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超短編2

悪いやつ。

作者: しおん

悪いやつがやってくる。

それは人の隙をついて人間の獣であるという本性を無理矢理に増幅させ、理性というストッパーを力任せに破壊させるのだ。


道行く人の何人か、それは人であるし獣でもある。要は程度の差なのだ。

緩んでしまった枷がその個人を維持するのにどれだけ重要なものなのか、それは十人十色各個人ごと大幅に異なる。そして元々機能してなかった止め金が緩むのと、いつ壊れるかわからないほど酷使していたものが無くなるのと、どちらがどれほど個人を維持するのに必要だったのか。それは結果を見てしまえば一目瞭然だ。


今の世の中は法律や秩序、モラルといったような人の心が安全、そして平和を維持している。人々はそれを守ることになんの疑念も抱かず、人々はそれから外れた存在を否定し疎外する。そして、冒頭で語った悪いやつは人が人であるための理性を欠落させ、結果として起きるであろう世間や日常という集団からの孤立を特異性だと自負させ矜持する。


そのせいで愚かな人間は自分が特別な存在なのだと錯覚し、自分に与えられた役目を天命だと信じて疑わない。その上自身を神だと称し、自分以外の存在に愚者というレッテルを張り付け自身の産み出した虚構に会心する。そのレッテルこそが自身を指していることも知らずに。


また、悪いやつはよく見えない。

日常の忙しさに紛れてやつはどこからか入ってくる。それはまさに招かれざる客。だというのに人はそれに気づけないし、誰もそれを認識できない。

変わってしまった自分のそれに疑念を抱くどころか不信感も抱かないまま人はやつを受け入れて、気づかれるようになった頃には役目を終えたのかどこにもいなくなる。


だからこそ、やつはたちが悪い。

認知されないままこの世をほっつき歩いて、我が物顔で人のなかに居座りいたずらを仕掛ける。彼の落とした小さな火種は至るところに火を撒いて、火が大きくなる頃には彼の姿はどこにもない。そこにいたというあり得ない感覚だけがそこに残され、本人たちは口をそろえて言うだろう。自分の意思ではない、操られていたんだと。


悪いやつはいつもどこかに漂っている。それはまるで空気か何かのように、私たちの生活と共に。

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