の世界の事をレナに話すことにした。少しだけ誇張を交えて、面白おかしく。


 といっても、俺が話せることなんて日本の事やオタク文化のさわりについてくらいだけど。

次回も24:05ごろ!

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