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第39話■最後の日記編④~かけがえのない日々~


○年○月○日

今日は新年会の帰りに久し振りに大勢でカラオケに行った。

どうしても外せない用があるそうで悠希くんは来なかった。

多分彼女の所に行ったんだろうな……

カラオケは所長のおごりで嬉しかった。

誕生日翌日なんだからハッピーな歌を歌えばいいのに、気が付いたら失恋の歌ばっかり歌っていた。

なぜだかちっとも楽しくなかった。


(本当はそっち……行きたかったんだ……)


○月○日

今日からケアマネージャーとして訪問と居宅の合同事務所での勤務が始まった。

事務所のみんなに挨拶したら、早速悠希くんにバカにされた。

私にできるか不安だったけど丁寧に教えてくれる先輩もいるし、訪問先の担当の方が優しい方達ばかりでよかった。

早く一人前のケアマネージャーにならなきゃ。

悠希くんに「一緒に働くの不安」てバカにされないようにしっかりしなきゃ。


(正直この日、心の中でガッツポーズしてました)


○月○日

今日は訪問に行く途中、自転車で盛大に転んだ。

どしゃ降りの雨が降ってたから車で悠希くんに送って欲しかったのに……

断られるし滑って足はくじくわヒザ擦りむくわで最悪だった。

他の人が頼む時は送ってるくせに悠希くんのバカー!


(足もくじいてたなんて……やっぱり送ってやればよかったな……)


○月○日

今日も書類で手を切って血が出た。

痛かったけど悠希くんが絆創膏をくれて嬉しかった。

でも机に投げるんじゃなくて直接渡してくれたらもっと嬉しかったのにな……

見てないようで見ていたり、観察眼があるのでやっぱりヘルパーに向いていると思う。


(……お褒めの言葉ありがとう……)


○月○日

今日は朝から雨だったから事務所で書類を書いていたら、正体不明の液体が顔に飛んできてびっくりした。

悠希くんが着てた雨ガッパについた雨が、カギを投げた時にかかったものらしいけど……

どっちにしてもなんかやだし謝らないで出てくし本当に最悪!

第一カギを投げたら危ないでしょうが!!


(あの時はすみませんでしたっ……呆然とした顔がツボで忘れられない……)


○月○日

今日は私の大好きなラーメン屋に仕事が終わったらみんなで行こうという話になって、とても楽しみにしていた。

……のに悠希くんに伝えたら「春香が行くなら行かない」だって!

ラーメン食べたかったのに~悠希くんのバカバカバカ! 嫌い! 大っ嫌い!!


(食べ物の恨みは恐ろしいな……だから「行かないのか?」って何度も聞いたのに……)


○月○日

今日は七夕。

悠希くんの誕生日だけど、最近失礼なことばかり言うから今年は何にもあげないことにした。

……って思ってたけど、職場で会っちゃうし「今日は七夕だな~」とか言って豆知識語り出すし……

何もあげないのも心苦しいから、帰る前に机に肩たたき券を叩きつけてきた。

知らなかったけど七夕って七月七日の夕方のことを言うらしい……ほんとかな?


(ケンカ中だからって20代の男に肩たたき券はないだろう……小学生か)


○月○日

今日は帰り、台風のものすごい風で電車が止まった。

所長が悠希くんに私を送って行くよう言ったけど、彼女を迎えに行くから嫌だって……

歩いて帰ろうとしたら結局悠希くんが車で送ってくれた。

途中彼女さんも迎えに行って一緒に送ってもらう途中、なぜか泣きそうになった。

一瞬だけど変にリアルな夢を見たせいかな?

車の中が気まずくならないように後部座席から二人を盛り上げ、別れ際も手を振りながらわざと明るく振る舞った。


(そうだ……この時カギを持った手を振ってたから、瑠美にクマがお揃いなのばれたんだ……)


○月○日

今日は明美ちゃんの彼からまたメールが来た。

最初は明美ちゃんの誕生会の相談とかで連絡先を交換して普通にやり取りしてたけど……

最近、個人的なメールになってきた。

今日は「近くにいるから仕事帰りに二人でごはんに行こう」って来て、なんか不安だったから悠希くんに相談した。

悠希くんがいれば安心と思っちゃったけど、そもそも断らなきゃだめだよね……


(あの時は突然誘われてびっくりしたな……)


○月○日

今日も変なメールがきた。

残業しなきゃで一人でいるのが不安だったけど、悠希くんが私が帰る頃まで残ってたからよかった。

……といっても彼はずっと携帯ゲームをしていただけだけど……

話しかけても返事しないし、仕事ないなら早く帰ればいいのに……

そんなにゲーム面白いのかな?


(ゲームが面白くて帰らないなんて、ある訳ないだろうがっ)


○月○日

今日は仕事中に泣いてしまった。

しかも悠希くんの運転してた車の中で……

昨日のことを話しながら、助けて……悠希くん助けて……と思っている自分がいた。

「なんで二人で映画行ってんだよ」って怒られたけど、本当にそうだ……

本当に私はバカだ。


(助けて……って思いに気付かずに、一緒に映画行ったことばかり気にしていた僕こそバカだ)


○月○日

今日は残業中、昨日アレのせいで早退した時の件で悠希くんに文句を言った。

てっきり冷たい言葉で言い返してくると思ったら、実は心配してくれてたみたいで本当にびっくりした。

「具合が悪いんだったら俺に言え! 薬持ってたんだから」だって……

びっくりしてドキドキしてめちゃくちゃ嬉しかった。

最近一緒に残ってることが多かったけど、彼なりに心配してくれてたのかな?

みんながいると意地悪で冷たいけど、やっぱり優しい……

これがツンデレってやつなのかな~と帰り道、心の中がポカポカした。


……にしてもなんで周期知ってるの?


(今考えても恥ずかし過ぎる……しかもツンデレって……ポカポカしたって……)


○月○日

今日は旦那と些細な誤解から大喧嘩になった。

ドアを蹴り飛ばして出ていっちゃった後、部屋で泣いてた時に悠希くんから電話があった。

仕事の伝達で電話したみたいだけど……明るい声で出たのに泣いてたこと気付かれた。

今日は悠希くんちの近所で秋祭りの花火大会があったらしい。

「今度ある時は事前に教えてね」って約束したけど、すぐに忘れちゃうだろうな……

夜中、旦那が帰ってきて誤解が解けて仲直りできてよかった。


(約束ずっと覚えてたよ……あんなに嬉しそうな声で言われたら忘れられないだろ)


○月○日

昨日家で一人で泣いてたことを職場で悠希くんにばらされた。

「もう離婚だ」とはやし立てる悠希くんに悪ノリして、所長が「別れたら結婚してくれるって」とからかってきて焦った。

「別れればなんて前の職場のアイツにも言われてるし、それでも別れなかったんです~」って結構まずいこと言っちゃったけど、誰も聞いてないようでよかった。


(動揺して聞いてなかったけど、そんなこと言ってたのか……)


○月○日

今日、悠希くんがネット小説を見せてくれた。

お互いに好きだと一言も言わないまま生き別れ、死別してしまう男女の切ない恋愛小説。

普段冷めた感じなのに珍しく読んでって力説するから読んでみたら、めちゃめちゃ泣いてしまった。

主人公はなんとなく悠希くんに似ている気がする。

今まで好きなら好きって言わないと分からないって思ってたけど、違う言葉でも伝わる愛があるのかな?

小説の中で好きだという言葉の代わりに言ったであろう最後の言葉が、なぜだか妙に心に残った。


(だから読ませたかったんだ……最後の言葉……ずっと覚えててくれたんだな……)


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