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美食家シリーズ

美食家の恋

作者: 陽向楽

「美味しい料理を作ろうとする過程って恋愛に似てると思うの」


唐突に何を言い出すのかと目を見開いて、先程の言葉を零した彼女を凝視した。

月が変わり寒さが深くなったため出したコタツ。その中で足を暖めながらテーブルで肘をつき、気怠げに視線をよこす彼女。


「料理をしないキミからなんでそんな言葉が出てきたのかな?」


皮肉に聞こえるかもしれないが、彼女は料理をしない。いっそ清々しいほど。サラダも作らなければ、チャーハンやお湯を沸かして混ぜるだけのインスタントの味噌汁だって作らない。レンジで温めるだけの冷凍食品だって作らない。厳密には料理じゃないかもしれないけれど。


「私は美味しいものしか食べたくないの。アナタも知っているでしょう?」


皮肉と捉えたのか、それとも心の中を読み取ったのかふてくされたように口を尖らせた。

幼い表情も魅力的だと思うのは惚れた欲目かもしれない。

傲慢に聞こえる美味しいものしか食べたくないという言葉すら彼女が言うのは当たり前に感じてしまうのだから。


「はいはい、そのために美味しい料理を作ってるんだからふてくされない。それで?なんで料理を作ろうとすることが恋愛みたいなの」


彼女ほど綺麗でおしゃれな人が食べるとすぐ連想できない食べ物が並ぶコタツの上。

こんな時期には!と彼女からリクエストを受けたもつ煮とピリ辛の大根の漬け物。そしてバランス良く食べて欲しいとつけたキャベツのサラダにほうれん草のお浸しがある。

もつ煮の煮汁にご飯を入れてもいいし、すこしだし汁を足してうどんを入れてもいいと〆の準備もばっちりしてある。いずれも意外に食べる彼女が大好きなもの。

これはすべて僕の手作りだ。


「美味しいものを食べたいな、食べさせたいなと思う食べ物に対する愛おしさ。作りたいものが決まったらそれにあう食材をえらぶじゃない?相性とか調味料も考えて。あとは美味しく作りたいと思ったら何度も何度も練習するでしょう?もっと良くしようとか、ここをこうしたら美味しくなるかなぁって。まるで愛する人を知って、その人のために頑張って着飾ったり美しくなったりしようとするみたいじゃない?お化粧はこんな感じが好みかしら?この服は可愛いと思ってくれるかな?もっと痩せたいとか胸はもっと大きい方がいいかしら?とかね。最高に美味しい料理を作るのと最高に素敵な自分を恋人の前に差し出すのって似てると思ったのよ」



料理は想像でしかないけれど、と締めくくった彼女。

おそらく視界の端に転がる二合瓶数本が彼女の普段は聞けない言葉の原因だとわかっているけれど。それでもこの溢れるばかりの愛しさを彼女に伝えなくてはと謎の使命感のもと、真っ赤になった彼女が強めに頭を叩いてくるまで美味しいくちびると彼女の反応を堪能した僕は悪くないと思う。



一晩置いたもつ煮を美味しく食べていたら、脳内で彼らがイチャイチャしていた。


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