再会、そして愛
キラキラ黄金に光るシャンデリアは嫌になるほど輝いていた。
夜会は嫌いだった。疲れるし、めんどくさいし、ためになるものはないと思っていた。
だから今日も適当に過ごそうとおもっていたのだ。
「国王陛下、ネンジュリス王子のご登場です!」
威勢のいい声で足を踏み入れる。
「お前に褒美をやるといったな。」
「…はい」
背中しか見えない国王に不安を抱く。父親はついて来いとでも言ってるかのように堂々と俺の前で歩いていた。
周りの人は国王の邪魔にならないように道を開ける。
「まぁ、とりあえず挨拶からだが、終わったら好きにしても良い。それが”褒美“だ。」
「……はぁ」
意図がわからず曖昧な返事になる。相変わらず父親の表情はわからなかった。
そんなことで、王座につき座る。
すると、待っていましたとでも言いたげな貴族達が挨拶に来た。次々にくる貴族。が、退屈し始めた頃俺は驚き思わず自分の目を疑った。
「陛下、ネンジュリス様、お久しぶりでございます。妻のナーシュルと娘のルイスです。」
国王に向けて説明した男の隣を見ると2人の女の人が立っており、1番端っこに久しぶりに見た姿があった。
ルイスも驚いたようで目を開いてこちらを見ている。
そんな2人をよそに国王と男の人が会話をしていた。
……そうか、父親の言っていた褒美とはこのことか。
そう、確信し先ほどの会話を思い返す。
「……では、失礼します。」
2人の会話が終わったところで、我に返った。気づけばルイスはもう後ろを振り返っている。焦る気持ちはあるが、立場上ここを離れるわけにはいかない。それに国王からの許しも出ているのだ。
膝の上に置いていた手に力を込めた。
やっと挨拶も終わり、次々くるご令嬢をはね返しルイスの居場所を探した。
早く会いたい。ただそれだけであった。
するとバルコニーの方に立っているのをみつけた。彼女は何かしているわけでもなく、ただただ外を眺めていた。
「ルイス」
彼女の名を呼ぶとルイスは勢い良く振り返った。
「…アーシャネット…」
そう、つぶやいた今にも泣きそうな顔のルイスに俺は少しずつ近付いて行った。
「…どうして、いきなり消えたりなんかしたのよ」
「…ごめん」
「私はどうしてって聞いてるの」
どうして、か。
なんて答えようか俺自身の中で迷っていた。それに、ここは人が多い。
「ちょっと、外にでないか?」
夜の虫の鳴き声を背景に2人は歩いていた。人通りも少なく、まわりには足音しか響いていなかった。
「俺さ、自分が出来るんだと思ってたんだよ。」
「…そうね、出会った頃はすごかったもの。」
「そんなに酷かった?」
「今と比べたらね。今はすごく丸くなった」
ふふ、とルイスが笑った。くるりとその場で回り、彼女の淡いブルーのドレスがふわっと広がる。
「私、下町が大好きなのよ。笑いが溢れて、すごく楽しそうじゃない??」
「だから、身分を隠して…」
「そうよ。身分はあの人達に仮面をつけさせるの。けれど私はあの人達の笑顔が好きなだけなのに。」
いつの間にかルイスの表情には影がさしていた。
「ルイス」
「なぁに?」
ルイスは、止まった俺に気づかず歩き続ける。その後ろ姿を見て俺は吸い込まれるように視線を離せられなかった。
気づかないようにしていたこの気持ちはもう止まることはできないほど膨らんでいる。
「好きだ」
小さな声でつぶやいたはずの言葉がやけに響いた。そして、ルイスにもしっかり聞こえたようで歩みが止まった。
「ルイスが下町が好きのは知ってる。1ヶ月も一緒にいたんだから。俺はルイスを縛るだけしかできない。だからこの気持ちだけ、知ってほしい。……ごめん」
そう、言い残すとくるりと後ろを向いた。
本当は彼女を1人にさせるべきじゃないというのはわかっているけど、今はそんな余裕はない。1人になりたかった。
俺は来た道を帰り始める。
「…………待って!」
ルイスの声に歩みを止める。
「アーシャネットは本当に馬鹿よ。私の気持ちなんてちっとも考えていないんだから!」
すると、俺の背中に温もりがひろがった。背後からルイスが抱きついたのだ。
「…好きよ、貴方のさりげない優しさが好き。」
「だけど、俺は」
「もちろん、下町の皆も好き。けれど、今貴方の手をにぎらなければこうして会うこともなくなるのでしょう?そんなこと、私は嫌よ。下町の人も、もし事情を知っていたらこう言うわ。”行きなさい“ってね。」
ルイスは抱きついていた腕を解くと俺の前に来た。そして笑顔で恥ずかしそうに頬を染める彼女は俺を求めるかのように両腕を広げた。
「好き」
ルイスのその1言で俺は彼女の胸に飛び込んだ。お互い、離れぬようしっかりと抱き合う。
今度は手放さないと心の中で誓って。
「今度2人で下町に行こう」
「えぇ!」
2人の約束は月と星だけが優しく見守っていた。
完結です!
ありがとうございました!