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第2話○邂逅


「行ってらっしゃい」


 小学生の娘を見送り、いつもと変わらない朝……

 今日は仕事が休みのため、ずっとしていなかった天井裏の大掃除をしようと決めていた。


 髪がショートなためか若い頃とあまり変わらないと言われつつも疲れやすくなった身体を誤魔化しながら、二階に向かう。

 階段を上った後のドキドキは、随分前で忘れてしまった恋のドキドキに似ている気がした。


「あれからどうしてるかな……」


 結婚し子供もいて幸せに暮らしているけれど、なぜかふとした瞬間にある人を思い出す。

 まるで心に穴が空いているような……

 心のどこかが凍ってしまっているような感覚……


 会えないのだからもう忘れようと必死に振り払いながら大掃除をしていた時、

 ある人との思い出のぬいぐるみと日記を見つけてしまった。


 そこには今だったらはっきり分かる、もう会えない彼への想いが綴られていた。


(あの時ちゃんと伝えていれば……お互い素直になれていたら……)


 日記を読んで涙が溢れて止まらない。

 思い出の小さなクマのぬいぐるみを握り締め、強く願った。


「もう一度……会いたい」


 ……急に心臓が苦しくなり倒れ込む……


(思ってはいけないことを思ったからバチが当たったんだ……)


 一緒にいた頃の記憶が走馬灯のように浮かぶ。


二人で映画を見た日……

結婚式に来てくれたこと……

送ってもらった車の中……

最後のカラオケ……

最後のお花見……

返したいものを届けに行った日……


 まるで今その場にいるような光景が目の前に浮かび、音までもが鮮明に感じられた。


 しばらくして意識を取り戻すと、目の前は昔の風景だった。


(……タイムスリップ?)


 心の中で呟くと、どこからか誰とも分からない声がした。


『タイムスリップじゃない……戻りたい瞬間に意識だけ飛ばしたんだ……』


 私が戻りたい瞬間……


 その日……

 いつもみんなの前では私に冷たくあたり、優しさのかけらも見せない程恥ずかしがり屋の彼と遅くまで二人きりになった日。


 私は泣いていた……

 前日にあった出来事から思い出したトラウマを彼に告白しながら……


 そんな私を見て彼が初めて真っ直ぐな好意を口にした時、なぜか私は言った。


「…………いつか……ね」


(あの時と別の答えを言っていたら何か変わっていたかもしれない、その瞬間に戻れたら……)


 時間は戻り、彼はあの時と同じことを言った。

 今度こそ言おうと思った瞬間、

 私は気付いた……


 もし彼の元にいってしまったら、

 大好きな娘が生まれなくなることに……


「…………いつか……ね」


 気が付いたら私はあの時と同じ言葉を言っていた。

 そして溢れようとした涙と想いを封じ込めるように目を閉じた……


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