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第25話○最後の言葉


「行ってらっしゃい」


 訪問に出かける彼を見送り、最後の勤務時間の終わりが刻々と迫る頃、私はこの事務所の中であった色々なことを思い出していた。


雨粒をかけられ怒ったこと……

ラーメンを食べに行く行かないでケンカしたこと……

体調が悪い時に冷たい言葉を言ってきたけど、実は心配してくれていたこと……

二人で残業中、彼の前で泣いてしまった時に言われた思いも寄らなかった言葉……


 もっと他にも嬉しかったことや楽しかったことがあるはずなのに、彼との思い出ばかりが浮かんでは消えた。


 そして、彼が訪問の仕事から戻る前に帰る時間になった。


 挨拶を言って出ようとすると、所長から花束を渡されたのでびっくりした。

 彼が昨日のうちに用意しておいてくれたものだという。


 訪問先で仲良くなったヘルパーさん達も、挨拶や渡したいものがあるからと事務所に寄ってくれて私は更にびっくりした。

 出産祝いを事前に渡すのはアレだけど今しか渡せないから……と用意してくれたプレゼントの子供服や手紙を貰い、私は嬉しくて嬉しくて何度もお礼を言った。


「お世話になりました」


 外に出て、彼に会うことなく終わる寂しさを感じながら駅に向かう道を歩く。


(結局伝えたいこと……一番伝えたい人には伝えられなかったな……)


 別れ道を曲がろうとした時……


 自転車に乗った彼とすれ違った。


「……バイバイっ」


 私は笑顔で手を振るのが精一杯だった。


 彼は私を見て一瞬ハッとしたような表情をした後……呟くように「……バイバイ」と言った。


 それが私達が交わした最後の言葉だった。


 本当はありがとうと言いたかった……


 もっといっぱい話したかった……


 もっとそばに…………いたかった……


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