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第45話○追憶編①~誰も知らないはずの歌~


 人生というのは、まるで一本の長い長い映画のようだ。

 必ず結末があり、誰にでも終わりが訪れる。


「人生も見たい場面に巻き戻せたり、お気に入りの場面を切り取って、違う場所に保存できたらいいのに……」


 公園のベンチで呟く独り言……

 誰も聞いていないのが唯一の救いだ。


(最近おかしい……)ともっと早くに気付くべきだった。


 今日は、あの有り得ない約束の手紙を書いた日から8年後の七夕……

 前年の11月1日に偶然見つけた思い出の日記帳と悠希(はるき)くんのクマのぬいぐるみ。

 封印が解けたように流れ込んできた記憶と不思議な声……

 過去に戻って全てが繋がり、自分の未来を知ったその日から約8ヶ月が経っていた。


 私は年明けから何となくだるさや喉に違和感があり、手足がむくんだり、たまに頭痛がすることが続いていた。

 それだけではなく、いつもの道で迷ったり、計算や料理に手間取ったり、人の名前が出てこない……など生活をしていて困ることが時々あった。

 最近それが特にひどくなり、何をするにもすぐにメモを取らないと忘れてしまう自分に妙な不安を感じ、先月ある病院に行った。


(大したことないだろう)と検査結果だけ聞いて早く帰ろうとしていたが……


 年配の医師に検査用紙を見せられながら、

「最近の症状は甲状腺機能低下症によるもので、若年性認知症も併発している可能性がある」と告げられた。


「忘れたくないなぁ……」


 私は、(今見た景色もすぐに忘れてしまうのだろうか)と目の前で遊ぶ幼い子供や犬達を呆然と眺めていた。


「子供がまだ小さいんだけどな……」


「迷惑かけたくないんだけどな……」


 呟いた独り言が砂時計のように消える。


「家事や仕事……出来なくなるのかな……」


「…………約束もあるのに…………」


 目の前の景色が何かで歪んでゆく。


「……全部……忘れちゃうのかな?……」


 全てを諦めようとしたその時、


 誰かが歌っている声がした。

 路上ライブだろうか?


 キーボードの音色と歌声のハーモニーが切なさに満ちていて、そのフレーズはどこか懐かしい感じがした。


 曲の終わりと共に聴衆の大きな拍手の音が聞こえる。


 私は引き寄せられるように音のする方に歩き出していた。


 公園の奥にある広場に着くと、雲一つない青空と芝生の濃い緑……

 小さなステージのように小高い丘と、その上に置かれた四本足のキーボード……


 30代位の女性アーティストだと思われる方が、弾き語りをしていた。


「……今の曲は、あるアニメ映画のエンディングになった曲なので、ご存じの方もいたかもしれません……」


「続いての曲は……今まで人前で歌ったことはなく、CDにもなっていないので『誰も知らない歌』と言ってもいいかもしれません」


「短いですが、私が初めて作った思い出の歌です。『風に乗せて』……」


~~~~~~~~~~


隣にいるだけで

なぜかあったかい気持ちになるよ

こんな時間がいつまでも

続けばいいなって願いをかけたのに


もう遅いかもしれないけど

伝えたいことがある


今この青い空に言おう

かけがえのない人それはあなただと

今まで言えなかった大切な言葉


いつも

いつでも

いつまでも

ずっと愛してる


~~~~~~~~~~


 私はその曲を聞いて愕然とした。


「この曲……どこかで…………」


 誰も知らないはずの歌と言っていたが、メロディーと歌詞が間違いなく以前聞いたことがある曲だった。

 何回も何回も繰り返して……


(どこだろう…………CM?)

(違う……もっと、記憶の奥底で…………)


 思い出す前に曲が終わってしまい、MCが始まる。


「お時間が来てしまったようで……残り1曲となりました」


「今まで色々な曲を作ってきましたが、次の曲は私がアーティスト人生の中で最後に作った歌です」


「私が音楽活動をしていて伝えたかったことが、この曲に詰まっていると思います」


「それでは最後に聞いて下さい」


「……『あなた』……」


 思い出のオルゴールを開けるような、切ないメロディーから始まる伴奏……

 その曲を聞きながら、私はなぜか自分が初めて作曲をした時の事を思い出していた。


 走馬灯のように次から次へと光景が浮かんでくる……

 

 まるで一本の映画のハイライトのような、

 私しか知らない秘密の話……


 日記には書いていない、

 忘れたくなかった今までの人生が……


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