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第32話○封印


「ただいま~」


 娘が小学校から帰ってきた。


「おかえりなさい」


 気が付いたら、私は二階の床に座り込んでいた。

 知らぬ間に零れていた涙を慌ててエプロンで拭きながら、日記とクマを胸に抱えて立ち上がった。


 もしこの日記を娘や夫が読んだらショックを受けるだろう……

 深く傷付けて家族がバラバラになってしまうかもしれない……

 そして、このままクマを持っていれば、もう一度戻りたいと思ってしまうかもしれない……


 そうならないよう、私は日記とお揃いのクマをある場所に埋めることにした。


 天井裏から偶然出てきた某テーマパークのお菓子の缶の中に、思い出の品を……思い出を全て封じ込めるようにビニール袋に入れ、口をギュッと固く閉じて詰める。


 引っ越しの時にうっかりしまってしまった箱のままでは長い間保存ができないからだ。


 蓋を閉めながら、ふと……夫との初デートで一緒に見た『秘密』という映画のことを思い出した。


 内容は真逆だが、主人公と同じように秘密を抱えて生きていくことになるとは……

 しかも彼と一緒に見た映画の題名『手紙』によって……

 運命とは皮肉なものだ。


 私は夫に対して愛情がないという訳ではない。

 むしろ彼に対する想いを恋と呼ぶのだとしたら、夫に対する想いは不変の愛だ。


 娘に至っては愛しているという言葉だけでは表し尽くせないくらい……自分の命と引き換えにしても、どんな苦しみが待っていても守りたい存在。


 昔好きだった人に会いたい……なんて想いは、本当は母親になった時点で捨て去らなければいけない感情なのかもしれない。


 でも忘れようと何度も頑張ったのに、なぜだかどうしても……どうしても消えてくれなかった。


 男とか女とか関係なく一人の人間として、どうしても伝えたい想いがあったからだ。


 一緒にいられないのなら、私に出来るのはせめて幸せに生きていて欲しいと願うこと。


 遠い未来の約束をすることで、ほんの一部でもいい、彼の生きる希望になりたかった。


 私は缶を……ある時まで開けることがないよう、自分だけが分かる暗号で書いたメモをある場所に入れて、ある場所に埋めた。


 深く深く穴を掘り、誰にも見つからないように……


 そしていつか作った歌のように、もうこれ以上遠くならないよう、会いたいと願わないと決めた。


 これからは前だけを見て生きていこう。


 その時まで思い出すことがないように。


 目の前にいる家族がずっと幸せでいられるように。


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